五話:最後の戦い
シャラ、お前は今、どんな気持ちなんだ?
わたしは、どうしてここにいるの?
わたしは、必ず会いに行くよ、二人とも
10月20日午前3時5分
午前零時ジャストを持って作戦は開始された。
まず、粒子航行恒星間弾頭ミサイル数千万発よる波状攻撃を行った後、警戒ライン、ギリギリのラインで艦隊が粒子アウト。
サイレーンを取り囲む。その後、三十分に及ぶ艦隊の艦砲による飽和攻撃を実行。
警戒ラインで敵の反撃を封じた後ガタ部隊による強行突撃を行った。
戦いが始まってすでに三時間が過ぎていた。
敵の防衛ラインは百キロ単位を境にラインが引かれている。
五百キロラインから三百までを第一、第二列島警戒ライン。
二百キロから百キロまでのラインを重防御ライン。
そして本星までを最終防衛ライン、ここを突破されると衛星に取りつかれる。
第二列島警戒ラインを突破に成功したものの、重防御ラインで足止めを食らっている。
敵も頑丈で抵抗している。
ぼくと言えば三時間も戦って一機も落とせていない。
歯痒いばかりだ。
隊は艦隊の直衛に着いていたからともいえる。
楕円形の衛星であるサイレーンは平時なら観光衛星として機能していたはずだ。
それが今や戦火に焼かれるとは。
『曹長聞こえますか』とオペレータからコールが掛かる。
「聞こえています」
『先ほど旗艦《比叡》より入電があり、重防御ライン各戦域に点在する大型空母に対し波状攻撃を掛けることが決定されました。これより本艦所属の隊に帰等命令を発します。曹長の隊は帰還部隊の援護をお願いします。全体揃い次第改めて作戦内容を伝えます』
「了解。フォックススロット隊は援護に向かう」
『それから曹長。何機かを後方の補給艦に向かわせて下さい。この作戦に使われる物資と武器を運んでもらいます』
「そんなのは、向こうの仕事だろう」
『人手が足りておらず輸送用の大内 (大型航宙内火艇) の数が足りないそうです』
「ちゃんと用意しておけよな」
『わたしに言わないで下さい』
「了解。フォックススロットアウト。シゲル、バイランド。付いて来い」
『了解』
ぼく達は後方の補給艦に向かった。
道中には敵艦や見方艦機体の残骸など浮いていた。その中をすり抜け、十五キロ後方の補給艦に到着する。
角張った艦だかなり旧式の輸送船。
「補給物資を取りにきた。物資を渡してほしい」
と艦橋に手を当て接触回線を開く。
『ええっと、お宅は?』
「戦場では気が抜けるような返事だな。第三十八突撃攻撃艦隊巡洋艦《利根》から補給物資を受け取りにきた」
『ああ、了解。物資は第四コンテナだ。左舷艦底部だ。コンテナは開放してある』
「どうも」
『戦争は終わりそうかね』
「さあな」
『お前さん。分野だろうが』
「ぼくは艦のお守専門だよ」
艦底部のコンテナに向かう。物資が山積みにされていた。
ぼくは牽引用のワイヤービーコンを受信し牽引していく。
船に帰れば部隊は集結していた。目の前に見える戦火の閃光は未だに減る様子がない。
まだ続きそうだ。
コンテナを収容する。
ぼくは回線を開き彼女の機体を探した。彼女の隊は前衛に出ていたから無事に帰って来たのか心配だった。彼女の機体番号を探し見付ける。彼女は無事だった。
『曹長。聞こえますか』
「聞こえている」
『ご苦労様です。それでは先ほど決まった作戦内容を説明します』
「手短に」
『無論そのつもりです』
愛想のない返事だ。
『先ほど曹長が受理した物資は試作用加速リンク砲です。これを持ち入りN2壇ノ浦平家方戦闘宙域に展開している大型空母《瑞鶴》に対し波状攻撃を掛けます』
簡単な話、ガタにそのリンク砲搭載して敵艦に近づいて攻撃するという簡単な作戦だ。
「簡単な説明ありがとう。武装換装はいつ行うんだ?」
『いえ、曹長の隊は攻撃部隊の援護です』
「なんだって?」
『数が足りてないのです、全隊配るだけの砲が用意されなかったようです、よって配備は第一小隊、第二小隊と第三小隊に配備します。第四小隊は護衛に回ってください』
「また……お守かよ」
『わたしに文句を言わないで下さい。作戦は十分後に開始予定です。以上』
「了解。オーバー」
ぼくはシャラの機体の回線を開く。
「シャラ、聞こえるか?」
返答がない。
「シャラ?」
『今は待機中よ。曹長』
「……シャラ。作戦が始まる前に言っておきたいことがある」
『なに?』
「お前を戦争に引きずり込んだのは悪かったと思う。でも、ぼくは――」
『……そういう話は終わってからにしましょう。今する話では――』
「いや、今言う。シャラ。この戦争が終わったら――」
『二番機武装換装遅いぞ! イチャつくのは戦争が終わってからにしろ!』と整備士が無線に割り込む。
『了解。終わりよ。無線を切るわ』
「お、おい待って――」
無線が切れる。
ぼくは言いたかったな。
「戦争が終わったら、結婚しよう」
そう、ぼくは小さく呟いた。