見える探偵と知りたがる幽霊 3
「そうですね、まずお嬢様方は本当に仲睦まじい悪戯好きな姉妹でした……この部屋、散らかり過ぎではないでしょうか?」
家政婦は本で歩く道が本で埋め尽くされた部屋を見て呟いた。探偵はそこを指摘されるのは嫌なので話を戻す。
「姉妹の話をしてもらってもいいかしら」
「……はい、両親が幼いうちに他界してしまったせいかお互い支え合って育っていくのを私は見守りました。庭師さんよりも長くです」
ならこっちに聞いた方が正確な情報が聞き取れそうだ。
「失礼な物言いになるかもしれないけど家政婦さん、貴方は料理ができないのかしら」
家政婦がいるのに、何故あの屋敷は料理人がいるのだろうか。
その質問に家政婦は首を横に振った。
「いいえ、お嬢様にアレルギーがありますので専門の方にお任せしておられるのです」
「それは二人共?」
「妹様だけです」
「はいそうでした、妹様だけのはずです」
隣で黙っていた庭師が口を開いた。これは嘘じゃないと思っていいだろう、嘘をつく理由が見当たらない。
「じゃあ妹さんが料理を作ったりする事は無かったのかしら」
「はい、彼女は幼い頃に軽い悪戯で火遊びをしようとしてしまい、それがトラウマになってしまっておられるのです。だから火を扱う料理もダメです」
火遊びは軽い悪戯なんだろうか、子供の考えはあまり理解できない。幼い頃の自分さえほぼ忘れてしまっている。
後、妹がもし毒を仕込んだのなら作られた後になる、それ以外仕込めるタイミングはまずない。
「当時、姉が亡くなった時に料理を運んだのは誰?」
「私です」
躊躇いなく彼女は言った。
「あら、なら貴方も容疑者になるわね」
探偵は平然と言ってのけ、相手の反応を伺ったが家政婦は温和な表情を一つも崩さなかった。
「はい、ですが私がお嬢様を殺す理由は見当たりません」
「容疑者はみんなそう言うのよ」
女の睨み合い、ピリピリとした空気が場を包み、それに耐えきれなくなった庭師が、
「いや……待ってください。私は料理を作ってるのを見た事はありませんが家政婦さんが料理を運ぶのはちゃんと見ました。寄り道も立ち止まらずそのまま歩いていきましたよ」
「あらそう、じゃあやっぱり料理人さんが犯人ね」
「そんな簡単に決めちゃうんですか」
「ええそうしか考えられないじゃない」
庭師の言葉に適当に返す探偵だが、庭師はひどく納得のいかない様子で、
「でしたら何故姉様を殺したのでしょう?」
「本人がいないもの、私にはわからないわ」
「むむむ……あなた様の天才的発想で道を開いてくれませんでしょうか?」
庭師からはそう言われ、家政婦からは無言の圧力をかけられている。
重い腰を下ろしたように探偵は口を開いた。
「これはただの憶測でしかない、それでいいのなら私なりの答えを言うわ」
「はい! お願いします……」
探偵は自分なりの解釈と二人の証言を巡り合わせ、口を開いた。
「家政婦さん、貴方が一番長く仕事をして来たのよね」
「はい」
「じゃあ似た者同士の二人の違いもわかるかしら?」
「見た目が瓜二つの似た者同士と言えどもお互い別の人間です。多少の違いは明らかになります。探偵様の言いたい事は二人は悪戯で入れ替わる事を言いたいのかもしれませんが、それはあり得ません、たしかにその悪戯をした事は何度か見かけましたが私は気付きました」
「ええ、でもこういう考え方だってできるわ」
この言葉に自身があったのか、探偵が反論すると家政婦はムッとした様子を露わにした。
「それはなんでしょう?」
「貴方が来る前から入れ替わる悪戯を繰り返していた、のはどうかしら?」




