不死身の兄と死期近い妹 1
・REC
ベッドの上に青年と幼い黒髪の少女が腰掛けていた。
隣の男は少女を見て優しい手で肩をポンと叩いた。
「緊張するか? まあ肩の力抜いてリラックスしろよ」
「き、緊張してないもん……」
少女は見栄を張るが、恥ずかしそうに顔を赤らめているのがわかる。
男は柔らかい笑みで「誰でも最初はこんなもんだろ」とフォローした。
「よし、じゃあそろそろ始めるか……」
男が少女の背中に、舐めるような手つきで触ろうとした時だった……
「AVの撮影かっ!!」
ビデオを持っていた黒髪ポニーテールの女子高校生が持ち手をカバンに変え男にぶん投げたのだった。
「グエッ!!」
カバンを食らった男『仲代』はベッドから落ち背中を強打。だが痛みは一切ない。
そして何事もなかったかのように立ち上がり、女子高校生『木村』を睨んだ。
「何すんだよテメェ!」
「アンタの手つきがいやらしいのよ! どう見てもアレな奴の行為前にしか見えないわよ!」
「実の妹にいやらしいもクソもあるかボケェ! ってか何勝手に始めてんだよ!」
「えっ、あ、えーと……何というか……前フリなしの方が本当の『優花』ちゃんを撮れるかなって……」
「せめて俺には言えよ!」
ぜぇぜえと口論を繰り広げてる中、隣の妹である優花が仲代の服の裾を握って、
「えーぶいって何?」
と純粋無垢な目で聞いてくるのだ。
「テメェのせいで優花が変な言葉覚えたじゃねえか!」
流石に今のは自分が悪いと自覚したのか木村の顔に汗が浮かび、言葉がつぎはぎになっていく。そして彼女の出した答えは。
「え、あ……ごめんなさい!」
逃亡だった。
そう言ってカメラを投げ出しピューと逃げていった映像部副部長、投げ出されたビデオカメラを掌にキャッチしてため息を吐いた。
「ったく、アイツに任せんじゃなかったぜ」
仲代は頭をくしゃくしゃと掻き、撮影をまた最初から始めることにした。
・REC
「えーと何言えばいいんだ……これ? あー、そうだ。今年から小学三年らしいな、低学年最後の年だ。優花は何かやりたい事はあるか?」
「うん! まず遊園地行きたい! ジェットコースターとか乗りたい!」
「いいなそれ、俺はジェットコースターで吐いた苦い思い出あるけど」
「ぐるぐる回る奴も乗りたい!」
優花のいうぐるぐる回る奴はコーヒーカップのアレだろうか。
「それも吐いたな」
「お兄ちゃん乗り物弱すぎだよ」
話に水を差しすぎたせいか、優花は頬をぷーっと膨らませてカメラを持つ俺を見た。
「悪い……じゃあ違う話をやるか」
そう言って仲代は空気が重たくならない話を考えるが、俺はハッキリ言ってコミュニケーション能力は低い方だ。
さっきの木村も適当に妹と俺を撮ってくれとしか説明せず、いざ病院に入った時に事情を説明したら「そんな大事なの私が撮っていいの? じゃあ私が責任持って素の優花ちゃんを撮ってあげる!」と変に気合を入れられた。
だが話題を変えようとしても想像つかなく、この間が長い。
テレビなら必ず編集でカットされるだろう。
「ねえねえ、私も撮りたい」
「ん、まあいいけど……主役は優花だぞ?」
「知ってる、でもお兄ちゃんも撮りたい! 前みたいに身体中をぐにゃりぐにゃりしたりバキリバキリするのやってよ!」
ここのセリフはカットだな。
そう思い仲代はビデオを一旦止めた。
「あー優花、それは……あまり人前でとか、誰かに聴かれるかも知れないビデオカメラに言っちゃダメだぞ。絶対だ」
「あ、そうだった……ごめんなさいお兄ちゃん」
妹は落ち込みうなだれた。そんな姿を見て慌てて仲代は怒ってた訳じゃないと説明した。
「さっきのは悪い、代わりと言っちゃなんだが下のレストランで一緒にアイスでも食うか? 好きなもん頼んでいいぞ」
「え、いいの!?」
「病院の外じゃないからな」
そう言って仲代は妹の手を取った。
外は夕方、そろそろ晩御飯の時間だがたまにはいいだろと面倒な問題を考えることをやめた。
もう妹には残された時間は無い可能性の方が高いんだ。好き勝手やっても許される、許さない方が理不尽だ。
そして俺の方は時間は永遠だ。
妹との時間を少しでも長く一緒にいていたい。




