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100・古楽の迷宮・進入


 クラッツ侯爵領の領都オルケストから、馬車で一時間ほど――

 ウィンドキャットさんではものの数秒の距離に、そのダンジョン、『古楽の迷宮』への入り口があった。


 訪れる冒険者のために道は整備されており、周囲にはのどかな田園風景が広がっている。ほとんどは小麦畑だが、野菜系もちらほらと見える。豊かな土地である。

 そして肝心のダンジョン入り口だが――

 まず、外観は「洞窟」ではなく、普通にでっかい建物が建っている。

 無骨な石造りで、大きめの門と跳ね橋を備え、周囲には水のない堀、いわゆる空堀からぼりがめぐらされている。

 ……完全に砦だな?

 けっこう大掛かりな土木工事だったはずだが、こちらの世界では『地属性の魔法』という便利なモノがあるため、魔導師さえいれば経費と労力はだいぶ圧縮できるらしい。


 そしてこの砦、「ダンジョンを外敵から守る」ためのものではなく、むしろ「ダンジョン内のモンスターが、万が一にも外へ出てこないように足止めする」ためのものであるらしい。

 だから空堀の周囲にはちょっとした防塁ぼうるいが築かれており、堀の内側へ矢とか魔法を撃ちやすいようになっている。


 俺はヨルダ様に背負っていただいたデイパックの中から、この光景を見つめる。

 興味津々のルークさんに向けて、観光案内のアイシャさんが追加情報をくれた。


「実際にこの堀を使ったことはないらしいですけどね。ここにダンジョンが見つかった時代の領主様が、慎重な方だったみたいで……今でも冒険者ギルドの出張所として使えてますし、治癒士も常駐してますし、部屋数は多くないですけど宿泊もできるんですよ。それにダンジョンに入った人員と出た人員をチェックできるので、行方不明者の捜索もしやすいですし、犯罪者が逃げ込んだりすることもありません」

「俺も中に入るのは初めてだ。隊商の警護をしていた頃、ここの領都に来たことは何度かあるんだが……旅の日程的に、ダンジョンの攻略までする余裕はなくてなぁ。今日は楽しみにしてきた」


 不敵に笑うヨルダ様、今日はフル装備である! 革の鎧に長剣、背には短弓と投擲用の手槍――他にも荷物はいろいろあったのだが、現在はシェルター内に置いてある。

 また、そちらにはクラリス様、リルフィ様、ピタちゃん、サーシャさんにウィル君が待機しており、みんなで優雅にお茶会をしている。

 俺も混ざりたいのは山々だが、キャットシェルターの出入り口の基準点はルークさん自身なので――俺が中に入ってしまうと、出入り口がその場所になってしまい、ダンジョン内部を移動できない。これは仕様なので仕方ない。


 そんなわけで、表の同行者は俺を背負ったヨルダ様、道案内のアイシャさん、それに「ダンジョン視察」の名目でついてきたロレンス様と、護衛の女騎士マリーシアさん。

 騒ぎを避けるため、ロレンス様の正体は冒険者ギルド側には伏せている。『アイシャさんの同行者』という扱いだ。

 それなのにシェルター内ではなく、わざわざ外に出てもらっているのは、「後日の目撃情報」が出た際に整合性を確保するためである。


 ロレンス様は今回、「アイシャさんの魔法を実地で見学する」という建前で外出と外泊を許された。

 そのアイシャさんが今、ここにいる以上――ロレンス様も一緒にいなければおかしい。たとえ一時的にせよ、行方が途絶えるのはよろしくない。


 もちろん、ダンジョンの出入りの管理がもっといい加減で、誰がいつ入ったのかとか一切が不問であれば、こんなことにまで気を回す必要はなかったのだが……

 現在のネルク王国には『迷宮管理法』なるダンジョン用の法律まで整備されており、たとえば他国の間諜とかが入り込まぬよう、ダンジョン突入時には代表者とパーティーメンバーの身分証をチェックされた上で、名簿にも記名をせねばならぬらしい。

 ロレンス様は今回、偽名での記載になる。提示する身分証も「王侯貴族用の、偽名で作られた身分証」であり、これは法的にも認められた王侯貴族の特権……いや、特権とゆーかむしろ、建前だけでも素性を隠すための「苦肉の策」か。

 王侯貴族が「その地位にふさわしくない場所」へ出向くときは、あえて偽名を使う――これは警備担当者や周囲の関係者に余計な負担や責任を負わせないための、昔ながらの慣習でもあるのだろう。


 空堀に掛かった跳ね橋を渡り、我々は冒険者ギルド出張所の窓口に辿り着いた。

 受付にはかわいい系のおねーさん。猫さんとしては積極的に媚びを売りたいところだが、生憎と今のルークさんはデイパックの中に隠れている。


「四名様ですね? 探索目的と、期間のご予定は?」

「目的は迷宮の視察、期間は二日から三日の予定です」


 アイシャさんがそつなく返答。二、三日というのは長く見積もっている。

 祭壇までは片道十時間から三十時間とのことだが、これは徒歩で休憩を挟んだ場合。

 ウィンドキャットさんがいれば、慎重にゆっくり飛んでもかなりの時短が期待できる。さらに帰り道はウィル君の転移魔法で入り口付近まで転移できるので、うまくいけば一日かからない。

 まぁ、これはかなり希望的観測なのだが、それ以上の時間がかかりそうなら、今回は途中で撤退すべきだろう。

 ちなみにこの「滞在予定期間」を大幅に過ぎると、ギルドから捜索隊が出されてしまう。ダンジョン突入時には、この捜索費用の原資となる掛け捨ての「保険料」をギルドに支払う必要があり、これが日本円にすると一人五百円くらい――入山料みたいな感覚? こういうところは、妙に合理的で現代的である。

 ついでに一年間有効なパスポートとかもある。一年で十回以上踏み込む人は、そっちのほうがお得だとか……テーマパーク?


 なお、自作自演の遭難&仲間による捜索報酬の搾取さくしゅを防ぐため、この「捜索」はギルド所属の専門部隊によって行われる。他の冒険者が見つけても報酬は発生せず、もし生きていたら救出対象者から礼金が貰えるかも? くらいの感覚である。


 受付のお姉さんが手続きをしながら、アイシャさんを上目遣いで見上げた。


「魔導師ギルド所属、アイシャ・アクエリア様……えっと、あの……失礼ですが、まさか王宮の……?」

「はい、宮廷魔導師ルーシャンの弟子です。今日はルーシャン様の指示で、視察の道案内を任されました」


 たちまち受付嬢が目を輝かせる。やっぱりアイシャさんは有名人なのか……。


「やっぱり! あの、お会いできて光栄ですっ! ええと、こちらからの警護や連絡要員等は必要でしょうか?」

「いえ、さほど深くには行きません。自生しているキノコの観察と、簡単な実験、採集が目的です。今日は、先行している冒険者の方々は多いのですか?」

「十組四十名前後ですね。うち八組は日帰りで、浅い階層での採掘や採集が目的です。二組は、少し深くまで行っているはずで――期間は一週間で申請されていて、今日が三日目になります」


 守秘義務とかは関係なく、ふつーに共有すべき情報である。迷宮は危険。冒険者達はお宝争奪の競合相手であると同時に、共にモンスターに立ち向かう戦友でもあるのだ。

 一週間の日程とのことだが、片道三日以上と考えると、その目的はおそらく下層の未踏区画のマッピング、及び財宝収集であろう。


 ヨルダ様、アイシャさん、ロレンス様、マリーシアさんで計四人分の保険料(入場料)を支払い、我々はさっそく奥の部屋へ通された。

 猫は無料……ていうか隠れたままなので、もちろん記名もしていない。たぶんペットの持ち込みは禁止であろうから、姿は見せられぬ。


 受付を抜けた先のお部屋は、ちょっとした広間であった。

 中央には地下へと続く石段。そこにはほこらのような石造りの屋根がついている。

 階段の横幅は両手を広げたヨルダ様二人分くらいで、要するにかなりでかい。

 砦は、この階段を囲むようにして後から建てられたわけだが――どういうわけか、この階段のほうが作りが新しそうに見える。


 アイシャさんが先導して、階段を降り始めた。

 ロレンス様もその後ろに続きながら、興味深そうに周囲を見回している。


「思ったよりも……きれいというか、新しそうな雰囲気ですね……?」


 俺がデイパックの中からつぶやくと、アイシャさんが笑って頷いた。


「実際、割と新しいですよ。前の『構造変化』から、まだ半年くらいしか経っていないはずですから。だからマッピングも、全部は終わってないんです」

「あっ……ダンジョンの構造がたまに変化する、という話は、先日もうかがいましたが……もしかして構造どころか、道とか壁とか、全部が新築っぽくなる感じなんですか?」

「はい。けっこう大掛かりに変わりますよ。出てくる魔物とか、財宝の傾向とかはあんまり変わらないんですが……壁の色とか模様とか、ほとんど別物になることが多いです」


 話しているうちに、地下一階へと到達する。

 そこに広がっていたのは、いわゆる「洞窟」系のダンジョンではなく――明らかに何者かの手によって建造された、「地下宮殿」であった。

 壁は石造り、床にも石畳がぴっちりと敷かれ、まるでお城のエントランスを思わせる。

 しかもところどころに電灯のような青白い魔力の照明が点っており、想像以上に明るい。前世の一般的な地下駐車場とかより全然明るい。

 通路の幅は、およそ10メートル前後か。

 天井も高く、人間が跳び上がって長剣を振っても到底届かない。

 まるで――『戦闘しやすい環境』を、製作者がわざわざ整備してくれているようにさえ思える。亜神ビーラダー様の心遣いだろうか?

 まだスタート地点だからかもしれないが、とにかく広大な場所であることは、奥から流れてくる風の気配で察せられた。


 そして、その風と一緒に――

 うっすらと、音楽も聞こえてくる。

 のんびりとしたクラシック風の、なんとも心穏やかになる曲調である。使用している楽器は「笛」だろうか?

 しかし、なんというか、この状況は……いかにもゲームのBGMっぽい。


 ロレンス様が目を輝かせた。


「音楽……本当に、スタート地点でも聞こえるのですね。『古楽の迷宮』では、この音楽の変化が重要な指標になると書物に書かれていました。深い階層へ進むにつれて、曲調が不気味なものに変化していき、心理的な圧迫を受けると――」


 アイシャさんが苦笑いをした。


「ええ、下のほうは、なんか、こう……気が滅入めいるんですよ。お師匠様が言うには、『恐怖』をあおる精神魔法の一種なんじゃないかって。ある程度の強さを持っている人にはまったく効かないらしいんですが、普通の人はもう逃げずにはいられないそうです」


 ……それはもしかしたら、「強さを測る指標」なのではなかろうか?

『この音楽を怖く感じたら、まだ実力不足だから引き返せ』的な……

 

 ひとまずエントランス的な空間の端っこに寄りながら、ヨルダ様がデイパックから俺を取り出した。にゃーん。


「さて、ルーク殿。まずはどうする?」

「序盤は他の冒険者とすれ違う可能性もありますし、このまま慎重に進みましょう。少し奥に行ったら、ヨルダ様達にも一時、シェルターに入っていただき、姿を消して私一匹でしばらく飛びます。その後は状況に応じて、とゆーことで」


 最初から俺一匹で飛んだほうが速い。それはわかる。わかるのだが、しかし……ルークさんはチキンである。とても臆病で怖がりな猫さんである。

 はじめての地下迷宮で単独行動できるほど肝が据わっていないし、でっかいクモとか出てきたら「フギャー!」と鳴きながら一目散に逃げ出すのは間違いない。

 ファンタジー物によく出てくる虫型モンスター、アレは本来、法律で規制しても良いくらいのヤバいクリーチャーである。

 せめてこの空間に慣れるまでは……! 敵の傾向とか、いろいろ把握できるまでは……! 頼れる同行者が必要なのだ……


 そんな感じに亜神がチキンムーブをかましていることなど気づかぬ様子で、ヨルダ様とアイシャさんはさっさと先を歩き始めた。

 その後ろにロレンス様。最後尾には騎士のマリーシアさん……なのだが、もちろん「真の最前列」と「真の最後尾」には、猫魔法によって現れた不可視の猫さん達が護衛としてついている。

 猫の旅団所属、近接戦特化の剣客集団、『サバトラ抜刀隊』の皆様――

 その実力は俺もまだ知らぬのだが、新撰組風の青いだんだら模様の羽織と袴、肉球マークの鉢金は、なかなかよくお似合いである。

 サバトラのサバとは「鯖」であり、すなわち「さかなへんに青」と書く。新鮮なお魚が大好きな、青いだんだら模様の剣客集団――幕末マニアの方々から怒られそうではあるが、戦力としてはとても頼りになるはずだ。


 なお、ロレンス様はすぐにシェルター内へご案内しようとしたのだが、「少しだけでいいので、自分の足でダンジョン内を歩いてみたいです」と言われてしまい……道案内のアイシャさんも「浅い階で私達も一緒なら全然問題ないです」と請け合ってくれたため、しばらくこのまま進むことになった。チキンハートのルークさんとはえらい違いである。男の子はこうでなくてはならぬ……ルークさんは……猫なので……まぁ……


 というわけで、ヨルダ様のデイパックから顔だけ出して周囲を見学。

 ロレンス様は、眼をキラキラさせて周辺を見回していた。

 俺も同じ景色を眺めながら、ふと思いついたことを口にする。


「アイシャさん、ここの壁や床ってかなり良質な石材っぽいですが、たとえば、切り出して外へ持ち出したりも可能なのでしょうか?」

「石切場としての利用、ってことですね。結論から言うと、壊すのにかなりの労力が必要ですが、『持ち出し』は可能です。ただ……外に出た時点で強度を失い、石材としては使い物にならなくなります。砂とまでは言いませんが、乾いた土みたいにぼろぼろと崩れてしまうんですよ。採掘される他の鉱物では、そのようなことは起きないんですが――ダンジョンの構造物は、精霊などの魔力によって強度を保っているのではないかという推論もあります」


 つまり、『ここ』でしか強度を保てない素材か……なかなか興味深い。

 俺の『キャットシェルター』も、内部にあるコタツなどの家具類は持ち出しできぬ仕様なのだが、あそこは『生身で入れるVR空間』という、なんだか矛盾した空間である。より正確に言うと、空間自体はちゃんとあるのだが、そこに置いてある家具類や周囲の景色が「データ的な幻影」に過ぎないという意味。

 魔力による構成物なので、触感とか温感とかは発生するのだが、外界に持ち出すと消えてしまう。

 もしかしたら……このダンジョンも、一定範囲にある『周辺の土』を、魔力で変化させて作っているのかもしれない。だから、ダンジョンを構成する石材は、外へ持ち出すと元の土に戻ってしまうのではなかろうか?


 どこからともなく流れてくる優雅な音楽をバックに、我々は石畳を踏みしめ、迷宮の奥地へと踏み込んでいく。

 分岐はけっこう多いが、斜めの分岐はなく、曲がり角は必ず直角である。

 方眼紙でマッピングしやすそうな親切設計であり、また「斜面」も特になく、基本的に平坦。これもまた、地図を作りやすい要素だろう。

 自然にできる鍾乳洞などでは、唐突に現れる「斜面」や「穴」が、踏破と帰還においてたいへんな障害となる。「降りたはいいけど戻れない」とか、想像するだけで恐ろしい。


 ダンジョンの奥へと進むうちに――

 俺は確信を深める。

 コレを作ったという亜神ビーラダーさんが、転生者なのか転移者なのかはわからぬが……おそらくその人物は、俺と同じ世界の出身者で、なおかつ「3Dダンジョン」系ゲームの経験者だ。

 しかも、初見殺しの罠などは一切作らない、誠実かつユーザビリティを重視するタイプの製作者である。

 いわゆる「財宝の隠し場所」とか「貴人の墓所」などには、盗掘者を容赦なく殺し、その心をへし折るための罠を仕掛けるものだ。史実はともかくとして、イメージでいうところの「ファラオの呪い」的なアレである。

 しかしこのダンジョンは、明らかに「侵入者を殺そう」とはしていない。

 むしろ――なるべく保護し、積極的にリピーターを確保しようとしているようにさえ思える。

 階が深くなればまた話は別なのだろうが、少なくとも現時点では、ほぼピクニックと変わらない。


「お、敵が出てきたぞ」


 ヨルダ様が立ち止まった。

 前方に人影。いや、人……? シルエットは、人っぽいのだが……


「土人形ですね……ドロップアイテムが何もないんですよ、アレ……」


 アイシャさんは残念そうに溜息。

 そう、まさに「土でできた動く人形」である。

 動きは緩慢で、武器なども持っていない。四体ほどが、ゆらりゆらりと無造作にこちらへ歩いてくる。ホラー映画のような不気味さはあるが、「迷宮の魔物」として考えると、あまり強そうには見えぬ。

 アイシャさんがヨルダ様に視線を向けた。


「魔法を使うほどの相手ではないので……ヨルダ様、お願いできますか? 首をはねれば、ただの土に戻ります」

「ん。特に気をつけるべき攻撃などはあるか?」

「握力が強いので、掴まれると内出血したり、下手すると骨を折られたりしますが……アレに掴まれるほど鈍い人は、冒険者なんてやっちゃいけないと思います」

「正論だな」


 ヨルダ様は笑い、俺が収まったデイパックをアイシャさんに預けた。ヨルダ様の背中は安定感もあり、視界も高くて居心地が良かったのだが、剣を振るうのに猫は邪魔であろう。仕方ない。


「ルーク殿を預かっておいてくれ。派手に動くと居心地が悪いだろうから」


 ヨルダ様はそのまま、のっしのっしと敵に近づき……

 急に素早く踏み込んで、長剣を一閃。

 直後、三体の土人形の首が、ぼとりとほぼ同時に落ちた。


 まともに見えぬ超速の斬撃……!

 ルークさんの動体視力は人間以上、猫並であるはずなのだが、生憎とぬるま湯に浸かったよーなゆるっゆるの生活を送っているため、だいぶ錆びついている。それを差し引いてもなお、眼にも止まらぬ早業と言って良い。

 残る一体も返す刃で首を落とされ、土人形は四つの土塊つちくれへと姿を変えた。


 思わず肉球で拍手をするルークさん。

「ヨルダ様! お見事です!」

「関節も骨もないただの土だから、簡単に斬れるんだ。こいつら、防御すらしないからな」

 ヨルダ様は悠然と刃を拭いて鞘に納めたが、アイシャさんは眼を見張り、マリーシアさんは茫然自失、ロレンス様は眼をキラキラさせていた。


「……強いだろうとは思ってましたけど、三体まとめて一撃は、さすがに予想外でした……」

「どっ、どちらで修行をされたのですか!? 流派は……!」

「さすがはリーデルハイン家の騎士団長……当主が達人なら、家臣もまた達人とは……」


 アイシャさんの背中から、俺はこっそりとロレンス様に耳打ちをする。


「ヨルダ様は、ライゼー様と義兄弟の杯をかわした間柄でして……ライゼー様にとっては、槍術の師でもあるのです。部下ではありつつ、師匠でもあるとゆー感じですね」

「師匠ってのは大袈裟だ。あと……マリーシア殿、俺やライゼーは、特定の流派に属していない。一応、親父やその仲間達から手ほどきを受けた身なんだが、そいつらの技のごちゃまぜだから――以前に手合わせをした剣士からは、『節操がない』なんて叱られたもんさ」


 そもそもヨルダ様は、剣も槍も弓も高いレベルで扱ってしまうやべぇ人である。剣術・槍術・弓術と、最低でも三つの流派に関わってきそう。ただ、ネルク王国では弓術がイマイチ発展していないようなので、これは師匠筋も含めて我流かもしれぬ。


 その後も我々は、幾度かモンスターに遭遇しつつ、また先行していた冒険者さんとすれ違って挨拶をしたりしつつ、より深い階層へと進んでいった。


 実に順調な――

 あまりに順調すぎて、逆に何かのフラグではないかと、不安になるほどだったのだが……

 もちろんフラグであった。


 ここまではあくまで安全圏。

『古楽の迷宮』、その真のスタートラインは、ここからもう少し先にある、地下四階以降だったのである。


いつも応援ありがとうございます!

おかげさまで、猫魔導師もいよいよ100話(番外編含まず)に到達しました。

特に何かイベントがあるわけではないのですが、こうして一つの区切りを迎えつつ、また来週以降もがんばって更新していく所存です。


そしてこのタイミングで、「コミックポルカ」にて、三國先生の猫魔導師コミック版第五話も更新されました。

例によってニコニコ静画では日曜お昼頃の更新になります。

遂に明かされるルークの正体!

……ブッシュ・ド・ノエルさんも……あんなことになってしまって……(※完食)

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― 新着の感想 ―
スライムの魔王リムルさま発案のダンジョン?
[一言] 空間自体はちゃんとあるのだが、そこに置いてある家具類や周囲の景色が「データ的な幻影」に過ぎないという意味 ___ (それVRでは無くARの方…
[一言] コミック版のリルフィ様の胸部やばい… なんというかやばいですね(語彙力)
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