見える探偵と知りたがる幽霊 エピローグ
「どちらにせよ何とも悲しい話です」
庭師が目を瞑って両手を添えていた。これは姉妹達へのご冥福か、それとも料理人含めての祈りか。
そんな様子を見ていた家政婦は無言のままこれ以上口を開く事はなかった。探偵は家政婦を見た。
「ねえ、家政婦さん」
「なんでしょう」
「これは本当に憶測でしかない、でも敢えて言わせてもらうわ」
これは本当に単なる気休めでしかない。それでも気分が悪いよりはマシかもしれない。
「姉妹のどちらかの殺意は本物だった。でも彼女らは殺せなかったんじゃないかしら」
「それはどういう……」
この言葉を言うのが妹を見殺しにした自分なのが皮肉的だ。
「だって殺してやると誓ってから一週間経ってるじゃない。最後の家族よ、殺してやると言っても殺せなかった。だから料理人が先に手を打ってしまったとも考えられるわ」
家政婦はこちらに視線を合わせ反論の言葉を開いた。
「ですが計画を練っていたとも考えれます」
「ええ、だから憶測でしかないって言ってるじゃない。でも悪い方向に考えるよりは良い方向に考えた方が精神上良くてよ」
φ
話を終え、探偵は床につこうとしていたが家政婦と一緒に去った筈の庭師がまた部屋にいた。
「………………最低」
意訳すると勝手に女性の部屋に入り込むなんて最低なのだが、庭師は何か勘違いしたのか。
「え、もしかして何かやらかしてしまいましたか? そうでしたら私がここで切腹を……」
「騒がないで頂戴、で、次は何?」
話を強制的に折ると庭師は「ああ」とポンと手を叩きながら話を始めた。
「冷静に考えるとまだお礼をしてませんので、解決だけしてもらって探偵さんに何もできないのは不公平ですし」
「なら今すぐ成仏して」
「はい、そのつもりです」
半分冗談で言ったのに探偵は目を丸くした。
「家政婦さんはあの後、あの世で逢えるならとか言って先に行ってしまいました。私も探偵さんが解決策を出してくださったおかげで悔いはありません。これ以上この世に滞在する気もありませんでしたし私も成仏しようかと」
確かにこの世にいつまでも蔓延ってられるのもいい迷惑だ。とはいえ突然の言葉に少しだけ驚きを隠せなかった。
「ですが、成仏した後はどこに行くのでしょう
「さあ、死んだ事すらない私に聞く話じゃないわ」
「そうですよね、私は天国やら地獄やらがあるとまた逢えることができますのであってほしいですね。お嬢様方以外にも父や母、もしかすれば祖父祖母と逢えるかもしれません」
「そうだといいわね」
「ええ、その方が気が楽じゃないですか」
庭師はニコリと笑った。そんな様子を見て探偵は眠気でついボソリと思ってもいなかった言葉が出てしまった。
「もしあの世があったのなら……」
「もし?」
庭師が疑問に満ちた顔でこちらを見て探偵は気づいた。何を言い出そうとしているのだ。
「なんでもないわ」
「いえ、さっき何か言いましたよね!? もしあの世があったのなら……って」
「聞き返す必要ないくらい正確ね」
「はい、お嬢様方の我儘に付き合ってきた私ですので、特におつかいを間違えると怒られるのです……いやあ私の方が言うこと聞いてくれるからと言って信頼してくださったのもいい思い出です……」
「ここで感傷に浸られても困るわ」
「はい、ですから探偵さんの悩みでしたら何でも聞きますよ、払えない依頼料代わりです」
これは罪滅ぼしにもならない。自分の心が救われようとするだけの自己満足かもしれない。
だけど伝えたい言葉はあった。でも伝えていいのか、そもそも伝わるかもわからないそんな言葉。
「だったら……言うわ、もしあの世で○○○って子に会ったら私から「だらしないお姉ちゃんで御免なさい」って伝えてくれないかしら、あの子、私と似てるから一目で気づくわ」
「はて…………ほうほう、なんだかわかりませんが大体はわかった気がします」
殆どわかってないような顔でうんうんとうなづいた。
「では、私はこのまま成仏させて頂きます」
庭師は軽く礼をして姿が霧のように薄れていく。
私は消えゆく庭師を見ながら「さようなら」とだけ告げた。
自分一人しかいない静かになった部屋で探偵は眠った。今日で初めてあの世があれば良いなと思った。
復活の時は2019年7月15日の月曜日だぁぁぁぁぁ!




