最終話 僕が僕であるために。
三日後。良彦たちは、本間の病院を訪れた。だが、この日は来院日ではない。だから、本間は驚きながら彼らを出迎えた。
「いったい、どうしたの?もしかして、術が弱かった?」
「ちょっと、お話がありまして」
「何よ、急に改まって……」
待合室へ五人を通す。
「で、何なの?私に話って」
「―――治療を、これで終わりにしてほしいと思って」
「……えっ?」
意味が読み込めなかった。「どういうこと?」
「だから、今やっている治療を、終了してほしいんです」
「な、何か副作用とかあった?それとも、術が効かなくなっているとか?」
「そういうことじゃないです」
「じゃあ、毎週来るのがきつくなった?」
「そういうことでもないです」
「じゃあ、どうして―――」
「橋本さんたちが来たとき、本間先生言っていたじゃないですか。未来に向かってひたすら進むことは、普通の人間も超能力者も同じだって。その言葉を聞いてハッとなったんです。もしかしたら僕たちも、過去を言い訳にして一歩踏み出すことを躊躇っていたんじゃないかって……」
「確かに、目覚める前の生活にしがみついていた部分はあったし、普通の人間に戻ることに頭が夢中で、超能力者であることを受け入れて生きていくって選択肢を失っていたんだ」
「それで、みんなでよく話し合って、今回の決断に至ったんです」
「別に力を持っていてもそれを自分でセーブすればいい。本間先生は、私たちよりずっと力が強いのにそれが出来ている。だったら、力の弱い私たちに出来ないはずはないって」
「それに、いつまでも本間先生や興亜和尚のお世話になるわけにはいかないので。だったら、いっそのこと治療を止めて生きていこうって、みんなで決めたんです」
「勝手に聞こえるかもしれないけど、これが、僕たちが出した結論です。今まで、お世話になりました!」
立ち上がって、本間に深々とお辞儀する五人。時計の秒針を刻む音が鮮明に聞こえる。
「―――やっぱ偉いわね、あなたたち」
感嘆の声を漏らす本間。「ちゃんとそういうことを考えられるって、なかなか出来ることじゃないわよ」
「えっ……。怒ったりしないんですか?」
「んなこと、するわけないじゃない。どうして怒るのさ。みんなが決めたことを、私がとやかく言う権利はないわ」
「それじゃあ……」
「いいわ。そこまで言うなら、治療は今日をもって終了とします。だけど、たまには顔ぐらい見せてよね」
「は、はい!」
「お世話になりました!」
ガッチリと握手を交わす。その後、しばらく談笑した後、良彦たちは病院を後にした。その背中は、橋本兄妹以上に光って見えた。
本間は見送りで、後ろ姿をジッと見つめる。だが、次第に視界がぼやけてきて最後はまともに見ることはできなかった。
僕が、僕であるために。私が、私であるために。
彼らの未来への新たな一ページは、まだ、始まったばかりだ。
《了》




