情報
「さ、入るっスよ!」
洋館の中に入って行くセルイと詩音。
中は、寂れた外観とは違い綺麗だった。
誰も居ない広間を抜け、階段を上り、『C-101』と書かれたプレートがついた部屋をノックする。
「誰かしら?」
中から声がする。
「セルイっス。『リナは花』」
セルイがそう言うと、扉が開き、
中から露出度が高いドレスを身にまとった妖艶な金髪碧眼の女性が現れた。
「久しぶりね。それと、可愛い彼女さん、はじめまして。ね?」
彼女と言われ、詩音が否定する。
「な! 違うぞ! 私とセルイはそんな関係ではない!! 断じてない!!」
顔を赤くしながら否定する詩音に、女性は面白そうに笑い、
「ふふ、ごめんなさいね? 可愛い子が来るとついからかいたくなっちゃうのよ」
だから許してね? と女性は言う。そんな女性のペースを無視し、セルイが、
「遊びはここまでッスよ。ガイア、今日は情報屋としての仕事依頼っス」
その言葉に、女性=ガイアの顔つきが変わる。
「そう? それじゃ中に入って」
中に通されると、対面式に配置された椅子に座るよう促された。
遠慮なく座るセルイにつられて、詩音も座る。
ガイアも座ると、キセルをふかしながら、
「それで? 何が知りたいのかしら?」
「単刀直入に言うと、この子の父親を探してるっス」
あっさり言うセルイに詩音が付け足す。
「剣聖のホワイトパールと名乗っている……いた……かもしれないのだが! 何か知っていたら教えて欲しい!!」
「剣聖のホワイトパール? 聞かないわね」
即答されてしまい、
「そんな……」
一気に落ち込む詩音に、慌ててセルイが言う。
「あー、その。私は聖にいるって、どういう意味か知らないっスか?」
セルイの話にガイアは、
「それなら知ってるわ」
「詳しく教えて欲しいっス」
そう言うとセルイは束になったお金を出す。
ガイアは受け取ると、札束をパラパラとめくり、懐にしまうと、話始めた。
「私は聖にいるって言うのはね、とある教団の合言葉なのよ。教団名は聖リント。表向きは貧しい人々の救済を目的としているけれど、裏では、政界とも繋がっているきな臭い集団よ?」
ガイアの話に詩音は、
「誇り高い父上が、そんな教団とどう関わっていると言うのだ!?」
そう息巻く彼女に、ガイアは言う。
「どんなに清廉潔白の人でも、罪を犯す事だってあるわ。特にこのサクヤシティでは、綺麗事だけじゃ生きていけない。貴女もここに来て感じているんじゃなくて? 」
ガイアの言葉に、詩音は押し黙る。
それを見ていたセルイは、続きを促す。
「それで? その教団っていうのはどこにあるんスか?」
「それがね、わからないのよ」
「わからない? ってどういう事っスか?」
身を乗り出し聞くセルイに、ガイアが言う。
「元々はサクヤシティの南部に拠点があったんだけど、十数年前に突然消えてね? それ以来、情報が何もないのよ。噂すらないわ」
「政界にすら通じる教団がそんな簡単に消えるなんて……一体何があったんスかね?」
セルイが考える動作をすると、横に座っていた詩音が言う。
「……考え過ぎかもわからないんだが。父上が行方知れずになったのも十数年前なのだ。偶然とは思えない!」
その言葉に、ガイアが言う。
「確かに奇妙ね。もう少し調べてみる価値はありそう」
「!! なら!!」
そう言う詩音に、ガイアは、
「それじゃ追加料金をもらえるかしら?」
そう言ってお金のポーズをする。
「な!? 私にはそんなお金は無いぞ!? セルイ! どうしたらいい!?」
助けを求める詩音に、セルイは仕方ないなぁと言いながら、追加料金を支払った。
「毎度あり〜♡それじゃもう少し調べてみるわね?」
「頼んだっスよ。それじゃ、詩音はちょい先に出ててほしいっス。大人の話があるもんで」
唐突な子供扱いに、
「な!? 私は聖騎士だぞ!? ちゃんと成人の儀も終えている!! 立派な大人だ!!」
反論する詩音に、セルイは
「ハイハイ、わかったっスよ。オレが悪うございました! とにかく部屋からでて待ってて! オーケー?」
「なんだか納得行かないが仕方ない! 待っているから早くしてくれ!!」
そう言うと、詩音は部屋を出ていった。
それを確かめるとセルイはガイアに近寄り、お金を渡す。そして、聞く。
「オレと同じヤツを知らないっスか?」
その質問にガイアは、
「貴方と同じ……ね。本当かどうかはわからないけど、噂で東部の地下を最近牛耳ってる女が、吸血鬼じゃないかって言われてるわ」
それを聞くとセルイは離れ、
「サンキューっス。さすがはガイアっスね!」
「褒め言葉として受け取っておくわ、ご主人様?」
ガイアの言葉に、セルイは軽く頭をかくと、
「いい加減、その呼び名はやめてほしいっスけどね……。まぁいいや、また来るっス」
そう言って部屋を後にした。
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部屋を出ると、言いつけ通りに詩音が待っていた。
「それで? 大人の話とやらは終わったのか?」
少し不満げに言う詩音にセルイは苦笑いをすると、
「終わったっスよ。それじゃ聖騎士様? 次はどうするっスか?」
セルイの問いに、詩音はギターケースを抱え、
「南部に行ってみたい。もしかしたら手がかりがあるかもしれない」
詩音の言葉に、セルイが言う。
「わかったっスよ。そいじゃ、次は南部に行くっス。ここからじゃ電車のほうが早いっスね!」
「でんしゃ? とはなんだ?」
疑問符を浮かべる詩音に、
「人を運ぶ乗り物っスよ! さ、わかったら行くっス!」
そう言うと、二人は洋館を後にした。