第3話(残酷描写あり)
残酷描写ありです。苦手な人は気を付けてください
白雪姫は笑いを堪えきれない、という様子で王子にささやきかけます。
「白雪姫、せめて式が終わるまでは我慢してくれないか?」
「もちろんですわ。私、そこまで短気じゃありませんから」
白雪姫はいたずらに成功した子供のように笑います。
結婚式が終わり、参列者たちが思い思いに帰っていく中、白雪姫はお母さんを呼び止めました。
「あら、どうしたの、白雪姫?」
「お久しぶりです、お母さま。少しお話をしませんか?」
お母さんはなるべく平静を保とうと努力しています。しかし、そんな演技も白雪姫にはバレバレでした。
「ねぇお母さん。私を殺したのは、お母さんですよね?」
「こ、殺した? どういうことかしら? 貴女はこうやって生きているじゃない」
「それは、私が生き返ったからですよ」
「ともかく、変な言いがかりは止めてくれないかしら、王女様?」
「何を言っているのかしら、王妃様」
氷の女王のように、ゾッとするような冷たさで、白雪姫は微笑みます。
「王妃様は私を殺しに来た時、三度とも変装をしていましたよね?」
「…………」
お母さんは沈黙を守り続けます。しかし、白雪姫にとってはその沈黙が何よりの回答です。
「でも、あなたは自らが誇るその美しさを、捨てきることができなかった。恰好だけは薄汚く出来ても、肌や髪を汚すことはできなかった。思い返してみれば、すぐに分かりましたわ」
「な、何を言っているの、白雪姫」
「そうだ、お母さん。今日はプレゼントがあるの」
白雪姫はリンゴのタルトを差し出しました。すると、あからさまにお母さんは顔を引きつらせます。
「い、いえ、要らないわ」
「あら、私の記憶だと、お母さんはリンゴが好きだったと思ったのですが」
「そ、そう」
「それとも、何か食べられない理由でもあるのですか?」
白雪姫はお母さんに詰め寄ります。その表情には、余裕の笑みが浮かんでいます。
王妃様は結構あっさりと、そのプライドを捨てました。
「お願い、何でもするから、許して!」
「あら、お母さんは何もしていないのだから、何も許すことなんてないと思ったのですが……じゃあ、あの靴を履いて踊ってください」
白雪姫が指さした先に置いてあるのは、火で真っ赤に熱した鉄の上履きです。
「オーブンで一緒に間違って焼いちゃったの。あれを履いて踊ってみてくれないかしら」
「いや、いや、いや………」
「じゃあ、このタルトを食べてみてください」
お母さんはタルトと鉄靴を見比べ、ごくりと生唾を飲み込みました。
そして、ゆっくりと鉄靴の中に、白くほっそりとした足を入れていきます。
「っ、くっ、あっ……うっ」
「早く踊ってみてください」
白雪姫は残酷にも、お母さんの背中をどんと押しました。
「きゃぁァァァァぁァァァァアアアアっ‼」
高温に熱されて真っ白な皮膚が黒く変色し、爛れ、血が滲み出てきます。その激痛にお母さんは悲鳴を上げ、たたらを踏みます。
「あら、愉快なステップですこと」
「ううっ、ああっっっ……」
白雪姫は容赦なく、慈悲なく、残酷に。その背中を押します。
その度に王妃の足からは肉が焼ける臭いが漂い、傷一つない皮膚からは血が滲み、喉からは苦悶の声が漏れます。
「さぁ、宴の時間です。踊ってください、王妃様」
その宴は、王妃が息絶えるまで続きました。