第五話 深まる疑惑
「も、申し訳ありません。ガキどもを仕留め損ねました」
月野が、土下座して謝罪の言葉を述べる。その先に、先ほどの二人の男がいた。
「ほ、本間隊員が急に現れまして―――」
「馬鹿が。本間隊員の能力にCランクの貴様が、かなうわけがなかろう。曲がりにも、彼女はSランクにいた人間なのだから」
「まぁまぁ。少しは落ち着かんか」
お高い革の椅子に座った男が、諭すように怒る男をなだめる。
「今回のことで向こうの力も大体わかったんだ。まんざら無駄足でもなかろう」
「だ、大臣……」
「子供たちの始末は、私が人選して決める。月野君。君は、自分の能力を高めることだけに一生懸命になればいい。だが、我一番に行こうとする勇気だけは買ってやる。さて―――」
机に置いてあるファイルをパラパラめくる。
「この男にしよう。Bランクだが、十分健闘はできるはずだ」
「こいつは、有望株の一人です」
「よし。あとは、本間隊員の目をそらせる方法を考えなくてはな―――」
「大臣、私に考えがあります」
*******
「熱海旅行一週間⁉」
「マジすか!」
「えぇ、懸賞で当たったのよ。あなたたちの診察が終わり次第、すぐに東京駅に行くの」
「いいなぁ~」
再び治療に訪れた四人は、本間が熱海旅行すると聞いて羨んでいる。
「熱海か。行ったことないな」
「あら、私もよ」
「でも、その懸賞、応募した覚えがないのよねぇ」
「忘れているだけなんじゃ?」
「そうそう。オバンだし」
「失礼ね!私はまだ花の二十代よ!──あと一年しかないけど。と、とにかく、一週間留守にするから、何かあったら連絡してね」
「りょーかい!」
治療が終わり、旅行カバンを持って意気揚々と病院を後にした本間を、四人は元気に見送る。
「しっかし、熱海か~。いいなぁ」
「ま、お土産に期待することにしよう」
「おっし、みんな午後から暇だろ?渋谷に行くぞ!」
「おー!」
渋谷駅前は休日のせいか、大勢の若者でにぎわっている。
「この前の水曜日に、『ミニモニ。』の新曲が発売になっただろう?俺、まだ買っていないんだ。付き合ってくれよ」
「あぁ、それなら僕もほしかったんだ。一緒に行くよ」
「おーけー。狛と京田はどうする?」
「俺も二人に付き合うよ」
「私も」
「へーい、そこの四人組!」
突然、サングラスにアロハシャツを着た男が話しかけてきた。
「君たち、お友達?」
「まぁ、そうです」
「ちょっとアンケートに答えてくれないかな?」
「アンケート?それって、キャッチセールスってやつじゃないですか?」
鳥山が男に問いただす。良彦が質問する。
「キャッチセールスって何さ?」
「詐欺みたいなもんだよ。アンケートと偽って茶店とかに呼び出して、高額な商品を買わせるって、あれさ」
「と、とんでもない!断じて、そんなものじゃないよ」
アロハ男が全力で否定する。
「本当に、純粋にアンケートに答えてほしいんだよ。見返りは、図書券千円分。どう?別に悪い話じゃないだろう?」
「どうする?」
「まぁ、騙されたら警察を呼べばいいんだし。俺は付き合ってもいいぜ。CDはそれからでいいや」
「私も、みんなが良いなら付き合うわよ」
「んじゃ俺も。鳥山は?」
「―――ま、まぁ、社会勉強の一環として、付き合ってやるか」
「よし!決まりだ!じゃあ、あそこの喫茶店でアンケートに答えてもらうことにしよう」
アロハ男が、四人を連れて店内へエスコートする。
「みんな、好きなのを飲んでいいよ。おじさんのおごりだから」
「マジで?じゃあ、おれアイスコーヒー!」
「烏龍茶をいただきます」
「私オレンジジュース」
「メロンソーダ!」
運ばれてきた飲み物で、しばし喉を潤す。
「さて。ジュースも飲んだことだし、さっそくアンケートだ。まず一問目。最近驚いたことは何ですか?」
「学校の先生が株で破産していたことかなぁ。ばれて生活指導主任から降ろされたんだよ」
「FRBが金利を利下げしたことかな?てっきりしないと思っていたから」
「特にないわ。毎日が驚きの連続だから」
「母さんが後妻だったこと!」
「おーけー、おーけー!みんな個性があっていいねぇ」
その後も質問にドンドン答えていく。
「よしっ。これが最後の質問だ。みんな、ご苦労さん」
「あー、やれやれ。長いよ」
「で、何ですか?最後の質問は?」
「じゃ、最後の質問、いくよ」
一呼吸置く。
「―――みんなが使える超能力って、何かな?」
一瞬の静寂。
「―――どういうことですか?」
「君たちはどんな超能力を使えるんだ?」
「あんた、何者だ?この前の女といい、あんたといい―――」
「答えている暇はない」
両手を広げて差し出す。次の瞬間には、目の前の景色が郊外の空き地に変貌していた。
「て、テレポーテーション……」
「僕のより凄いや……」
「ふん。この程度で驚いてもらっちゃ困る。僕はこの前のCランクの女とは違う」
「し、Cランク?」
「しゃべりすぎたかな?とりあえず、おとなしく捕まってもらおう」
人差し指を突き出す。とたん、炎が四人めがけて飛んでくる。
「に、逃げろー!」
「鳥山、お前もテレポートできるんだろ?早くみんなを……」
「無理言うな。ただでさえ治療で力が鈍っているのに、こんな遠くまで移動できないよ!」
「くっそ、あ、本間さんに連絡すれば―――」
「で、でも、本間さん、今、電車の中じゃ……」
「あ、そうか!くっそ、こんな時に―――」
四人とも逃げまくる。だが、テレポーテーションで、アロハ男が軽々追いついてしまう。
「無駄だ、無駄だ。どこへ逃げても、テレポーテーションで簡単に貴様らなど追いついてしまうわ」
「くっそ……もはやこれまでか」
みんなが諦めかけたその時だった。
「が、があぁぁああ!」
男の体が炎で包まれたのだ。
「こ、これは―――」
「今度は許さないわよ」
声を聞いて四人は驚いた。熱海に向かっているはずの、本間がいるからだ。
「本間先生、熱海は……?」
「どうもおかしいと思ったから、サイコメトリーで当選通知ハガキを読み取ってみたら、こういうわけだったのよ」
「偽物だったってわけか……」
「さぁ、私が相手よ!」
本間が男と対峙する。
「あんたが本間智恵子か。お手合わせ出来て光栄だ。でも、俺はBランクの中で有望株と言われているんだ。そこら辺の雑魚とは違う」
「私から言わせてもらえば、あなたもその雑魚と似たり寄ったりだけどね」
「な、何っ?言わせておけば……」
男が人差し指を突き出す。
「死ねぇ!」
炎が指から飛び出す。だが、到達する直前に本間の姿が消える。
「……?」
「私はここよ」
何と。男の背後にテレポーテーションしていたのだ。
「は、早い……」
本間は目を閉じる。そして、口の中で何かを唱える。とたん、男の目の前に生えている木が揺れ始めたかと思えば、突如男めがけて飛んできた!
「う、うわぁあああ!」
逃げ惑う男。追いかける木々。
「な、なんだ?あれ」
「たぶん、サイコキネシスを使ったんだと思う。けど、すごいパワーだ。あんな大木を軽々持ち上げてしまうなんて―――」
「ひぃいいい。許してくれ!俺が悪かった!だから、もう、止めてくれぇええ!」
男が泣きながら本間に懇願する。
「駄目よ。これぐらいで許してなるもんですか」
「た、頼む!悪かった!もう、危害を加えたりしない!だから、頼む!」
その後一時間、男は大木の群れと鬼ごっこをしていた。
「はぁ、はぁ、はぁ―――。もう、走れない―――」
ガックリ座り込む男。本間は樹木を元の位置に戻す。
「あんたのボスに伝えといて。二度と関わるなって」
「は、はいぃぃぃいい!」
それだけ言うと、男はテレポートで姿を消した。
「本間先生」
男が去った後、良彦が本間に声をかける。
「いったい、あいつは何者ですか?あいつだけじゃない。この前の女もそう、俺らのことを狙ってきた。だけど、本間先生のことをあいつらは知っていた。知らない、無関係なんて言い訳はもう通用しませんよ。本当のことを話してください」
「―――明日、ちゃんと話すわ。とりあえず、今日は帰りなさい」
「先生!」
狛の言葉を遮り、本間はテレポートでその場を後にした。




