日常
「吸血鬼の真祖! やはり魔王の手先か!?」
詩音の言葉に、
「だーかーらー!! 違うって言ってるっしょ! 話聞いてました?」
いい加減にして欲しいと言わんばかりにセルイが否定する。
「いいっスか! オレが魔王の手下ならオタクのこと助けたりします!? 服も! 名前も! ここの事も!! 教えたりします!? しないでしょ!?」
「……だが、魔王の罠かも……」
「どんだけ疑うんスか!? もういいっス! 好きにして下さい!!」
とうとう怒ったセルイは、そう言うと、バスルームに向かう。
「お、おい! どこに行く?」
慌てる詩音に、冷たく言う。
「どこって、風呂ッスよ! 風呂!!」
「な! 湯浴み場に行かなくても入れるのか!?」
そう言うと、驚きながらセルイの後を追い、バスルームに入って来る。
「どこから水が出るんだ!?」
もう面倒くさいなと思いながら、セルイは説明する。
「これ、蛇口からこう……」
蛇口を開き水を出すと、興味津々といった様子で詩音は覗き込む。
「こっちを回すと」
そう言ってお湯に切り替える。
「!? 温かいだと!? これが……異世界!」
「バスルームで状況理解ッスか……。オレの苦労は一体……」
呆れながら、もういいだろうと彼女をバスルームから出し、シャワーを浴びるため服を脱ぐ。
そして、シャワーを浴びようとした瞬間、
「ぬおおおお!!」
雄叫びともつかない声が聞こえて来た。
慌てて腰にタオルを巻き、リビングに行くと、
「この箱から人が! それにコレ! 明かりが勝手に着いたぞ!」
キラキラとした目で語る詩音に、コレから長そうだとセルイは改めて頭を抱えた。
****
翌日、ソファーから起き上がる。
ベッドは昨日、詩音にゆずっていた。
カーテンを開け、外を見る。
どうやら曇り空のようだ。
吸血鬼とは言え、真祖であるセルイには日光が効かない。
だからカーテンを開けても問題ないのだ。
「そういや、詩音はどうしたっスかね……」
昨日アレだけはしゃいでいた彼女は、ベッドを見るとまだ眠っていた。
起こさないようにゆっくりと移動し、キッチンに向かう。
食事は趣向品のようなものなのだが、この生活を始めてからはルーティンのようになっている。
「今日は目玉焼きにするか!」
そう言うと、冷蔵庫から卵を二個出し、フライパンをセットし焼きだす。
そうしていると、
ベッドルームからドタバタと音がして、こちらに向かって来たのがわかった。
「セルイ! いるか! いるな? お前日光は……」
余裕ですが? とばかりに料理をしていたセルイの姿を見て、
「いや、何でもない」
「いやいやなんでもないってなんスか! だいたい、その前に言うことあるっしょ!?」
疑問符を浮かべる彼女に、
「詩音、おはよう」
そう声をかけると、彼女もはっ! と気づいたように、
「おはよう。セルイ」
挨拶をした。それに満足したのかセルイは、調理の体勢に戻る。
「今食事作ってるっスから、ちょい待ってて! あ、暇だがらってなんか触んないでよ? 厄介なのもあるっスから!」
セルイの言葉に、
「吸血鬼の食事は血ではないのか?」
そう疑問を向ける詩音に、
趣向品だからと説明し、大人しく椅子に座らせる。
しばらくして、目玉焼きとパンのセットが出来た。
「それじゃ、いただきます」
「い、いただきます」
慣れた様子のセルイに、慣れない様子ながら言う詩音。
二人は静かに食事を取った。
****
「温かいお湯が出るというのは凄いな!」
感激した様子で詩音は食器洗いをしていた。
作ってもらったからと、自分から名乗り出たのだ。
ハラハラしながらセルイは詩音の様子を伺っていたが、大丈夫そうだと判断し、今朝入っていた新聞を読んでいた。
「何を読んでいるんだ?」
「新聞っス。要約すると、色んな情報が書かれた紙ッスね」
「そうなのか! では魔王の情報とか……」
「ないっつーの!」
諦めの悪い彼女に苛立ちながら、そう言うと、
「それで? オタクはどうするつもりっスか?」
セルイにそう言われ、詩音は少し考えた後、
「ここに置いて頂きたい!」
ですよねー。なんとなくわかっていた答えに、セルイはため息を吐くと、
「置いとくのは構わないっス。ただし、条件があるっス」
一息吐いて、
「まず、何でも魔王の事を出さない事! 無闇に言うと、この世界じゃ頭のおかしいヤツに思われるっス!
次に、オレの仕事に着いてくるのは構わないっス。でも邪魔はしないで欲しいっス! そんで、オレの正体もバラさ無いこと!! やっと落ち着いて来たんス! 絶対にやらない! やったら即追い出すっス! いいっスね!?」
一頻り言うと、わかった? という表情で詩音を見る。彼女は真剣な顔をしていた。
「わかった。感謝する。私に出来る事があったら言ってくれ! 護衛任務なら得意だ! なんせ私は騎士だからな!」
「騎士ねぇ……」
イマイチわかっているのか不安になるが、そこは信用しよう!と思い突っ込むことをやめた。
「護衛は置いといて! そろそろ仕入れに行くッスよ!」
セルイの言葉に、詩音が疑問符を浮かべる。
「オレは商人なんスよ。商人! だから仕入れに行くっス。着いてきたくないならそれでもいいっスよ?」
試すようなセルイの発言に、詩音は凛とした佇まいで
「いいだろう! 行こう! 私もこの世界の事を知って行きたいしな!」
そうして二人で仕入れに出かけた。