第七話 ゆーあー こーぷ がーる?
ずんちゃんちゃんちゃんちゃん♪てーれれっててーれれ、てってってーれれー。
大暴れした巨大な植物。それは地球を破壊してしまうおそろしい怪物だった。この怪物を倒せる男はこの地球にただ一人。悟空。敵をやっつけろぉ!
「とまあ、孫悟空でしか倒せなさそうな強敵を目の前に奮闘中です、八光さん。だって、囮ですよ。わかります? あの女二人の裁量で死んじゃうかもしれないんですよ」
あ、でも、オレの囮がうまくいかなかったら二人は死んじまうのか。だったら頑張らねえと。あいつらは普通にオレを見捨てそうだがな!
作戦はこうだ。
そんなものはない。
以上。
だって、オレ、何の説明も受けてないんだもん。どころか。あいつら、言葉を交わしてすらない。大丈夫なのかって感じだけど、自然と不安はそんなになかった。ゼロっていうとウソになるけどね。
でも、今のフキとミワはもう、戦っていた時のように何も見えていない、凶器すら感じる目ではなかった。どこか救われたような、安心したような目だった。オレでストレス解消したんじゃないよな。違う……よな。
「さっさと襲われてください」
「ま、わたしたちに比べればまずそうだけど」
「それが人間の言うことかよ!」
「魔法少女だしねー」
「そうですよねー」
なんで急に仲良くなってるんだよ。ったくもう。
「おいこら。このなんかよくわからない奴! なんかわかんねーぞ、お前!」
相手の正体がわからなくて悪口も言えそうもない。とにかく走り回って注意を惹きつけてみる。でも、興味どころか地べたのありんこみたいな態度を取られる。つまりは相変わらずほとんど動きはなくて、ただ、じっとしているだけだった。フキの言った通り、植物の周りに靄というか、湯気っぽいようななんかゆがんだやつ? が出てて、それが地面から吸い上げたよくわからないものだろう。よくわかんねーけど、この時間のすべてを吸い取らない限り止まらないかもしれないみたいだ。わかんねーことだらけだけど、今は止まってる暇なんてない。とにかく、あの植物の注意を惹かないと。
「うーん、別に攻撃しても襲ってこないんじゃないかな」
試しに石を投げてみる。投げた石は茎にぽよんと当たりそうになって――腕が絡まりあった奇妙な蔦が石をはじいた。そして、バッティングセンターの球の何倍もの速さで蔦がオレへと向かって来る。それは蔦というより槍そのもので――
「うおっと」
間一髪で蔦を避ける。情けなく地面を転がって避けた。
蔦はアスファルトを深くえぐった後、大した障害ではないかのようにするりと茎の中に埋もれていく。
こんなんじゃあ、囮にならない。もっと注意を惹きつけないと。そして、もっと注意を惹きつけることになったら、オレ、死ぬよな。
「ちょっと、男子。もっと真面目にやりなさい!」
「真面目にやったら死ぬわ! そのありきたりなセリフに初めて恐怖したわ!」
「もっと、ちゃんと命懸けてくださいよ。私たちが死んじゃいますよ」
「……オレの命の心配は?」
「骨くらいは拾ってあげるわ」
「手数料は取りますが」
「最低か」
似たようなことをオレだって言いましたよ。でも、ひどくない? もう、ヤダ。魔法少女。これ以上関わり合いにならないでおこう。
「しっかしまあ、あれだね。どうにもそっくりだな」
植物の花に埋もれている少女を見ながらしみじみと思う。実際の秋陽子は
危なくないんじゃないかってくらいのところまで避難させてある。だれかがいないと不安ではあるが――あ、そうそう。秋陽子のお兄さんも死んではいなかった。普通に呼吸をしていて、フキ曰く、気絶しているだけだそうだ。お兄さんも秋陽子といっしょに避難させてある。というより、秋陽子がお兄さんから離れたがらなかった。
「ふーん。どうなるかわからないが、やってみるか」
全てが秋陽子を中心に回っている。それとも美羽子さんを中心に回っていたのか。この過去はちょうど二人の時間が交わる時なのか。っていうかオレたち、普通に過去に干渉してるけどいいのか。うん? 何か見落としているような……
「お前の兄ちゃんでーべそっ!」
むんずっ。ムクムクっ。
あれ? 花が反応したぞ。
走り出す。
走り出してからツッコむことにする。
蔦ムッチャ襲ってきたやん。なんかとっても怒ってらっしゃるご様子ですねっ。
「なー! ちきしょー! なんなんだよおい!」
オレって人の逆鱗に触れる才能でもあんのかな。うわっ。ラノベの主人公。
「転生してもラノベの主人公にだけはならないでおこう」
余計なことを考えている隙に、背中に風圧がかかる。すぐそこまで蔦が迫っている。やっぱりと言うべきか、蔦の速度の方がオレの足の速さよりも早い。小学生なめんなよ。
ちりっ。脳の血管が急に切り開かれたような感覚に陥る。当然だ。つまづいてこけたのだ。この状況でつまづくということは、一つの事柄を直喩していた。
オレハシヌ……
アスファルトを突き破って、地中から蔦が迫ってきた。地面から出たんだから根っこか。そんなのどうでもいい。植物はオレを挟み撃ちにしてぺしゃんこにするつもりだ。
地面からの蔦が体をからめとりそうになって――蔦は灰になって風に溶け込んでいった。
「アンタの方まで集中力を割いていられないんだから、必死で逃げなさい!」
どうやらミワが蔦を消してくれたようだった。そのままオレは自由落下する。背中からまだ蔦が迫っていることを思い出してその場を離れようとした。だが、右足が動かない。まるで金縛りにあったようだ。怪我でもしたのか。右足を見る。人の手のような蔦がオレの足をがっしりとつかんでいた。掴まれた蔦の奥には人の体のような突起ができていた。人の顔のようなものがオレを見つめる。その顔は秋陽子のお兄さんそっくり――
「うああぁあぁあぁあぁあぁあぁっっっっ!!!」
左足でお兄さんの腕を引きはがし、急いで駆ける。だが、さっきよりも蔦の反応が悪い。弱っているのだろうか。
横目にフキたちを見る。ミワは自身に襲い掛かる蔦をステッキから出す魔法? みたいなので防ぎ、時には躱してしのいでいる。自身を守るため以外に飛ばす魔法はすべてフキのいる方角――花の茎に注がれている。フキは蔦や茎を駆使して花のある植物の頂上を駆け上っていた。蔦の動きを読み、フキは蔦を足場にして駆け上がる。ミワはフキの動きを読み、いや、読むよりも早く魔法を放ち、フキの移動のアシストをする。フキもまた、ミワがどのようなアシストをするか直感で察知し、考えるよりも早く次の動きに入っていた。
「まさか、な」
二人のコンビネーションはそんじょそこらでできる芸当じゃなかった。作戦が始まってから相談もしていなかったはずだ。つまり、二人は仲悪く戦っている時に互いの癖や呼吸を熟知したということなのか。本当に同じ小学生かよ。オレを囮にしたのも花の攻撃を読むためだったのか。ただのドS集団なだけかもしれないが。うん。完全に否定できないもん、オレ。
オレを襲っていた蔦の動きは弱まっていき、次第にオレを追いかけなくなった。すべてのエネルギーをフキたちへの対処に回したためだろう。フキは花のすぐ近くまで迫っていた。フキを無数の蔦がからめとろうとするがミワが障害となる蔦だけを取り除き、フキの足場を残す。最後の一仕事、といった風にフキは天まで伸びようとする蔦を一気に駆け上がる。足にスパイクでもついてなきゃ普通はできない。筋肉バカだったんだな、アイツ。でなきゃゴリラだ。
この時になって疑問に思う。
あの秋陽子に似た花を倒してしまってもいいものか、と。実際の秋陽子は逃げている。あんなの、偽物に決まっている。そのはずなんだ。でも、あまりにも似すぎていて――鼻の中の秋陽子を倒してしまったら、本物の秋陽子が死んじゃうんじゃないか――
上から下したステッキが花の中の秋陽子に直撃する。赤い飛沫が噴水のようにあふれ出した。滅び、というタイトルが似合ってしまうような、そんな風景画を見ている気分だった。美しいだなんて言えない。むしろ、胸糞悪い。花は奇声を上げている。どうして花が声を出す。蟲が人のような叫び声をあげる? オれたちの殺したのは紛れもなく――
「まだよ。すべてを消し去らないと」
すたり、と地面に舞い降りたフキはミワの言葉にうなずく。さっと、互いが寄り添い、デザイン違いのステッキを交わらせる。そして、声高らかに叫んだ。
「「ツインコウカイバーストォ!」」
重なり合う声。放たれる光線。混ざり合う二色。掻き消える深紅。
真っ白になる過去を見つめながら、これで本当にいいのか、とオレは自分に問いかけ続けていた。どうしてこんな風に思うのだろうか。
光が消え、すべてが元に戻る。植物の姿はどこにも見当たらない。抉れてボロボロになったアスファルトはすべてが夢だったかのようにもとに戻っていた。
あらゆる存在が蜃気楼のように揺らいで見える。支えを失ってしまったかのように不安定になってしまった。
「どうやら、この世界も終わりのようね」
「何を言ってるんだ。美羽子さん」
「やっぱり、わたしのこと、知っていたのね」
美羽子さんは驚いていなかった。まるでなにもかも最初から知っていたかのように。
「残念ながら、決着をつけることはできないみたいね。未来の魔法少女さん」
「手加減していたでしょう?」
「お互い様じゃない」
ミワの体も周りの景色と同じように揺らぎ始めていた。何も変化がないのはオレとフキだけ。
「世界は救われたんじゃないのかよ! あの植物さえ倒せば――!」
「この記憶はなかったことにされたものなんじゃないかしら。詳しくはわたしの問題じゃないからわからないけど。あ、一つ、伝言を頼まれてくれないかしら」
「えっ。やだ」
「あの子に出会ったら言ってちょうだい。絶対に忘れてやんないんだから、って。忘れたって絶対アンタのこと、忘れてやらないんだからって」
アンタってだれだよ。誰に言えばいいんだよ。
その問いを投げかける前に世界は大きく揺らぎ、消えてしまった。
再び現れた世界はさきほどと全く変わっていない世界。でも、ミワの姿はどこにもなかった。現在に、オレたちの知る世界に戻ってきたのだろうか。
ぼんやりと頭を麻痺押させている時に、近くで爆音がした。
とあるまほうしょうじょのものがたり
あるひとつぜん、まほうしょうじょそらがおんなのこのいえにやってきました。
おんなのこをいちにんまえのまほうしょうじょにするためにきたみたいでした。
まほうというのはいろいろなしゅるいがあるようでした。
せいねんにはいろいろとおもうことがあるようでした。
そして、そらはおんなのこたちといっしょにくらすことになりました。
絵本に書かれた物語は次のページに進むと消えてしまった。
新たなページには、まだ、物語は浮かび上がってこない。