第八話 止まらぬ攻撃
「早速だけど、死んでもらうわ」
女はそう言うと、部屋の中にある備品を手でかざす。途端、備品が浮遊を始めて四人めがけて飛んできた。
「う、うわ、危ない!」
四人はよけようと努力するが、もともと狭い部屋なので、てんやわんやの騒ぎになる。
「くそっ。これじゃいずれ捕まってしまう。鳥山、テレポートで俺らを外に出してくれ」
「で、でも、昨日の今日だから、力が発揮できるか……」
「一か八かだ。こんなところで野垂れ死にしてたまるか!」
「……わかった!みんな僕につかまれ!」
物陰に隠れ、三人は鳥山の手をガッチリ掴む。鳥山は目をつぶり、精神を統一する。次の瞬間、一同は駅前にワープしていた。
「え、駅か。電車に乗って、出来るだけ遠くに逃げよう!」
「そうはいくかしら」
四人は背筋に悪寒が走る。先ほどの女がすでに追いついていたからだ!
「と、鳥山!テレポート!」
「よ、よし!」
再び四人はテレポートをする。今度は、昨日の空き地に出た。
「もう、力が残っていない。これ以上のテレポートは無理だよ―――」
「すまん、鳥山。さすがの敵も、ここまでは追ってこないと思うけど……」
「大体、本間先生は何しているんだ」
「本間智恵子は少しばかり眠っているわ」
またあの声だ。振り向くと、当たり前のように女が立っている。
「眠らしたって、どういうことだ!」
「催眠術をかけたの。眠らせたらこっちのもんよ」
「それはどうかしら」
女の顔が歪む。「そ、その声は!」
「本間先生!」
眠らされたはずの本間が、五人の前に姿を現した!
「な、なぜ……。私の、催眠術が通じないなんて」
「どうやら、私の意識を操作するほどの力量はなかったようね」
「そ、そんな―――」
「サイコキネシスが得意なら、こっちもそれでいくわよ」
手を組み、呪文を唱える本間。途端、女の立っている地面から地鳴りがしたかと思うと、女の周りの土が次々と盛り上がり宙へ上昇を始めた。
「す、すげぇ……」
「漫画の世界だ……」
塊のまま宙に浮いた土は、本間が指を鳴らすと粉々になり、女の頭上に降り注ぐ。
「うわっ。ペッペッ!バッチぃ……」
「どうする?降参しとく?これでもまだ手加減しているほうだからね。本気でやると、ちょっとやそっと風呂に入ったぐらいじゃ、汚れは落ちないわよ」
「そ、そんなぁ―――」
「まだやるのなら。パイロキネシスをお見舞いするけど?」
「ひ、ひぃぃぃぃぃい!」
今の言葉が決定打となったのだろう。女は一瞬でテレポートをしてその場を後にした。
「た、助かった……」
その場にヘナヘナと座り込む四人。
「本間さん来るのが遅いですよ~」
「これでも催眠術と格闘していたんだから。文句は言わないでね。あと、みんな。あいつらみんなのことを死んでもらうとか言っているけど、あれたぶんハッタリだから」
「ハッタリ?」
「そう。いくら蘭渓でも、表向きには一自衛官の部下に一般人を殺させるマネはしないと思うわ。だから、安心していい」
「―――そうだよな。曲がりにも自衛官だからな。ハハ―――」
「一般人を殺すわけ―――」
「―――俺らって、一般人?」
「少なくとも、普通じゃないわよね―――」
「は、は、ははは……」
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「申し訳ありません!」
帰ってきた女がひれ伏して謝る。その先にいるのは、蘭渓徹と千葉守だ。
「まったく、これだから女は使えんのだ!」
「千葉くん。今の発言は女性蔑視として訴えられるぞ」
「しかし―――」
蘭渓は女を退室させる。女が行った後、千葉が再び話し出す。
「大臣。このままでは一向にことは運びませんよ!本間隊員とやりあえる、Sランクの人間を投入すべきです」
「バカ言っちゃいかん。Sランクの人間は数が限られているんだ。むやみに使うわけにはいかんのだよ」
「Bランクの人間では、本間隊員と互角にやりあえません」
「千葉くん。我々はあの四人の高校生―――狛良彦・小山優人・鳥山正樹・京田麻保―――が狙いなのだ。何も、本間隊員と互角と戦えなくても、この四人に勝ればそれでいいのだ」
「ですが、いつも本間隊員に邪魔をされます」
「だから、それはアクシデントだ」
「大臣は悠長に考えすぎです。それより、どうしてその高校生四人組を襲わなければいけないんですか?」
「あの四人は、私にとって爆弾なんだ」
名簿ファイルをパラパラめくる蘭渓。
「今度は、二人組でやらせる。そして、四人一度に襲うのではなく、一人ないし二人になったところを襲うんだ」
ページをめくる手を止める。
「この二人は、双子か?」
千葉に尋ねる。「二人とも、なかなか端正な顔立ちだが」
「そうです、双子です。兄の方は、パイロキネシスと念写。妹の方は、テレポーテーションとサイコキネシスがあります。そして、兄妹同士はテレパシーで意思疎通をすることができます。たしか、今度の試験でAランクに昇格するはずです」
「なるほど。よし、今度はこの二人にまかせることにしよう。兄弟なら息もピッタリだろう。すぐに呼んで来い!」
蘭渓に命令され、千葉は頭を下げて部屋を後にする。
『それにしても大臣は甘すぎる!こんなことだから、本間隊員に邪魔され負け続けるのだ。私なら、こんなに手間をかけずに済むだろうに―――』
廊下を歩きながら、千葉は心の中で憤慨していた。
『こうなったら大臣には悪いが、あの二人で一切の片をつけてもらうとしよう。どうせ、大臣が最後は手を下すのだから、結果オーライだろうし……』




