第十話 新しい仲間
「そうはさせないわ!」
突如、強大な炎が川めがけて飛んでくる。火は消えることなく河川全体を包み込む。川は次第に力を弱めていった。本間が助けに来てくれたのだ。
「な、なんていう力……」
Sクラス級の力を見せつけられ、怖気づいてしまう女。そのまま座り込んでしまう。
「ほ、本間先生!早くその女を……」
「ちょっと待って」
ゆっくり女に近寄り、顎をくいと掴む。
「やっぱり……」
「や、やっぱりって?」
本間の行動を訝しく思い、近づく二人。
「この娘、操られているわ」
「操るって、催眠術的な?」
「おそらく。ほら、よく見ると目に生気がないでしょう?」
そう言われ、二人は女の顔を覗き込む。「た、確かに……」
「けど、今までの刺客には、こういったことは無かった―――」
しばし考え込む。「とりあえず、この娘には話を聞く必要があるわね」
「あ、そうだ!大変だ!」
鳥山が声を上げる。「確か、狛と小山に元にも刺客が―――」
「何ですって!」
*******
「いやぁー!やっぱ美菜子可愛いなぁ!」
グッズをたくさん抱えながらご満悦の小山。「美菜子のためなら死ねる!」
「そこまで言うか……」
ルンルン気分の小山に比べ、良彦はグッタリしていた。ペンライトの件もそうだが、いわゆる『ファンのノリ』というのについていくので精一杯となり、肝心の歌をあまり楽しめなかったのだ。
「あー、これで握手会も行けたら文句なしなんだけどなー!」
「握手会?藍野美菜子の?」
「そう!だけどさ、やっぱり倍率高くて。なかなか取れないんだよな。あー、でも、美菜子を近くでもっと見たい!」
「そんなの簡単じゃないのか?」
「へっ?」
目が点になる小山。
「鳥山に頼んで、こっそり藍野美菜子の元へ行けばいいじゃん」
「ななな何を言い出すんだ!」
突然慌てふためき始める。
「それか、俺が透視で様子を見てもいいぜ」
「そ、そんなこと、ファンとしては絶対……。お、俺は認めんぞ!いいか⁉至極まっとうな手段で俺は―――」
「私の勝手でしょ!好きにして!」
突然後ろで女の金切り声がした。二人は驚いて振り返ると、十代くらいの女性が男に無理矢理車に乗せられようとしている。
「な、何だ?」
「もしかして、誘拐!?た、助けないと!」
「おっしゃ、喧嘩ならだれにも負けん!」
そう啖呵を切ると、小山は一直線に男のもとへ駆け寄る。
「やいやいやい!大の大人が女の子を堂々と乱暴か?」
「なんだ、お前」
小山に気づいた男がじろりと睨み付ける。「ガキはすっこんでいろ!」
「何だとー!よーし……」
目をつぶり精神を集中させる。そして、カッと目を開いた次の瞬間、男の体は宙に浮いて車のボンネットに叩きつけられていた。
「さぁ、早く!」
唖然とした表情の女性の手を握って、小山は良彦の元へ戻る。良彦は、タクシーを拾って待機させていた。
「さぁ、このタクシーに乗って!」
三人を乗せたタクシーは、急発進してその場を後にした。
「いやぁ、危なかったですね!小山、ナイス!」
ねぎらいの言葉をかける。だが、当の本人の表情は硬い。
「どったの?」
「み、み、み……」
「み?」
「み、み、み、みな、みな……」
震えながらは横に座っている女性を指差す。
「何だよ……」
ゆっくり視線を移し、俯いた女性の顔をじっと見る。どこかで見たことあるような―――。
「あーっ!君、ひょっとして、藍野美菜子⁉」
「ば、バカ!そうでかい声を上げるな!」
これにはさすがの良彦も驚いた。なんと、女性はついさっきまでライブステージに立っていた、藍野美菜子だったからだ。
「へぇ~。こんなこともあるんだなぁ。あ、俺、狛良彦。こっちは、小山優人。こいつ、藍野美菜子の大ファンなんだよ」
「そ、そうなの?」
反応する美菜子。「た、助けてくれて、あ、ありがとう……」
「い、いえ……。と、と、当然のことをしたまで、です……」
少し慣れてきたのか、何とか言葉を返す。
「それにしても、さっき揉めていた人って……?」
「あれは、私のマネージャーよ」
「ま、マネージャー⁉悪いことしちゃったかな……」
一気に青ざめる小山。その顔を見て、美菜子はプッと吹き出す。
「大丈夫よ。あの人、ライブ後のスケジュール勝手に変えたのよ。本当なら、ライブ終わったらそのまま家に戻れたはずなのに―――」
「た、大変なんだね」
「ホント大変。でも、ファンの人たちの声援が、支えになってくれているから。ところで、君に聞きたいことがあるんだけど」
「えっ?な、何?」
戸惑った表情を見せる。
「マネージャーを倒した時、あなた、何したの?」
「し、しまった……」
小山は頭を抱える。あの時とっさにサイコキネシスを使ってしまったが、美菜子に疑問を与えてしまったようだ。
「あ、いや、だから、その……」
だが、美菜子は小山の手にそっと自分の手を重ねると「私もなの」とつぶやいた。
「えっ……?」
「私も、使えるの。超能力」
「な、何だってー!」
これには良彦も驚愕した。藍野美菜子が超能力を使えるなんて、世間は狭いものだ。
とりあえず、タクシーを降りて公園で話を聞くことにした。
「それで、美菜子ちゃんはどんな超能力が使えるの?」
「私が使えるのは、いわゆるサイコメトリーというもの」
「あぁ、物体から人の感情や考えを読み取るってやつか」
うなずく美菜子。
「といっても、そこまで力が強いわけじゃなくて、意識してもボンヤリとしか分からないから、日常生活には支障ないの」
「何だ……。それならよかった」
ホッと胸を撫でおろす二人に、「でも―――」と言葉を続ける。
「例えば、歌番組でスタッフからマイクを渡されて受け取ったとき、すごい怨念を感じたの。じっと集中してみると、そのマイクは五年前に某アイドル歌手が歌番組で使ったものだった。その歌手は、当時薬物使用疑惑をかけられていて、その歌番組に出演した三日後に自殺したということが分かったわ。このように、人の恨みなどの負の感情は、どんなに力が少なくても感じ取ってしまうらしいの」
「それは―――」
「結構、負担なのよ。他人のプラスのオーラはあまり感じないのに、マイナスのオーラはどんどん感じ取ってしまう。結構、ストレスになるのよね」
すっかり黙り込んでしまった二人に、「あら、ごめんなさい」と明るく取り繕う。
「なんか、愚痴みたいになっちゃったわね」
「あの―――」
小山がゆっくり切り出す。「良い医者を知っていますよ!」
「えっ……?」
「俺らも、そのお医者さんに掛かっているんです。その医者も超能力が使えて、完全に消し去ることは難しいけど、普通の人間として暮らすのなら支障がないくらいにしてくれます!だから―――」
「ありがと」ニッコリ笑う美菜子。「でも、平気よ。これくらいの事でへこたれるようじゃ、厳しい芸能界で生き残ることは出来ないわ!」
「そ、そう―――」
ガッカリという表情を一瞬見せるが、すぐに無理矢理笑顔を作る。
「で、でも、こうして美菜子と一緒の時間を過ごせて、楽しかったよ!」
「あの、俺もいるんだけど」
「てめぇはおまけ!」
良彦にそう吐き捨てると、美菜子に向き直る。
「だからさ、その―――これからも応援するよ!」
「あ、ありがとう……」
照れながら小山の差し出した手を握り返す。
「こんなにストレートにエール送られたのは、初めてだわ」
「た、たははは……」
甘酸っぱい光景を見せつけられ、一人面白くない良彦。
『帰っちゃおうかな……』
そんなことを考えていると、「こらっ」と突然後ろから声を掛けられた。
「君たち、こんな夜中に何をしているんだ」
声のする方を向くと、男の制服警官一名が、こっちに歩み寄ってくる。
「見た感じ、高校生だな―――」
「あ、あ、あ、すんません!すぐ、帰りますんで!」
「そういうわけにはいかない。君たち、とりあえず名前と住所を」
「ほ、本当に大丈夫なんで!」
「感心しないな。警官に楯突こうとは。ならば、こうだ!」
人差し指を突き出し、「覇ぁ!」と叫ぶ。次の瞬間、炎が三人めがけて飛んでくる。
「うわっ!パイロキネシス⁉」
慌ててよける。「てめぇ!警官じゃないな!」
「その通り。抵抗するようなら、お前らを殺さなければいけない」
「ケッ。ハッタリかよ」
良彦と小山は、本間の言葉を思い出す。
『殺すなんてセリフ、脅し文句だと思うから真に受けるな』
「狛、美菜子ちゃんを頼む。俺だけでも止めて見せる!早く!」
「う、うん……。美菜子ちゃん、しばらく隠れていよう」
「わ、わかったわ……」
二人は近くの草むらに逃げ込む。
「さぁ、どっからでもかかってこい!」
「ではお望み通り」
人差し指を再び突き出す。とたん、炎が小山めがけて飛んでくる。間一髪でかわすと、水飲み場に身を隠す。
「くそっ。迂闊に動けねぇ!鳥山と京田がいなくてよかったぜ」
「甘いな」
歩み寄ってくる男。「あとの二人は、妹が始末しているはずだ」
「な、なんだって!」




