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記憶

 翌朝になり、セルイは目を覚ますと顔を洗い、キッチンに立つ。


「さてと! 詩音が起きてくる前に作っちゃいますか!」


 今日は何にしようかな〜。考えながら冷蔵庫を見て、


「よし! 今日はサンドウィッチっスね!」


 そう独り言を言うと、調理に取り掛かる。しばらくして、詩音が起きて来た。


「おはようっス! 今出来たとこっスから、椅子に座って待ってて!!」


「……おはよう。ふぁ。……まだ眠いんだが……」


 そう言いながら、詩音は大人しく椅子に座る。それを確認すると、テーブルにハムとタマゴのサンドウィッチを置く。


「はい! どーぞ、めしあがれ!!」


「パンで食材を挟んでいるのか? 似たような料理が私の世界にもあったぞ!! ……?」


 言いかけて止まる詩音に、セルイが首を傾げる。


「どーしたんスか?」


「……なんて料理だったか忘れた……。母上がよく作ってくれたんだが。……!? 母上の顔と名前が思い出せんぞ!?」


「!?」


 詩音の発言に南部聖司が言っていた事を思い出す。『日に日に元の世界での記憶が失われていく』その言葉を。

 わなわなと震える詩音に、セルイが優しく声をかける。


「詩音。いや、閃光のブラックパール。 しっかりするっスよ? はい、息を深く吸って〜、止めて、ゆっくり吐く〜」


 セルイの言う通りに呼吸をし、落ち着かせる。


「とにかく、今は食事っスよ。ゆっくりでいいから食べて?」


 頷くと詩音は、ゆっくりとサンドウィッチを口に運んで行く。その様子を確認し、セルイは思案する。


(まさかこんなに早く詩音の記憶が失われていくとは、予想外っス。……んーむ、どうしたものか?)


 そう思いながら自分もとりあえずサンドウィッチに口をつける。

 二人は無言で食べ終わると、詩音が流し台に立った。そんな彼女を見て、


「……詩音。元の世界の事、どれくらい覚えてるっスか?」


 セルイの質問に皿を洗う手を止め、しばらく考える。それを見守っていると、ゆっくりと話始める。


「……幼い頃の記憶と身近な人の記憶が曖昧になっている。鮮明に覚えてるのは……成人の儀式と騎士団入隊セレモニーだ」


 それだけ言うと、止めていた手を動かす。


「……っスか」


(これは……もしや、オレの想像以上に深刻かも知れないっスね。何か手を打たないと、詩音の記憶が失われてしまう! かと言って南部に頼るのはヤバい気がするっス!)


 思案していると詩音が洗い物を終え、セルイに声をかける。


「……私の記憶の事を心配してくれるのは嬉しいが……。あまり考え込まないでほしい。私は、きっと元の世界に帰るから」


「……詩音」


 無理に笑う彼女の頭を撫でる。珍しく抵抗せず、撫でられる。

 しばらくして、セルイが言う。


「……よし! 詩音の記憶が失われきる前に、とっとと事を片付けますか!!」


「それは良いが、どうするんだ?」


 詩音の言葉にセルイが言う。


「やっぱ、転移して来た魔族が気になるっス。そこから調べてみよう! ……というわけで! 詩音、この資料を見るっス!」


 いつの間に用意たのか、セルイの手には、あの廃屋で見つけた資料のうちの数枚が渡された。詩音は受け取ると、目を見開いた。


「こ、これは!!」


 詩音の反応にニヤリと笑うと、


「詩音の世界の文字っぽい資料だけを集めてみたっス! コレで何か手がかりがあるといいんスけどね!」


「……お前は準備がいいな。……よくこんなに資料を見つけられたな! というかそもそもなぜこんなに資料を集めていたのだ?」


 そう詰め寄られると、セルイは頬をかきながら、


「いやぁ、ちょっと色々ありまして。……今は関係ないっしょ? とにかく読んで!!」


 納得いかないながらも、こうなると教えてもらえない事を理解している詩音は、静かに資料に目を通していく。


「ふむ。基本的には、魔剣の事ばかりだが……んん? これは!?」


 詩音が座っていた椅子から身を乗り出す。


「セルイ! 魔族がどうなったのか、少しわかったぞ!!」


「おお! それはなんスか!?」


 セルイが同じく身を乗り出すと、詩音が一枚の資料を見せつける。


「ここ! ここに書かれているんだがな? 魔族は女で、この世界で祝言を上げている!!」


「つまり結婚したんスか!?」


 目を丸くするセルイに、詩音が続ける。


「ああ!! そして、資料にはこうある! この世界の人間の子を孕み、相手の男は……街の代表になったと!!」


「!! ここで来るか!! 魔族は市長と繋がっているかも知れないっスね!!」


 頷くと詩音は、


「現市長とやらとの繋がりはわからんが、この街の代表という役目……何かある! と思うのだが?」


「そうっスね! 調べてみる価値はありそうっス!」


 そこまで言って詩音は、


「それでなんだが……どうやって調べる?」


 セルイは唸ると、


「そうっスね……。マリ達に調べさせるにはさすがに情報が少なすぎるっス。オレ達で調べますか!」


****


「……それで? ここには何があると言うのだ?」


 話の後、詩音を連れて北部に来たセルイは、丘の上にある空き家の前で止まった。


「ここは、現市長の生家っス。詩音、ここで魔法を使って何かないか探ってほしいっス!」


 セルイの言葉に首を傾げながら、釈然としないのか、困惑気味に言う。


「それは構わんが……。目的はなんだ?」


「現市長と魔族が繋がっているなら、何か反応があるかなぁって思ったっス!」


「……なるほど。わかった! やってみよう!」


 やっと納得したのか、詩音は呪文を唱え始める。セルイもいつものプレートを立てかけ、見守る。

 すると、ある映像が映し出された。

 場面は、若い女が子供をあやしているとこから始まり、平穏な一家の姿が流れる。


(映像は出たけど……一家の日常だけ?)


 延々と市長一家の日常が流れ、これはないな。と思い始めた時だった。

 一家の前に、妖艶な女が現れる。その女は深く被っていた帽子を取ると、二本の角が生えていた。一家はその女をすんなりと家に上げ、歓迎する。そして、愛おしそうに現市長になる少年の頭を撫でる。

 まるで、母のように。


(!? まさか……有り得るのか!? もし、もし俺のカンが当たっているなら!!)


 映像が終わり、詩音がセルイの方へ向く。どうやら詩音も、その可能性に気づいたようだ。


「なぁセルイよ? 私の考えが当たっているなら……」


 セルイも頷くと、


「うん。確証はないっスけど、オレ達のカンが当たっているなら……現市長は魔族の血を引いてる事になるっス」

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