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僕が僕であるために。  作者: 大場夜空
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第四話 刺客は突然に……

「失礼します。昨日、電話で話してくれた、十代男性の身元が割れました」



 女性の職員が、資料を差し出す。男は、黙ってそれを受け取る。



「名前は狛良彦。桶浜高校に通う高校生です。どうやら、透視能力に目覚めたそうで―――」


「透視?なるほどな……」


 男は資料にざっと目を通す。が、その表情は次第に厳しさを増す。



「おい!ほかの三人の資料も持って来い!」



「は?」


「小山・鳥山・京田の資料だ!いいから、早く持って来い!」


「わ、わかりました……」


 職員は急いで三人分の資料を用意して、男に差し出す。


「ん。ご苦労……」

 しばし、資料をじっくり読む男。だが、半分も読み終わらないうちに額に手を当てて、「なんてこった」とつぶやいた。



「本間隊員は、どうやらとんでもない武器を手に入れたようだ……。問題は、そのことに彼女が気づいているかどうかだが……」



「大臣?」



「この四人をすぐに捕らえろ!」



「えっ?しかし、どうして」


「理由は聞くな!別に殺さなくていい。私が手を下すからな!すぐに、隊員名簿を持ってくるんだ!」


 男がそう叫んだ瞬間、勢いよく部屋のドアが開く。入ってきたのは、男の右腕だ。


「何事だ⁉」


「み、見張りの存在が気づかれました!」



「な、何だと⁉」



「申し訳ありません。見張り役の隊員がヘマをやらかしまして……」


「それで、本間隊員は?」


「大臣の差し金であることは勘付いていているようでしたが、詳しい内容までは引き出せなかった模様です」


「そうか……。見張りの存在を向こうに気づかれたのなら、早くガキどもを始末すべきだ。しかし、物事は慎重に進めなければならない。人選は私が―――」



「失礼します」



 突然、部屋に女性が入ってきた。「大臣。私目にお任せください」


「君は―――月野くん、だったね?」


「大臣、彼女は確かCランクですよ。正直、ガキどもにもかなうかどうか……」


「大丈夫です。必ずや仕留めてごらんにいれます」


「彼女がやると言っているのだから、やらせてみればいいじゃないか」



「大臣!」



「君に任せよう。生きて捕らえるだけでいい。『殺す』だの何だの脅し文句を使ってもいい。ただし、決して殺してはいけないよ。分かったなら、すぐに行きなさい」


「はっ」

 一礼して、部屋を後にする。


「大臣、本当に彼女に任せる気ですか?」


「ふっ。まずは小手調べさ。向こうの力を、知る必要はあるからな……」




*******




一週間後、狛たち四人は再び本間の病院に集合していた。本間の準備が終わるまで、テレビを見ながら談笑している。


『南スーダンへ派遣していた陸上自衛隊の部隊が、全員無傷で本日帰国します。南スーダンは、今年二月に反政府勢力と政府軍の大規模な衝突がありましたが、部隊は運よく中心地から逃れており、その後の小規模なクーデターも巧みに潜り抜けてきました』


『今回、部隊の指揮を執っていた蘭渓徹防衛大臣に、国内外から評価の声が届いています。ここで、坂下総理大臣のコメントです』



《蘭渓大臣の、華麗なる采配で部隊全員を無傷で帰還できることは、素晴らしいものであります。今後も、自衛隊の発展に、ますます尽力していただきたい》



「すごいな。この、蘭渓って大臣」

ポテチを食べながら、小山。「お、そういえば、この前新宿で見かけたよ」


「バカだな、お前。現役の大臣がそんな所に行くかよ。騒ぎになるだろ?」


「じゃあ、他人の空似か……?」


 蘭渓徹は今日本で一番人気のある大臣といっても過言ではない。坂下内閣の要であり、自衛隊に対する采配は目を見張るものがある。次期総理大臣との噂もチラホラと立っている。


「いいなぁ。俺、自衛官になろうかなぁ」


「小山、お前将来決まっていないの?」


「何か、自分のやりたいことが見つかんなくてさぁ。防衛大に入ったら、給料もらえるんだろ?試験も、税金で賄われるから無料だし」



「安易にそんなことを言うもんじゃないよ」



 準備を終えた本間がいつの間にか四人の前に姿を現していた。


「先生、でも、選択肢の一つではあるでしょう?」



「冗談じゃないわ」



 そう言い放つ本間の顔が真剣だったので、一同ビクッとなる。


「とにかく、自衛官なんてなるんじゃないわよ。さ、治療を始めるわ」

 

 治療は淡々と進み、また一週間後に来ることになった。


「自衛官になるなって言った本間先生の顔、マジだったよな」


 帰路、並んで歩きながら小山がつぶやく。


「あぁ。あんな先生の顔、見たことがない」


「自衛隊に悪い感情でも、抱いていんのかね?」


「でも、普通じゃなかったわ。あの、声のトーンも」


 一同、黙り込む。


「ま、まぁ、気のせいだろう!景気づけに、ラーメンでも食いに行こうや!」

 小山が無理に明るい声を出す。三人も賛成し、近所のラーメン屋に入ろうとしたその時だった。



 頭上から炎が降ってきて四人の足元に引火した。



「うわっ。あっち!」

「なんだ、なんだ?」



「あ、あれっ!」



 京田が指さした方に一同視線を向ける。

 そこには、黒ずくめの服装に、顔をアニメキャラのお面で隠した人物が一軒家の屋根に立っている。


「何だぁ、あいつ?」


「おーい、何しているんですか?」


「悪いが、あなたたちには死んでもらう」

 淡々と語る。声からして、女だ。「あなたたちに生きてもらっては色々と厄介なのよ」


「な、何がなんだか分かんねぇよ。いきなり現れて、死んでくださいなんて」


「中二病もいいところだぜ」


「だいたい、そんなセリフは今から犯罪しますって言っているようなものじゃないか」


「そうよ!警察に行ってやるわ!」



「警察なんかあてにならないわよ。無駄骨を折るだけ」



「あ、あてにならないって、どういう」



「ゴチャゴチャ言っている暇はない!」

 屋根から飛び降りる女。



「さっさと片をつけるとするか。覚悟しろ!」

 そういって、人差し指を突き出したその瞬間だった。



 女の後方から炎が放射してきて、全身を包み込んだのだ。



「く、くわぁぁぁあ!」



 断末魔の叫びをあげる。と、思ったら、すぐに消火器で火を消し去られる。



「ずいぶん卑怯なことをするのね」



 声を聞いて四人は驚いた。声は、まぎれもない本間のものだからだ。


「私がお相手しましょうか。といってもその程度の能力なら、あなたを丸焼きにするなんて屁じゃないけど」


「あ、あんたは―――誰だ!」

 お面が外れ素顔を晒した女が息も絶え絶えに尋ねる。



「本間智恵子。名前ぐらい聞いたことあるでしょ?」



「あ、あんたが!」


「さっさと行きな。次は本気でやるよ!」


 そういって、左手を広げて突き出す。


「わ、わかった。分かったから……」


 そう言うと、女は転がるようにその場を去った。


「みんな、ケガはない?」


 本間が四人に駆け寄る。


「お、俺らは大丈夫ですけど―――」


「本間さん、今の人は―――?」



「私も知らないわ」



「えっ、でも―――」


「さ、みんな、晩御飯まだでしょ?私がおごるわ。ラーメンって言っていたわよね」


「え、えぇ……」


「よぉし。ラーメン屋へ、レッツゴー!」


 四人は戸惑いながら、妙にはりきる本間の後についていった。

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