違い
家に無事帰り着くと、セルイは仕込みの準備をするからと仕事部屋にこもってしまった。
結局、疑問に答えてもらえなかった詩音は、
手持ち無沙汰となり、部屋で素振りをする事にした。
「はっ! はっ! はっ!」
剣を握っていると、何も考えなくていい。
振ることだけに集中していると、あっという間に時間が経ち、セルイが仕事部屋から出てきた。
「ちょ! 部屋で素振りって危ないっしょ!」
開口一番に叱られてしまった。
「お前が私を放置するからだ! 全く、待つ身にもなって欲しい! それで、お前の言う吸血鬼とはなんだ!?」
詩音の言葉にセルイは頭をかくと、渋々と言った感じで話始めた。
「そっちの吸血鬼とこっちの吸血鬼がどこまで共通なのかはわかんねぇスけど、少なくともオレには日光もニンニクも十字架も聖水も効かないっス。眷属は作ろうと思えば作れるっスけど、今のオレの生活には不必要なんでいないっス」
セルイの説明に聞き入っていた詩音は、次の疑問に移る。
「それで、お前の命を狙っている連中が欲している剣とはなんだ?」
詩音の質問に、頭を押さえながら言う。
「それは、魔剣ノスフェラトゥって言う血を吸った量により威力が変わると言われているオカルト武器っスね。
オレがうっかり吸血しちまった後にフォローするの忘れたせいで魔剣を持っていると勘違いされたっス」
困るッスよね〜と両肩をすくめながらセルイは、軽く言う。
まるで命等気にしていないかのような口振りに、詩音は少し不快な気持ちになった。
だが、世話になっている手前、言うのは止めた。
その様子に気づいているのか居ないのか、セルイはトランクを持ち、
「さ、商売の時間ッスよ〜! 詩音も支度はオーケーっスか?」
「あ、ああ。いつでもかまわん」
(おかるととは何だったのか聞き忘れてしまったな)
タイミングを逃した彼女に、
それじゃ行くッスよ〜と言い、セルイが外に出る。
続けて詩音も出て、二人で街を歩きだした。
****
先程の市場とは違う、こじんまりとした市場の一角で、セルイは品物を並べ、
「良し! んじゃ、今日もいい取引が出来るといいっスね〜!」
そう言うと、ゆっくり座り、のんびりくつろぎ始めた。
「セルイ! のんびりしていていいのか!? 客は!?」
詩音の言葉に、
「その内来るから、詩音も落ち着くっス」
そう窘められ、渋々詩音も横に座る。
そうしていると、常連客らしき人物がやって来た。
「セルイや。いつものを頼むよ」
「ばーや! 了解ッスよ〜! はい!」
取り出したのはタバコだった。老婆はそれを手に取り、
「コレがないと生きて行けんでの。また頼むよ!」
そう言って代金を支払い、去っていった。
それから、数時間事に客が来ては物を売り、また客を待つという詩音にとっては退屈な時間が過ぎた。
「今日はこれくらいっスかね〜」
そう言うと、セルイは立ちあがり品物を片付け始めた。それを手伝いながら詩音が言う。
「私には商人は向いていないようだ。身体を動かしたくて仕方なかったぞ!」
「騎士様は忍耐力がないっスね! ま、若い姐さんには退屈過ぎましたかね〜」
からかいながら言うセルイに、
「何か私に合う仕事はないのか? こう、決闘場みたいな! 」
詩音の言葉に、セルイは頭を抱えながら言う。
「あのね、騎士様。ここじゃそーいうのは、あるっちゃあるけど裏稼業っス! 手出しちゃ完全に道踏み外すッスよ? つか、そもそも聖騎士なんならそんなの出たら不味いんじゃないんスか?」
ぐうの音も出ない正論を言われ、詩音は肩を落とし、
「くぅ……異世界とは厳しいものだな……」
まるでこの世の終わりかのような表情に、笑いそうになるセルイだったが、我慢し、
「さぁて、帰るっスかね!」
片付けを終えトランクを持ち、足早に闇市から出ていく。
それに続く詩音だった。
****
家に帰り着くと、部屋の中が荒らされていた。
「強盗!?」
詩音の言葉でセルイは頭をかきながら、
「連中、とうとう盗みに入ったか〜!」
困った顔で詩音に言う。
「ここまでやられちゃ、こっちもやるしかないっスよね……。いい加減にして欲しいし」
セルイの殺気に、詩音は身内ながら冷や汗を流す。頭の中で警鐘が鳴る。
彼を怒らせては行けないと。
「……どうする気だ?」
詩音の問いに、
「そりゃあ、やられたらやり返すまでッスよ。……詩音は無理して来なくてもいいっスよ? 聖騎士様の仕事じゃないっス」
軽口だが、殺意を隠さないセルイの言葉に、
「……お前には世話になっている。そして私には剣くらいしか能がない。役立たせてくれ」
詩音の決意を感じたセルイは、
「それじゃ行くっスかね。いざ、悪者退治に!」