四話:逃げ道
シャラ、ぼくは革命軍に参加するよ、もう逃げるのはこりごりだ
あなたが行くというのなら、わたしも行くわ、あなた一人では戦わせない
二人は今どこで、何をしているのかな?
10月9日
第一小惑星帯宙域
ぼく達の母艦はエンジントラブルで出港が二日遅れた。
その間、中立であったルウム自治星系連合王国が革命軍側に立って参戦を発表した。
心強い朗報の陰で帝国軍がPMC (民間軍事会社) に一部の防衛を依頼したなどの情報も入り込んでいた。
ぼく達はS-01ポイントに到着したのは本隊から遅れて三日過ぎたころだった。
S-01ポイントは帝国本土である帝都・衛星ルドリアと衛星要塞サイレーンと結ぶラインの中間地点だ。
窓から見える光は全て艦艇の光だろう。数えようとしたら気が遠くなりそうだ。ぼく達の艦隊は全軍がと着するまで外遠部哨戒任務に着いた。
全軍到着にはまだ日を要するらしい。
その間敵が現れることもなければ戦闘も起きなかった。本当に静かな日々が進んでいた。
でも、その静かな日は突然終わった。
第五遠征大隊が到着後再び哨戒任務に着いたときだ。哨戒宙域の反対側で空間歪曲を確認されたのだ。ぼくはその方向に機体を向けたその直後。強烈な閃光が画面一杯に広がったのだ。光量処理されているとはいえこれほどの閃光だと眼をつぶってしまう。
視界が開けたときには艦艇の光は消滅していた。
あれの正体は粒子砲と呼ばれる物だ。
と後に艦長から通達があった。
それがどう言う兵器なのかまでは言われなかった。
わかったことはその攻撃により集合していた艦艇の約六割が損失したこと、ルウム自治星系の国王が亡くなったことだけだ。
あの光はぼく達に強い衝撃を与えたのは間違いないだろう。
哨戒任務付いてなかったら間違いなくぼく達もやられていた。
そう考えるとぼくは震えが止まらなかった。
生存者救出作業は絶望的だった。
ほとんどの艦艇は熱線と言うよりは圧力により押し潰されたかのように凹んでいた。
元形を留めている物はほとんどなかった。
ぼくは母艦に戻った。
その後、待機室で休んでいたが人手が足りないという理由でぼく達パイロットも遺体の身元確認作業をした。
遺体は無残な物があれば奇麗なものまであった。
一人ひとり確認し記録する。つらい作業だ。
ふと、隣で作業している男が何かを唱えている。
ハーディア人だ。確か自分の隊の人間だ。
「何をしているんだ」とぼくは訊く。
「冥福を祈っていました。彼らがわらの創造神の元に行かれる祝福と安らぎを」
ぼくは祈られ遺体を見る。その人間は太陽系人だ。
「ならやめた方がいい。そいつは太陽系人だよ。宗教が違う、お前はハウニバル教だろう」
「はい。でも、彼が何を信仰したいかはわかりません。ですから我々の――」
「太陽系の連中はそう言うのを嫌う。あいつ等は多宗教だから」
ぼくは彼の肩を叩きその場を離れる。ここにいる人たちはまだマシかもしれないと。
一度戦場に行き、死ねば死体はそのままだ。ただ宇宙に浮きゴミになる。そう考えると無性に悲しくなる。ぼくはそうなりたくない物だ。
ぼくは宇宙を眺められる後部の監視デッキ向かった。
外では未だに救助艦艇が忙しなく動いていた。
ふと、デッキもう一人いることに気付いた。彼女だ。
「よぉ」
「どうしたの」
「どうしたのじゃねよ、ないしてんだ?」
「いや、なんか人がいっぱい死んだなと思って」
ぼくは何も言えなかった。
「戦争だってわかっているけど、なんだが、こんなのありなのかな。と思って、こんなやり方」
「さあな、そもそも戦争が合法だってのも、おかしいと思うな。だってそうだろう。人を殺して罪に問われない何ってさ。どうしたシャラ?」
彼女は泣いていた。
「なぜ泣くんだよ。ぼく、変なこと言ったか?」
「いえ、ただ……わたし、ここで何しているのかな、と思って、ほんの半年前までは普通の大学生だったのよ、それが今では宇宙でガタに乗って人を殺してる、わたしわからないの、何でここにいるのか、始めは両親の復讐だったけど、戦っている内にこの人たちの家族に恨まれるのではないかと思って」
「それはないだろうよ、だって誰が誰を殺したかまではわからないだろう戦場では」
「わかっているけど、でも、うなされるのよ。毎日、毎日」
「最近やつれているのはそのためか」
「あなたはない?」
「ない……な」
「そうよね、あなたはまだ、一機も堕してないものね」
「感に触る言い方だな。そうだよ、ぼくはお前と違って優秀なガタ乗りじゃあないさ」
「そうね、わたしは優秀なガタ乗り。人殺しよ」
「戦争だ、仕方がない」
「他に何か言うことはないの?」
「ぼくに何を言わせたいんだ。ハッキリ言えよ」
「ハッキリ言っていいの?」
「ああ」
「あなたはわたしが人を殺していることをなんとも思わないのって言いたいのよ」
「戦争だから」
「戦争だから許されるの? 戦争が無かったら許されない?」
「水かけ論だ、やめろ。どうしたんだ。君らしくない」
彼女の目線はまっすぐぼくの方に向いている。
「わたしは……普通に逃亡生活の方が良かった。確かに毎日追われる日々だったけどそれなりに楽しかったし、なにより……」
再び窓の外を見ながら言う。
「……あなたが居たから。でも、なんだが今は離れているような。わたしがガタに乗った頃から。どことなく」
彼女は泣いていた。涙を流していた。大粒の涙。シャラが泣くのを見たのは二度だ。一度目はサクヤが居なくなったとき、二度目は両親を殺されたときだ。
「……ぼくも思ってたよ。何だが離れていくような。そう感じてた」
「なんだが、変だよね。最近のわたし達」
その言葉が胸に突き刺さった。
10月20日 グリニッジ太陽系標準時午前零時
フロンティア星系第五惑星フロンティアⅤ・要塞衛星サイレーン宙域
部隊及び艦隊の再編成に五日。各方面軍集結にさらに二日。
その後作戦変更などで計十日だ。
19日に作戦目標がサイレーンであると通知され全軍を挙げ進軍を開始した。
その間ぼくは彼女と話さなかった。
作戦待機が掛かりぼくは自機の中で彼女シャラのことを考えていた。ぼくは間違っていたのだろうか、情報警察から逃れるために両親の復讐のために軍に入ったことが。
そのことで彼女に人殺しをさせてしまったのだろうか。
ぼくは考えた。そうかもしれない。
でも、奴らからの逃亡生活は正直疲れた。
彼女はいいと言っていたがぼくには耐えらなかった。
いつ来るかわからない警察に怯え。指名手配されていたから普通の職には就けない。
警察に見つかりは逃げの毎日。
あの様な日々が永遠に続くのかと思うと発狂しそうだった。だからだろう、ぼくは逃げ道としてここに飛び込んだ。だが、それは自己満足ではないのだろうか。
ぼくだけの……