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七話:バーカルロイド2998

10月20日 5時2分



 気が付いたら、辺りは静まり返っていた。

 どれだけ時間が経ったのだろうがぼくにはわからなかった。

 すでに戦闘は最終防衛ラインに移行したのだろう。戦火の光は衛星に地表近くで輝いていた。

 ぼくはスティックを動かす。機体が反応しない。

 推進系統に異常が出たのだろうかと思ったが、操縦系統のシステムが落ちていることに気付く。

たぶん、さっきの爆圧で操縦系統の一部に負荷が大きく掛かり他のシステムを殺さないように自動セルフ機能が作動したのだろう。

 ぼくは、操縦系統のシステムを再起動させる。

 すぐさま操縦系統に全体に異常伝える警報が鳴る。四肢が全て千切り取られていた。


――帰るのは難しいな。


 ぼくは救難信号を出す。

 だれが拾うかわからない。

 敵かもしれない見方かも知れない。

 でも、ぼくはどっちが来てもいい。

 どうでもいいのだ。

 彼女がいない。

彼女のいない世界だ。

 ぼくは、軍に入ってから一度も考えたことがなかった。

 いや、考えるべきだったのかもしれない、彼女なら大丈夫だそんなことを心の中でそう思っていたのかも知れないぼくは。

 戦争が終わったらまた、いつもの生活に戻れる何って思っていたんだ。

 ぼくはバカだ。戦争なんだぞ。

 殺し合いをやっているんだぞ。どうして死ぬことを考えなかったんだ。

 瞳から溢れんばかりに水球がヘルメット内に浮いた、ぼくは泣いた。

 両親の死でも泣かなかったぼくが、彼女の死で泣いた。

 大粒の涙は頬をつたうことはない、ここは無重力だ。水球となりヘルメット内に溜まる。

 ふと、視界に敵機の残骸が流れていた。

 たぶんぼくが落とした機体だ。

 初めて落とした機体。

 初めて人を殺した。

 大切な人を殺した機体。

 その残骸は宇宙に身を委ねるかのように流れ去ろうとしていた。

 その先には彼女の機体だった機体の下半身が流れていた。

 彼女の機体の足はラインを青く塗装していたからすぐにわかった。


「仇を取ったよ、シャラ……」


 そう呟く。

 その足に敵機がぶつかる。

 敵機の残骸から何か光るものがこぼれ落ちるのが見えた。

 太陽の光で反射したのだろうか、ぼくはそれをズームする。

 三角形の小さな物だ。ぼくはさらにズームする。

 それは見たことがある物だ、バーカルロイド2998、人格構成プログラム。

 ぼくは、コクピットを開ける。

 バーカルはそれほど遠くない。ぼくは機体を蹴り宇宙を泳ぐ。

 蹴るのか少し弱かった、鈍く進む。

 もう少し、もう少しだ。

 ぼくは手に取る、間違いないバーカルだ。

 彼女の物が燃え尽きずに残ったのだろうかとぼくはそれを裏返す。

 そこにはシールが貼ってあった。


――写真付きの……


「そん……な……」


 そこには、子供の頃の三人が写っていた。

 その写真にはぼくと彼女にマークされていた、そのマークにはこう書かれていた。


『わたしの大切な友人達、戦争が終わったら必ず会いに行こう、それまでわたしは死なない、サクヤ』


 と書かれていた。


 ぼくは、自分が撃墜した機体を見る。


――まさかそんな。これに乗っていたのはサクヤか?


 彼女の機体と敵機の残骸が流れていく、まるで、手を繋ぎぼくの前から走り去るかのように。


 ぼくは失ったのかも知れない。


 何か大切な物を、


 友達を? 


 恋人を? 


 いや、どれもだ、ぼくは全てを失ったのだ。



10月20日 6時49分



 サイレーンは陥落した。

 長い、長い戦いが終わりを迎えようとしていた。

 ぼくは、運良く救難艇に拾われた。

 戦いが終わるでも、ぼくの心にはポッカリと大穴があいたような気がした。

 この先はぼく何をすればいいのだろうか、シャラとサクヤはもういない。

 ぼく達の約束は永遠に果たすことはできない世界で。



 その後、革命は成功した。

 王制は廃止され、共和制へ移行した。

 しかし、銀河は未だに暗明を極めていた。


光が輝いている、人の命が散る光、どうして、どうして、人は争うんだ?


サクヤ、久しぶり。


シャラ、会えたね

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