同じと父
先に動いたのは敵の男達だった。
手にしていた機関銃で撃ってくる。
それをひらりとかわすと、詩音は機関銃を斬り裂いた。
そして、次々と右往左往する男達を斬っていく。
完全に詩音の独壇場だった。
その様子を見ていたセルイは、任せて大丈夫と判断し、ボディーガードの男と対峙した。
「オタクから殺るっス」
「子供は寝ていろ。大人しく魔剣を渡すんだな」
自信満々の男に向かって行く。
「トランス。ボウガンブレード」
チィトゥィリ・アルージェを変形させ、ボウガンを撃つ。男は頭に迫って来たのを左に避けてかわし、間合いに入って来る。
男のナイフをクロウダートで防ぐと、距離を取る。
(なかなか手強いっスね……。詩音は……大丈夫そうっスね)
「よそ見をしていていいのか?」
男が、セルイ目掛けて銃を放った。
かわせず頭に食らってしまう。
「セルイ! 貴様ら!!」
セルイに駆け寄ろうとする詩音を男達が邪魔をする。ので、詩音は一気に薙ぎ払った。
「セルイ! 大丈夫か!」
「馬鹿が! 頭に食らって生きている……わけ……が?」
金持ちそうな男の表情が見る見る青くなって行く。
セルイが起き上がったからだ。
「コレで、オレが魔剣なんて持ってないって理解しました?」
ゆっくりと詩音に支えられながら立ち上がると、
「そろそろ本気で終わらせるとしようか!」
セルイの口調が変わる。
「セルイ……?」
セルイの気配が変化した事を感じとった詩音は、味方のはずなのに、その威圧感に、素直に恐いと感じた。
セルイの周囲に黒い影が集まって来る。
「ひぃ!! な、なんなんだ! なんなんだお前は! 撃て!! 撃て!!」
金持ちそうな男はボディーガードの男にそう指示を出す。
ボディーガードは撃ちまくるが、セルイは気にしないかのように、たち続ける。
「ひぃ!! コレも魔剣の力か!?」
「だから違うと言っているだろう……馬鹿が。俺は……吸血鬼だ!」
そう言うと一瞬の内にボディーガードの横に立ち、
首筋に噛み付いた。
ボディーガードの男は、恍惚の表情を浮かべながら気を失っていき、失血死した。
死んだ男を乱暴に床に落とすと、金持ちそうな男に近寄って行く。
黒い影となったセルイに、銃を撃ちまくるが、それで当然倒れるはずもなく。
「ひぃぃ!! わかった! お前が魔剣を持っていない事はわかったから! 許してくれ!! 殺さないでくれ!!」
命乞いをする男に、セルイは冷たく言う。
「さようなら」
そう言って男に噛み付いた。金持ちそうな男は失禁しながら、失血死した。
その光景を見ていることしか出来なかった詩音は、改めて自分が何といるのかを実感した。
(吸血鬼……)
男の血を吸い終わると、セルイは元の姿に戻る。
「詩音。他はどうしたっスか?」
セルイの声に一瞬反応が遅れながら、詩音が返事をする。
「全員、倒したぞ」
その答えに満足そうな顔をすると、セルイは、
「さてと! それじゃ噂の元凶を断ちますか」
セルイの言葉に、はてなマークを浮かべる詩音。
「なぜわかる?」
「ああ、血を吸うとその人間の記憶が読めるんスよ。このおっさんの記憶を読んだってわけ」
セルイの説明に、
「……凄いな」
一言だけそう言うと詩音は大人しくなる。
その反応に、
「恐いっスか? オレが」
「……正直に言えば、恐かった」
「そうっスか」
オレから離れるか? と詩音に目で問うと、彼女は首を振り、
「お前は信頼出来る男だ。恐いからと離れる薄情者ではない!」
詩音の言葉にセルイは一瞬驚いた表情をすると、
「っスか」
それだけ言うと、セルイは荘厳な椅子を操作し、隠し部屋の仕掛けを動かし、扉を開ける。
すると、そこには沢山の剣が飾られていた。
「これは……」
「あのおっさんのコレクションっスね。魔剣を欲しがったのも、コレクター魂だったみたいっス」
アホっスね〜と言いながら中を進んで行く。
着いた先には、パソコンがあった。
「なんだそれは?」
詩音の質問に、
「パソコンっス。まあ分かりやすく言うと……なんスかね? 色々情報が得られる箱? みたいな?」
「なぜそんなに疑問符をつけるんだ?」
「説明が難しいんスよ!! とにかく、色々出来る箱! わかったっスか!?」
有無を言わせぬとセルイの目が語っていた。
大人しく見守る事にしたらしい詩音に、セルイは作業を始めた。
「コレをこうして、こうだ!」
キーボードを打ちながら、情報を見る。
そこには、情報屋と名乗る人物からのメールがあった。
「この情報屋が元凶っスね〜! さぁて嘘つき君、覚悟するっスよ〜!!」
セルイはそう言うと、情報屋とネットで接触する。
チャット画面を開き、
『どーも嘘つき君』
『誰だ?』
『わかんない? 君の嘘で大変迷惑を受けてる男ですよ』
『! 死なずのセルイか!』
『ほ〜う。理解が早くて助かる』
『……殺したのか?』
『そう思います? なら、君の置かれた状況もわかるよな?』
『俺は悪くない! そう噂を流せと脅されているんだ!! 助けてくれ!!』
『誰に?』
『それは……言えない! 言えないんだ! だが信じてくれ!』
『ほ〜う。なら覚悟する事ですね』
『待ってくれ! 誰がは言えないが、相手はアンタと同じだと言っていた! アンタの関係者だ!!』
『ほう。それは有益な情報ですね』
『だろ! だから!!』
『また連絡する』
情報屋とのチャットを終えると、詩音に声をかける。
「詩音、そろそろ行くっスよ? 詩音?」
返事がない。どうした? まだ残党が? そう思い焦りながら探すと、ある剣の前で止まっていた。
いや、かたまっていた。
「詩音? その剣がどうかしたっスか?」
そう声をかけると、詩音は震えた声で言う。
「これは、私の父上の剣だ!」
「父上って、えぇ!!」
驚くセルイに、詩音は続ける。
「私が幼い頃に行方しれずになったんだ それがどうして! この世界に父上の剣がある!? 父上もこの世界に来たのか!? 生きているのか!?」
軽くパニックを起こす詩音を、セルイは落ち着かせる。
「落ち着くっス! オレが記憶を見た限りでは、その剣はオークションで競り落としたみたいっス ! ここにはそれ以上の情報はないっス!」
セルイの話を聞き、少し落ち着いたのか
「……わかった。この剣は持って行っていいか?」
そう聞く詩音に、少し悩むと、
「指紋を残さないようにするならいいっスよ。むしろ都合がいいっスね。物取りだと思わせられる」
そう言うセルイに、
「……しもん? はわからないが証拠を残すなということだな? 理解した」
そう言うと、詩音は慎重に父の剣を手に取る。
セキリュティはこの部屋に入った時に切ってあった。
大事そうに抱える詩音を見ながら、
「それじゃ帰るっスよ」
そう言うと、二人は証拠を隠蔽し、家路に着いた。