第七話 告白 Part2
「それで、木野さんは、今も『特殊能力部門』にいるのですか?」
鳥山が尋ねる。他の三人も気になったところだ。
「その質問には、後で答えることにするわ。アフガニスタンに派遣された私たちは、最初のころは平和に過ごしたわ。事件は、アフガンに来てから一か月半経った―――日曜日に起こった。ついに、政府軍と反政府勢力が大規模衝突を始めたの。今でも覚えている。かなり激しい争いだったから」
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『智恵子、第一小隊に出動命令が出たから、ちょっと基地を留守にするわね。後、頼んだわよ』
『木野さん、危険です!特に今の時間帯は空襲も激しいですし!』
『智恵子、あたしたちは何のためにここにいるの?すぐに双方の武器の在り処を見つけ出して衝突を最小限にしなければ、本部隊に犠牲が出てしまう』
『でも、そんなことしたら、木野さんまで―――』
『私は平気よ。第一小隊は、うまくいけば明日にはまたここに帰還できるはずだから。大人しく待っているのよ。あなたたち第二小隊の出動は明後日以降になるかもだから、覚悟しておきなさい』
『木野さん!』
『あ、そうだ。智恵子さ、休日に原宿行ってみたいって言っていたわよね?日本へ無事帰ったら、あたしの奢りで連れて行ってあげるよ。あたしたちみたいな美女二人が歩いていたら、男どもはみーんなイチコロね。だからさ、元気出せって!』
『う……ん。分かりました。い、行ってらっしゃい!必ず、必ず原宿に連れて行ってくださいね!』
『了解!』
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「でも、結局木野さんが私を原宿に連れて行ってくれることはなかった。次の日になっても、第一小隊が基地に帰還しなかった。テレパシーを送ってくれた隊員がいたおかげで、双方の武器の在り処は判明したんだけど、第一小隊は消息を絶ってしまったの」
「そんな……」
「すぐに私がいた第二小隊に、第一小隊捜索命令が下った。サイコメトリーや透視を使って、ようやく見つけ出したわ。ただし、死体でね」
四人は絶句する。本間が語っていることは、平和な日本に住んでいる自分たちにとって、全く知らない世界だからだ。
「空襲で、全員即死だったみたいよ。私は、死体の山から、ようやく木野さんを見つけ出した。その死に顔は、不思議と優しい感じがしたわ。私は、涙をこらえてほかの隊員と共に死体回収に当たったわ」
「そんな……こと……」
京田が思わず泣き始める。
「あぁ、ごめん。ちょっと、残酷だったわね」
「でも―――それこそ、超能力で空襲を予知したりすることはできなかったんですか?」
「こ、こら!小山!」
「誤解しないでほしいのは、全員が私みたいに七つも八つも超能力を使うことは出来ないってこと。せいぜい、使えるのは二~三個が限度よ。木野さんも、使えたのはパイロキネシスとサイコメトリーくらいだったわ」
「そうなんだ……」
「ところが、上層部はこの件をなかったことにしようとした」
「えっ!」
「世間的には、『特殊能力部門』なんていうのは存在していない組織だから、バレたら大変なのよね。でも、私は納得できなかった。せめて、普通の自衛隊員として扱ってくれてもいいじゃないかと思ったから。日本に帰った後上司に直談判をした。けど、けんもほろろに終わった。これじゃあ、埒が明かないって思ったから、テレポーテーションを使って、私は防衛省に直接行ったの」
「ぼ、防衛省⁉」
「そう、そこで、偶然にも私はある話を立ち聞きしてしまったの」
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『第一小隊が全滅したというのは、外部には漏れていないだろうな?』
『それにつきましては、箝口令をしいてありますので、まず大丈夫です』
『ふん。それにしても、しくじったな』
『申し訳ありません。第一小隊に未来予知能力のある人間が一人もいなかったことが今回のミスです』
『──ま、過ぎたことはしょうがない。どうせ、世間から爪弾きにされた者の寄せ集めみたいなものだ。死んだところで困ることもない。所詮、やつらは捨て駒なのさ』
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「その話を聞いて、私は目が覚めた。結局、自分たちは捨て駒にしか過ぎなかった。普通の自衛隊員を守るための保険でしかなかった。木野さんの死は、やつらにとっては痛くも痒くもないことだって―――。次の日、辞表を残して私は寮から脱走した。お金はあったから、それを学費にして医学部用の予備校の寮に入ったの」
「でも、どうしてまた医者になんか……」
「私みたいな人間を増やしたくない。医学なら、そんな悩みも解決できるんじゃないかと思って。猛勉強して、医師免許をとって、それだけじゃ足りないから独学もして。それでようやく、人の超能力を弱める術を会得することができて、この病院を開業したの」
「そうだったんですか―――」
「そして、私が立ち聞きした話をしていた二人の男が、すべての黒幕ということになるわけ」
「だ、誰ですか⁉その、男たちって」
「十年前は、防衛省副大臣。そして今は、防衛大臣と成り上がった人物」
「ちょ、ちょっと待ってください。ということは、黒幕って──」
「そう。蘭渓徹よ」
「な、なんだってー!」
四人は驚いた。
「ら、蘭渓って―――」
「嘘―――」
「本当よ。そして、さらに驚くことは、蘭渓徹も超能力を操るの」
「え、そうなの⁉」
「たまたま蘭渓を近くで見る機会があってね。蘭渓の姿を生で見た時、全身の悪寒が走った。自発的に抑えていたのだろうけど、それでも滲み出てくる『気』の迫力が凄かったから。私は、彼の脳内を透視しようとした。けど、遮断されて見ることが出来なかった。自分の脳内を遮断するなんて、並大抵の超能力者にだってできないことよ」
「そんな―――」
「そしてもう一人の男は、おそらく蘭渓の忠実な部下として有名な、千葉守だと思うわ」
「あ、俺知っている。時々テレビにちらっと映るのを見るよ」
「でもさ」良彦がつぶやく。「何で俺たちが狙われなきゃいけないわけ?」
「それについては、私もハッキリとは分からないわ。でも、あいつらのことだから、あなたたちの調べはついているはずだから、何かしらの理由はあるはずよ」
「そんなこと言われてもなぁ」
「とにかく、あなたたちのことは私が守るわ。Aランクまでなら簡単に倒せるわ。ただ、問題なのはSランクレベルの人間が来たときね―――。まぁ、そんなに心配することは無いわ。少なくとも、昨日の男程度なら五十パーセントの力でも軽々倒せるわよ」
「なら、安心だけどな―――」
「ったく、襲う理由くらい教えてくれてもいいのに」
「でも怖いわ。暗殺者にビクビクしながら暮らすなんて」
一同に怯えの表情が浮かぶ。
「大丈夫よ!人数が限られているんだから、毎日来るわけじゃないし」
「慰めになってねーよ!」
と、その時だった。
ピーン……ポーン!
玄関のドアベルが鳴った。
「だ、誰?」
「患者は私たちしかいないはずなのに……」
「ちょっと、見てくるわ。あなたたちは、隣の部屋に隠れていて」
本間に言われるがまま、隣の部屋に移動する四人。
「誰なんだろう。まさか、刺客?」
「ま、隠れているんだから大丈夫でしょ」
「『そうは問屋を下さない』って言葉、知ってる?」
聞きなれない声がした。四人は、恐る恐る声の方へ顔を向ける。
立っていたのは、キャットスーツを着た見慣れない女だった。
「だ、誰?」
「そうね。あなたたちの言葉を借りるとするならば、『刺客』ね」
そう言って、女はニヤッと笑った。




