第2話
白雪姫と七番目の小人は、小さなリビングの小さなテーブル越しに向かい合っていました。
「お久しぶりですわね、七番目の小人さん。他の小人さんたちはいらっしゃらないのですか?」
「みんな森に行っているよ。陽が暮れるころには帰ってくるはずだ」
その言葉を聞いて、白雪姫は少しだけ思案します。
「それなら、別にいいですわ。早めに用件を済ませてしまいましょう」
「用件ってのは何なんだい? わざわざ王子までこんな辺境に連れてきて」
「とっても大切な用ですわ」
私の復讐のために──白雪姫は非常に小さく呟きました。
「リンゴは、まだありますか?」
「リンゴ? それなら、ここの裏の樹になってるはず」
「そうじゃなくて、私がかじったリンゴのことですよ」
白雪姫はあの真っ赤に熟れたリンゴを思い出し、顔をしかめました。
「あぁ、それなら今もあるよ……ほら、あそこに」
七番目の小人が指した棚の上には、とても美味しそうに熟れ、半分に割られて一口分だけかじられたリンゴが置かれています。
「私を殺した、とってもとっても憎たらしい、美味しそうなリンゴ。これを貰ってもいいかしら?」
七番目の小人は白雪姫を訝し気に見やります。
「このリンゴを、どうするつもりだ?」
「復讐に使います」
白雪姫は当然のことのように、あっけらかんと。必然のことのように、力強く。彼女は一切の迷いなく断言しました。
「はぁ、やめとけ白雪姫。復讐なんてしても、お前さんの得にはならねぇ」
「私の得になんて、ならなくても構いません。ただ、私を殺したあの人に、お返しをしてあげたいだけです」
白雪姫は笑っています。それはもう、楽しそうに。
「私は三度も死んで、三度生き返った。その体験で私は様々なことを学びました」
「だったら、その復讐が何の意味もないってことくらい、とっくに学んでるんじゃねぇのか?」
「はい、もちろんです。七番目の小人さん」
白雪姫は頬を上気させ、どこか艶めかしい吐息を漏らします。
「でも、でも……楽しいじゃないですか!」
「は?」
七番目の小人は、訳が分からないとでも言うように首を傾げました。しかし、白雪姫は続けます。
「私を憎んで、憎んで、憎んで、殺したいほどに憎んだあの人が! 苦しみながら、何度も殺したはずの私に殺されていく! 私は想像するだけで身震いしちゃいます‼」
白雪姫は叫びます。もはやその眼中には、七番目の小人のことなどありません。
しかし、彼女は突然スッと冷静になりました。それでも、口元にある笑みは消えません。
「分かった。好きに持ってけ」
「ありがとうございます、七番目の小人さん! また今度、お礼をしに来ますわ!」
「お礼なんていい。だから、早く出ていけ」
七番目の小人は呻くように吐き捨てます。
白雪姫はその言葉に従い、大人しく王子と共に帰りました。