六話:生きて!
10月20日 4時12分
N2壇ノ浦平家方・防衛宙域
N2壇ノ浦平家方防衛宙域は衛星サイレーンの南半球地点だ。
自転軸の頂点を基準に北半球、南半球で防衛線が区切られている。
サイレーンは自転軸が五五度傾いている関係上。
太陽光の日照時間が長い南半球に防衛施設や住居区画が集中している。
さらに、ここには大型のメガソーラー発電所もあり、ここの制圧はサイレーンの心臓部を握ることと等しい。
重要施設が集中している関係上、この宙域が最大の激戦区となっている。
その中に飛び込めと言うのだから上は何を考えているのだろうか、たぶん何も考えていないだろうな。
ぼく達は所詮駒だ。使え捨てなのだ。
ミサイル輸送艇に牽引されながら目標へと近づく。
大型ミサイルにレバーに掴まって移動する無人の自爆艇。差し詰めぼく達は母機から切り離される小型ミサイルと言うところか。
目標が見える。
目標までまだ三〇キロ近く離れているはずなのに手の平のサイズぐらいに見える。
アレが翔鶴型空母二番艦《瑞鶴》か。
フロンティア帝国が誇る、最大級の空母。
同型艦は全四隻、各四方面に一隻配備されている。
『目標まで一六ノーチカルマイル (約三〇キロ) 作戦開始。全機散開!』
全機レバーを離す。離れたことを確認し安全装置が外れる。サブブースターが切り離される、主力ブースター作動。目標に向かい加速する。
敵もミサイルを迎撃するため対空砲火が激しくなる。
無数に飛び散る対空砲。まるでハリネズミだ。
「どうやって近づくんだよ!」
と編隊を組んでいたシゲルの機体が爆発する。
敵の対空砲が命中したのだ、かつて彼が乗っていた機体は残骸となり飛び散るオイルが人間の血であるかのように飛び散る。
「クソっ!」
『敵艦に取り付くんだ!』
誰かが叫んだ、誰が発したのかわからなかったが正しい判断だ。下手に敵艦の周りに飛ぶより敵対空砲の死角に入り込んだ方がいい。
フッドペタルを踏み込み機体を加速させる。
「フォックススロット隊。突撃部隊を援護し、敵艦に取り付くぞ」
と左舷から何かが近づくのを感じる。機体を振り向けた瞬間だった。
バイランドの機体の上半身が消し飛ぶ。
「敵の新型?」
見たことのないガタのシルエットが入る。
データにない機体だ。
すると敵機から光線が視界を過る。
「敵の新型だ! レーザーガンを装備しているぞ」
『なんだって?』と目の前に飛行していた突撃部隊の機体が吹き飛ぶ。
「停まるな! 敵艦に取り付くけ! 敵艦を盾にしろ!」
『無茶言うな!』
「無茶でもやれ!」
ぼくは加速して敵大型空母を目指す。あの艦を背にすれば……
だが迂闊だった、新型機に気を取られ過ぎて空母の対空砲が両足に命中したのだ。
ぼくの機体はバランスを崩す。スティックとフッドペダルを小刻みに動かし機体を立て直す。
バランスを取り戻し視界に空母が見えていた。
それに重なるかのように、敵が視界にアップで映し出される。
すぐさま後退機動をしようとしたが、すでに敵のサーベルは抜かれている。
上段から振り下ろされるだろうその刀は真っ赤になるほど熱せられていた。
――死ぬ。
正直そう思った。
敵機がサーベルを振り下ろす。
ぼくは目を瞑った。
その時、ぼくは今まで生きて来た事を思い出していた、シャラのことサクヤのこと、生きて来た、そして記憶して来た全ての映像が頭の中を過る。
ああ、これが走馬灯か。
暗い視界。
このまま意識も無くなるのだろうか。
でも、だが、痛みは感じない、いつまで経っても意識が無くならない。ぼくは目を開ける。視界に入り込んだのは大型砲を搭載した一機のガタが敵機に体当たりしている映像だ。
『逃げて!』
「シャラ!」
ぼくはなぜ彼女が助けに来たのが一瞬わからなかった。
――お前こそ逃げろ!
心で叫んだ。でも届かなかった。
彼女の機体の上半身がレーザーに焼かれる。それはあたかも映画を見ているかのように焼かれる姿が鮮明に目に焼きついた。
――生きて――
聞こえるはずのない彼女の声が聞こえぼくは叫んでいた。
「うぁああああああああ!」
ぼくは機体の持っていた銃の銃口を敵に向け、構える。
敵はこちらに気付いたらしくレーザーガンを撃つべく銃口をこちらに向けている。
敵との距離は十メートルもない。
「よくもシャラを殺したな!」
敵機に照準カソールを合わせる。
「この野郎、この野郎この野郎!」
ぼくが引き金を聞くのと敵機が引き金を引くのが同時だった。敵のレーザーガンは、機体の左腕部を消し飛ぶがぼくの放った弾丸は敵機を確実に捉えていた。
敵の右腕を弾丸が捥ぎ取り、左腕をハチの巣にし、頭部を半分吹き飛ばす。
「くたばれ!」
以上加熱を伝えるキューが出るが無視。
ぼくは引き金を引く指を緩めない。
最後に敵の胴体を撃ち抜き。
レーザーカプセルに命中したのか異様な爆圧で機体に衝撃が走ると同時に視界一面に眩しまでの光が満ち溢れていた。
ぼくは機体がゆられた衝撃で後頭部を打ちつけ気絶した。
シャラ、シャラ、シャラ!
最後にわたしは守れたのかな、あなたのことを……
わたしは、生きたい!