第1話
下仕えの人達の手によって目を覚ました白雪姫は、王子から直々に説明を受け、やっと自分が置かれている状況を知ることができました。
「私はこれから、どうすればいいのでしょう?」
いくら眠っている間とは言え、四六時中王子のそばにいた女性が突然離れるなど、王子の対外的な面からも、白雪姫の身の安全的な面からも出来ません。
白雪姫の容姿を見た貴族たちの一部は、明らかに白雪姫に対して好意を寄せていたので、このまま解放してしまえば、白雪姫が危険な目に遭いかねません。
「まぁ、最善策としては、僕と形式上だけでも結婚していただく。というのが考えられる中では最善でしょうね」
「はぁ、やはりそうなりますか」
王子のその案に、白雪姫は渋々ながら頷きました。いくら玉の輿とは言え、嫌なものは嫌なのです。
白雪姫からすれば、王子とは初対面のようなモノですから、それも仕方ないでしょう。
「その前に一つ、お願いがあるのですが」
「何でも言って下さい」
王子としても、どこか引け目があるのでしょう。王子は白雪姫の言葉を即座に快諾します。その早さ、王族として心配になるレベルです。
「小人の方々に挨拶をしに行きたいのですが」
「あぁ、あの小人の人達ですか。もちろんです。今から馬を準備するので、すぐにでも行きましょう。白雪姫が目を覚まさなくなって、心配していましたからね」
王子は爽やかな笑顔で、下仕えの人達にすぐに馬車の準備をするように言いつけました。結果的に目を覚ましたのですが、その直前には白雪姫の背中を殴りつけたのです。白雪姫が一言そのことを漏らせば、下仕えの首なんて一瞬で物理的な意味で飛びかねません。
それから一日ほど経った頃でしょうか、王子たちを乗せた馬車は森へ到着しました。
森の入り口からは、馬が通れないので徒歩になりますが、途中からは小人たちが踏んでけもの道のようになっているので、大して問題ではありません。
程なくして、一行は小人たちの小屋へ到着して、白雪姫は小さなドアを軽くノックしました。
「はーい」
すぐに返事が返ってきて、どたばたとあわただしい音が響いた後、ガチャリとドアが開き、一人の小人が顔を出しました。
「どちらさ……って、白雪姫!?」
「はい、お久しぶりです。七番目の小人さん」
小人は驚愕に目を見開きました。それもそうです。もうとっくの昔に死んだと思っていた人間が、元気に戸口の前に立っているのですから。
「あぁ、白雪姫は死んだはずなのに、俺はもう幻覚を見るほどに疲れ果ててしまったのか。だから家の中で家事なんてしたくないと思っていたのに‼ はっ、それとも、俺は本当に死んだのか!」
白雪姫はオーバーリアクションに驚く小人の頭を、こつんと軽く叩きました。
「幻覚ではありませんし、死んでもいません。目を覚ましてください」
後ろでこの流れについてこれずに、目を白黒させている王子を置き去りにして、白雪姫は家の中にズンズンと踏み込んでいきます。
短い間でしたが、家事をこなしてきた家でもあるので、間取りなんてとうの昔に頭の中に入りこんでいます。
白雪姫は、ドカンと小さめの椅子に座り、微笑みました。
「さて、これからは、私の時間ですわ」