表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
我輩は猫魔導師である! 〜キジトラ・ルークの快適ネコ生活〜  作者: 猫神信仰研究会


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

112/282

109・カワウソは猫の手を借りたい


 水精霊さんとリルフィ様が面接している間、クラリス様に抱っこされた俺は、そわそわしながら尻尾を揺らしていた。

 リルフィさま……だいじょうぶかな……ハイライトさん、ちゃんとお仕事してるかな……


「ルーク様、そんなに不安そうな顔しなくても大丈夫ですよ。さっきも言いましたけど、水精霊様とリルフィ様はたぶんめちゃくちゃ相性いいです。割れ鍋に綴じ蓋……間違えました、水魚のまじわりってやつです」


 一瞬、本音が漏れたようだが、しかしアイシャさんがこうまで確信的な物言いをしているのはちょっと不思議である。


「リルフィ様はけっこう人見知りが激しいほうだと思うのですが、水精霊さんはそんなにフレンドリーなのですか?」

「……ふれんどりー……いえ、別にフレンドリーではないですね……で、でも大丈夫です! 好きなタイプであることは間違いないので!」


 俺はまばたきもせず、〈●〉〈●〉なお目々でじっとアイシャさんを見つめた。

 アイシャさんはたじろぎつつ、ふいっと視線を逸らす。


「……ルーク様は私のことをよく『陽キャ』って言いますけど、水精霊様はあんまり陽キャとは相性が良くありません。私も今でこそ魔導研究所での生活に慣れて丸くなりましたけど、昔はなんてゆーか……割とアレな子だったので……で、水精霊様の好きなタイプっていうのが、ちょっと心に闇を抱えていたり、自分に自信がなくて弱気な子だったり、あるいは泣き顔がよく似合う子だったり……まぁ……そういう感じなので……」


 声がだんだん小さくなり、いろいろボカす雰囲気になってきた。

 俺も察して耳を伏せる。


「……な、なんとなく理解しました……あくまでなんとなくですけど……」

 風精霊さんが俺の頭上にもたれかかる。

『水ちゃんは外面そとづらいいから大丈夫よ? 本人の好みはさておき、言動に害はないから。それより……他に、私達の祝福が欲しい子っているの?』


 俺は皆様を見回した。

 特に挙手はないが、ヨルダ様が顎を撫でている。


「上位精霊様の祝福ってのは、確かに貴重なものだが……そもそも、『属性魔法』の使い手じゃないと、あんまり使いこなせないんじゃなかったか?」


 この指摘に、風精霊さんが頷いた。


『そうねー。私達からの祝福には、一応、三つの効果があるの。一つ目は属性魔法の強化。二つ目は他の精霊に対する紹介状っていうか、身分証明。それから三つ目が、私達がその人の現状や居場所を確認したい時に使う「目印」……』


 ふむふむ。


『猫さんもたぶん、他の称号は無視されて、「風精霊の祝福」だけに反応されたことが何度かあったでしょ? 上位精霊からの称号には、他の精霊達に対して「この人は仲間だからよろしく」って伝える意味もあるの。だから、属性魔法の強化以外にも利点はあるんだけど……』

『いざこざに巻き込まれることも増えます! ぶっちゃけ、精霊が困った時に助けてくれそーな人とか、タダ働きさせても文句言わないお人好しとか、そういう人を狙って祝福してます!』


 火精霊さん……ぶっちゃけたな?

 俺の場合は単純に、「喋る猫さんとかおもしろそう」&「なんか心配だからしばらく見守ってあげよ……」という風精霊さんのお心遣いだったと思われるが、一般にはやはり、上位精霊からの祝福というのは「精霊にとって有為の人材」へ与えられる恩恵なのだろう。


 地精霊さんがクラリス様の肩に座る。


『いやいや、ーちゃんはあんまそーゆーの考えてないっしょ。その場のノリと勢いで祝福してね?』

『ノリと勢いは大事です! なによりも重要です! 火は勢いがないと消えちゃいます!』


 うーん。納得できるようなできないような……いや、火ーちゃんはそれで良い……そのままの君でいて。

 しかし、魔導師向けのバフがメインとなると、ヨルダ様とかサーシャさんにはあまり意味がないか――


「あ。ピタちゃんにはどうですか? 魔導師ではないですけど、魔法的な能力はありそうですし」

『ウサちゃんはもう持ってるしぃ。「大森林の守護兎」って、あーしがあげた称号。地属性の強化もコミコミ』


 なるほど……そういう例もあるのか。


『あーし、猫は好きだし、ほんとは猫さんにも祝福あげたいんだけどさぁ。重複すると干渉しちゃって、かたっぽが消えちゃうんだよねー。ま、称号とかヌキにして、風ちゃんのダチならあーしのダチだし、なんかあったら頼ってくれていーから!』


 地精霊さんがニカッと笑う。

 フレンドリーなのはありがたいが、火精霊さんや水精霊さんに比べて、まともな常識人感がすごいな……? 言葉遣いには聞き覚えのある訛り(?)があるものの、風精霊さんに次ぐ良識派といってよかろう。

 風精霊さんが、そんな地精霊さんと腕を組む。


ーちゃんは、私達の中で一番優しいの。水ちゃんはちょっとよくわかんないところがあって、ーちゃんは勢い任せで暴走しがちで、私はドライで気まぐれなとこがあるけど、地ーちゃんは普通に一番頼りになるから。猫さんも仲良くしておいたほうがいいよ?』

「はい! ぜひよろしくお願いします!」


 我々がそんな感じで親睦を深めていると――

 祭壇のほうから、リルフィ様と水精霊さんが戻ってこられた。


 水精霊さんは見るからにご機嫌であるが、リルフィ様はどことなく釈然としないお顔。

 落ち込んでいるとかそーゆー感じではなく、「緊張して臨んだ試験があまりに簡単すぎて肩透かし」みたいな雰囲気か?

 ……いや、むしろ誤答と空欄ばっかりだったのに何故か合格してしまって「何故?」と不思議がっている感じか。

 なにはともあれ、俺は安堵しつつその足元にたったかと駆け寄る。


「リルフィ様! 大丈夫ですか? 水精霊様からは、どんな質問をされたのですか?」

「えっと……特に当たり障りのない内容で……『ダンジョンに来た目的は』とか、『祝福を得て魔力が強くなったら何をしたいか』とか……そんな感じでしたね……」


 ………………あれ? フツーだな?

 すごくフツーの質問だな? そんなまともな面接だったの……?

 リルフィ様が嘘をついている様子はない。また、話していた時間もさほど長くはない。


 ……俺はアイシャさんや火精霊さんの言動に惑わされ、水精霊さんのことを誤解していたのかもしれない。『じんぶつずかん』を覗くと、リルフィ様の称号には確かに『水精霊の祝福』が追加されており、これは大幅パワーアップが期待できる。


 水精霊さん側の情報も確認したいところだが……上位精霊さんは、何故か『じんぶつずかん』にも『どうぶつずかん』にも載っていない。

 泉の精霊ステラちゃんやカブソンさんはそれぞれ載っているので、『精霊だから』という理由ではないだろう。やはり上位精霊様達は、人物とか動物とかの括りには入らぬ、ちょっと特別な存在なのだと思われる。


 浮遊する水精霊さんに向けて、俺はぺこりと頭を下げた。


「水精霊さん、リルフィ様への祝福をありがとうございます。それと、申し訳ありません。自分は水精霊さんのことを誤解していたかもしれません……」


 水精霊さんはかっくんと首を傾げ――へにゃっと笑った。


『え。あ。あー。いいよぉ、別にー。猫さんは風ちゃんのお友達だもん!』


 ………………気のせいだろうか。ちょっとした間のとり方に、違和感が……いや、ただの思い過ごしであろう。


 さて、そんなわけで、追加で上位精霊の祝福を得ようという同行者はいなかったのだが――


『それでは僭越せんえつながら、私から。先程の「クイズ」に正解した記念として、ロレンス様とウィルヘルム様に、ちょっとした称号を差し上げましょう』


 カブソンさん!

 そういえばここに来る前、迷宮の役割についてのご講義中に、「過去と現在の大きな違いについて、正解できたらご褒美をあげる」みたいなことを言っていた。

 最初に良い感じの解答へ到達したのがロレンス様で、最終的に正答を導いたのがウィルヘルム様だったため、こちらのお二人が何か貰えるらしい。


 カブソンさんが短い両腕を掲げた。ちんまい指がかわいい。


『私からお送りできる称号は、決して強力なものではありませんが……ロレンス様には「精霊の隣人」を。これは上位精霊様からの祝福ほどの効果はありませんが、下位精霊から友人として認識され、信頼を得やすくなります。魔力の強化などはありませんので、祝福の下位互換といったところですな』


 小さな光の球が一つ、ぽうっとホタルのように明滅しながら、ロレンス様の額へ吸い込まれた。

 さらにもう一つ、こちらはウィル君の眼前をゆらゆらと漂う。


『すでに風精霊様からの祝福をお持ちのウィルヘルム様には、「迷宮の探索者」を。これは迷宮を攻略した者に与えられることもありますので、巷ではよく知られた称号かと存じますが、ダンジョン内で財宝や資源、隠し扉や罠の類が近くにある場合、これを察知できる力です。出口へつながる道が光って見えるという効果もありますが、これは転移魔法を使えるウィルヘルム様にはあまり必要なさそうです』

「いえ、たいへん有用です。ありがたくいただきます」


 ウィル君はそつなくスマートに一礼。

 流れにびっくりしていたロレンス様も、慌てて頭をさげた。


「私も、感謝いたします。カブソン様、ありがとうございました」


 いーなー。

 クイズ正解のご褒美が称号というのも豪勢な話だが、なにより「カワイイカワウソさんから貰った」という付加価値がでかい。遊園地で着ぐるみのマスコットさんと握手してもらった記憶ぐらいでかい。

 俺も称号はともかくとして、後学のためにそのモフみをぜひ体感しておきたいのだが……


 思案して尻尾を揺らしていると、カブソンさんの視線が俺に向いた。


『さて、ルーク様。この際です。ここまで来たついでに、深層にいる「迷宮の主」を倒していくというのはいかがですか?』


 ……ん?

 ボス戦?

 いえ、それはちょっと……


『あー! それ見たいです! うちのアーちゃんを泣かせた戦力を披露してください!』

『わぁ。猫さん、あのキモいのやっつけてくれるの? たすかるー。ちょっと瘴気が溜まりすぎて強くなっちゃったから、このあたりの人間じゃ無理かなぁって思ってたんだぁー』

『ひゅーひゅー。猫ちゃんかっこいいー♪』


 三精霊こいつらッ……!

 俺はおろおろして風精霊さんを見上げた。

 風精霊さんは、にっこりと笑顔。


『ルーク、無理しなくていいからね? でも……倒して行ってくれたら、瘴気の浄化がいい感じに進むから、私も嬉しいけど』

「承りましたッ!」


 風精霊さんのお願いとあらば、ヘタレるわけにはいかぬ……! いかぬのだ!


 肉球をぐるんと大回転させた俺を見て、カブソンさんも微笑んだ。


『助かります。もちろん安全のため、事前にボスの姿と戦い方を確認していただきます。その上で問題がなさそうでしたら、離れた場所からルーク様の魔法を試しに使ってみるということで……それで難しいようでしたら、お帰りいただいて構いません』


 おや? 割と気軽に挑戦できる感じ……?


「えーと……ボス部屋って、中に入ると出られなくなったりとか、ボスからは逃げられないとか、そういう感じではないんですか?」


 前世のゲームだとそんな感じのが多かった気がするが、カブソンさんはびっくりしたよーに首を横に振った。


『まさかまさか。それでは死人が増えるばかりで、誰も迷宮の主を攻略できません。生存者がリトライと情報共有を重ねられない仕組みなど、このダンジョンにとっては百害あって一利なしです』


 む。確かにここは『魔物を倒すことで瘴気を浄化する』という目的の施設であり、決して『冒険者を殺すための罠』ではない。そりゃそーか。

 次いで、ウィル君も俺に教えてくれる。


「ルーク様、迷宮の主は迷宮の深奥で壁面と一体化しており、基本的には『動かない的』です。ただし長い腕や触手、魔法、投擲物や毒などを大量に用い、近づく者を蹴散らします。本体は動けないため、撤退しても追ってくることはありませんが、耐久力が高く、一般的な攻撃で倒すのは至難です。もちろん私でも無理ですが……姉上ならば勝てますし、実際、西方では魔族が精霊からの討伐依頼を受け、その報酬として資源や祝福を得ることもあります」


『迷宮の主とは生き物ではなく、「瘴気の噴出口」が魔物化したものなのです。頻繁に倒されればそこまで強くはならないのですが、この「古楽の迷宮」ではここ数十年、冒険者が主の討伐まで至らず――近隣国の侵略に抗する戦争などに、人手を割かれた影響もあるかと思います』


 ……いつの間にか溜まってしまったお風呂場のカビ汚れのよーなものか……?

 カブソンさんの説明にあわせて、さらにアイシャさんが俺に耳打ちをした。


「……先代陛下の浪費癖のせいで、国庫がヤバくなって、冒険者の優遇措置が削られたせいだと思います……もともと、そんなに実入りのいいダンジョンでもなかったので、優秀な冒険者が他国に流れちゃいまして……優秀な人達がいなくなると人材育成も滞るしで、冒険者ギルドの立て直しは、割と切実な問題だったりします。うちは魔導閥なので他人事だったんですが――」


 先代陛下さぁ……王位継承権の問題といい、本当にいろいろと余計な課題をバラまいてくれたものである……


「つまり、私が迷宮の主を一回倒せば――次以降のボスは弱体化して、しばらくの間は今いる冒険者の方々でも倒せるようになる感じですか?」

『はい。実は近いうちに、上位精霊様を通じて、純血の魔族のどなたかにご足労願おうかと検討していた矢先でした』


 俺は改めてみんなを見回す。


「では、ちょっと試してきますので……皆様はこのまま、こちらでお待ちください。通用しなさそうだったらすぐ戻ってきますので、どうかご心配なく! カブソンさん、道案内をお願いできますか?」

『承りました。すぐ傍まで転移でお連れできますので、どうぞこちらへ』


 大義名分を得た俺は、すかさずカブソンさんによじ登る。うーむ、モフい……これはたまらぬ。想像以上のモフみである。このまま3時間くらいお昼寝したいが、そうもいかぬ。


「あっ、あのっ! ルークさん、気をつけて……!」

「無理しないでね? 様子見だけして戻ってくればいいから」

「ルーク殿、盾役くらいなら俺でも……」

「お土産、楽しみにしてますねー」


 ……アイシャさんだけ異様にノリが軽いが、これはアレか……俺の猫魔法がボスに通じると疑ってない感じか。精霊さん達も心配してないっぽいし、これは意外と楽にイケる流れだろうか……?


 いや、油断は禁物!

 ヨルダ様にもこちらでお待ちいただくことにして、俺はカブソンさんの頭にへばりつく。


『では、まいりましょう。なに、「魔力測定器」をあんな状態にできたルーク様ならば、何も問題はありません』


 カブソンさんの確信の根拠はそこか! ……あのルーレット、もしかして最初から壊れていたのでは?


 そんなこんなで俺は、さんざん嫌がっていた「迷宮のボス」と対峙する羽目になったのである。


 ……はい。

 薄々、こーなるよーな気はしてました……

 

猫魔導師三巻・コミックス一巻、おかげさまで好評発売中のようです。

いつも応援ありがとうございます!

こちらの更新も引き続きがんばっていきますので、どうぞよしなにー。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
いよいよ「亜神の実力」が観られる展開! 戦闘特化では無いルークとはいえ、純血の魔族を遥かに凌駕する猫魔導士の強さが明らかに!
[一言] >先代陛下さぁ……王位継承権の問題といい、本当にいろいろと余計な課題をバラまいてくれたものである…… 撒いたのは問題であり種でもありっつーか… どうする?冥府から引きずり出す?出してシバいと…
[気になる点] いい加減自分の戦闘力改めろよ 普通の猫って通じるわけないやんw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ