リセ
「お姉ちゃん……だと!?」
戸惑う詩音をよそに、少女は自己紹介をする。
「はじめまして、お姉ちゃん……とお兄さん。私は南部リセ。剣聖のホワイトパールの娘だよ」
リセと名乗る少女の発言に、詩音は絶句してしまった。
変わりにセルイがリセに聞く。
「え〜と、オタクが剣聖のホワイトパールの娘って事は……つまり、この世界で結婚しちゃった感じ……スか?」
セルイの言葉にリセが頷く。
「そう。お父さんはこの世界でお母さんと出会って結婚して、私が産まれたの。それで、お父さんが『この剣と姉妹の剣は引かれ合うから、二つの剣をもしも持ち、操る女性が現れたら、その人はお前の姉さんだ』って、昔から言われてたから。だから、お姉ちゃんだって思ったの」
リセの言葉に、ようやく詩音が口を開く。
「そんな……父上が! 母上というものがありながら、不義の子とはどういう事だ!! 騎士の誓いはどうしたんだ!!」
顔を歪める詩音に、リセは続ける。
「お姉ちゃん、お父さんはもちろん向こうの世界に帰ろうとしていたよ? でも、方法が見つからなくて……それで、そのうちお母さんに惹かれて、こっちの世界で生きるって決めたの。だから、許してあげて?」
そう言うリセの顔は真剣だった。詩音も落ち着くと、
「……お前の話はわかった。だが、納得はしない。お前が本当の事を言っているか、父上に合わせてくれ! そこで判断する!」
詩音の言葉に、リセは首を振る。
「それは出来ないの」
「なぜだ!?」
リセは一息吐くと、
「お父さんは今、意識不明の重体を負って病院に入院しているの」
リセの話に、詩音が反応する。
「なんだと!? それでは本当に父上かどうかわからんではないか!!」
「確かに、詩音の言う通りっスね。そんなんじゃ話が出来ないっス」
(もっとも、この子の話が全て本当なら……っスけどね)
二人の反応に、リセは静かに話し出す。
「とりあえず、病院に行こう? お姉ちゃんと、その剣があれば、もしかしたら何か起こるかもしれない」
ね? と促され、二人は近寄り、コソコソと話し合う、
(どうするんスか? ちょい怪しすぎるっスよ?)
(ああ、だが、他に手がかりはない。……病院とやらに行ってみるしかないだろう)
(危険な香りがするっス……。そうだ、詩音。行く前に……コレを飲むっスよ)
(なんだコレは?)
(いいから!)
そんな二人のやり取りを見ていたリセは、
「ねぇ、まだ?」
焦れたのか急かして来る。詩音に半ば強制的にソレを飲ませると、
「準備オーケーっス! リセちゃん案内よろしくっス!!」
「……口の中が苦い」
そんな二人に興味なさげに、リセは歩き出した。
それを追い、二人もついていく。
狭い路地をいき、しばらく歩くと、古い病院が見えて来た。
「……本当にここにいるんスか?」
訝しげなセルイに、リセは言う。
「見た目はボロいけど、中の設備は最新だよ?」
そんな話をしていると、リセが唐突に手を叩き、
「そういえば、まだお姉ちゃんとお兄さんの名前、聞いてなかったね。なんて言うの?」
二人は顔を見合わせると、
「セルイっス」
「閃光のブラックパールこと、詩音だ」
名前だけ名乗る。なんとなくだが、フルネームを言うのはばかられたのだ。
二人のカンが言っている。何か起こるとー。
「もう! 名前だけなんて。それじゃあ……」
病院内に入ったところで、扉が閉まる音がする。
「やはり罠か!!」
そう言うとリセは笑いながら、
「そうだよ、お姉ちゃん!!」
本を取り出し、構えると、リセは呪文を唱えだした。
「魔法!! それも私の世界のか!! 不味いぞ!?」
「大丈夫! だと思ったんスよ!」
そう言うとセルイは、チィトゥィリ・アルージェを構えると、ワイヤーガンモードにし、
「悪いっスけど、嘘つきにはお仕置きっスよ!!」
詠唱中のリセの手元目掛けてワイヤーを射出する。
「!! 邪魔するの!? お兄さんは関係ないの!!」
そう言うと、指を鳴らす。
すると、それを合図にどこからともなく、白い装束で全身を包んだ人々が現れた。
「さあ、巫女が命じます! 剣聖のホワイトパールの娘を捕らえなさい!! 男の方はいらない!」
リセが後方に下がって行く。
「まさかとは思うけど教団っスか!? ……詩音!!」
「わかっている!!」
詩音も剣を出し、二人とも戦闘体勢に入る。その様子を見て、楽しそうな表情でリセが言う。
「せいぜい頑張ってね! お姉ちゃん?」