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三話:フリーマーケット

 笑うな! サクヤの作ったモノを笑うな!


 もういいよ! やめて!


 ありがとうってどうして言えなかったのかな

10月1日

第二小惑星帯宙域



 部隊の再編が急がれている中ぼく達のように遅れて来た奴にある仕事は哨戒任務と決まっている。

 ぼく達の母艦は、シルバンから撤退した艦隊がこの宙域に潜んでいるという情報が入り探索と殲滅の任が下された。出来ることなら敵とは出くわしたくない物だが、そう考えているときに限って出くわす。

 三回目の哨戒任務で初めて戦闘に遭遇した。

この戦闘で戦艦一隻と駆逐艦二隻を撃沈。

軽空母一隻を拿捕することに成功した。

大きな戦果だが正直ぼくはうれしくはなかった。

ぼくは戦火を上げるどころか逃げるのに手一杯。

お陰で隊の二機を失ってしまった。一方彼女の隊は戦艦を撃沈、十五機のガタを撃墜した。

 母艦に戻ったときには彼女は英雄として向かいいれられていた。

それも見るとぼくは自分が情けなくなる。

ぼくは何もできなかった。

 その夜ぼくは、戦死した部下の荷物をまとめていた。

戦死した二人のうち一人はバイオロイドだった為荷物が少なく済んだ、しかし、もう一人の方は荷物が多かった。整理整頓がなされておらず、脱いでそのままの下着や制服が散らかり放題だ。

 今思うと呑気な奴だった。

何かとあると自分の彼女の自慢をする。


――おれの彼女は頭がいいんだ。

おれの彼女は世界一だ。

彼女はおれの帰りを永遠に待っているんだ。


 とても幼稚的言い方をする奴だったが嫌いではなかった。

いや、むしろ好きだったかもしれない。

あいつがいると場が和む。閉鎖された艦内では必要な人材だったのかも知れない。

 ふと、制服の胸ポケットから一枚の紙が落ちた。

ぼくはそれを拾い上げる。それは病院から手紙だ。

 そこには、いつも話していた彼の彼女のことが書かれていた。

 彼女は死んでいた、しかも、一年も前に。

 よくもまあ、あんな大嘘を言えたものだな。

何が帰りを待っているだ、もう、この世にいないじゃないか。

 ぼくは彼のベッドに座り込む。

しばらく動けなかった。

 今思えばアイツは帰れたのかもしれない、彼女のいる天国に。



 翌日、ぼくは遺品を総務課に渡しシルバン要塞の中を歩いていた。

 別に何かするわけではないか何となく歩きたかったのだ。

 要塞内は未だに整理が付いてないようだ。慌ただしい。ふと、視線を左端にある商売人に向ける。雑貨を広げている店を見つける。こんなところでも商売人は来るのだなとふと思ってしまう。


「あんちゃん。そこのカッコイイあんちゃん! 何か買っていくかい?」


 と早老の男が言う。いかにも商売人の様な顔をしている。


「何があるんです?」

「なんでも、鉛筆から核弾頭まで」

「まさか……」

「ならこれを見てみな」


 と見せたのは親衛隊のしかももっと功績のあった者にしか与えられない山茶花十字勲章だ。

膝を地面に着きながら訊く。


「これをどこで?」

「そらぁなぁ、ほら企業秘密って奴だよ。何か欲しい物はあるかい?」

「いや、とくに……」

「フムン……何か悩んでいるようだな」

「悩みなんかないさ、早く終わってほしいと思っているだけだよ」

「もうすぐ終わるさ。今そのための作戦を計画中なんだよ」

「だろうね、上はいいさ、命令すれば良いだけなんだからさ。死ねって」

「いや、上には上なりの苦労があるさ」

「まるで、あんたは上の連中のことを知っているような口ぶりだな」

「まあ、商売人だからな。これだって寝返った将校からもらったんだよ」

「情報は最大の商品かい?」

「この世で一番高い商品は惑星と情報さ」

「情報は偉大なり」

「違うさ、金と情報は神様さ。商人にとってはだけど」とウィンクする。


 食えない商人だ。と僕は思った。余り関わらない方が身のためかも知れない。そう思いぼくはその場を去ろうとして商人は呼び止める。


「これでも持って行け」


 と渡されたのはコンドームだ。


「……いらない」

「まあまあ、そのうち必要に――」

「ああ! こんなところにいた。おじさん商売はいいけど会議も大事でしょうが!」


 近寄って来たのは士官服を着た少女だ、怒ったような顔している。娘か孫だろうか?


「そんな硬いこと言うなよ。ようやく商売を始めようとしたところなのに……」

「いいから行くの!」

「ああ、わかったよ、なあ兄ちゃん、おれが戻ってくるまでここを見張ってくれないか、商品を盗まれたらたまらねぇからな」

「いや、ぼくは――」

「頼んだぞ!」


 と商人は少女に引きずられる形でその場を去っていたった。ぼくはどうすればいいのだろうかとしばらくぼんやりと考えてしまった。


――戻ろう。


 そう思いぼくはその場を離れた。


――ぼくの責任ではない。勝手にぼくに押し付けるあの商人が悪い。


 歩きながらそう言い聞かせたが、でも。


――ぼくはバカだ。



 ぼくはあの商人の言いつけを律義に守っている。馬鹿らしい自分が情けなくなる。

 この店に買いに来る人はほとんどいない。

 ここにいるだけぼくがバカに見える。出来ることなら彼女が来ないことを祈る。

でもこ言うときに限って祈りは通じない、てか、もう信じたくない。


「何してるの?」


 来てしまった。

本当に。


「商人」精一杯のジョークを言ったが通じなかったらしい。

「軍を辞めるの?」真に受けてしまった。本当に情けない。

「違うよ、ここの店の人に留守番を頼まれたんだよ、本当は無視して帰ろうと思ったんだけど……」

「けど?」

「ガメツイそうだったからな、本当に帰ったらあの手この手使って追いかけてきそうだから」

「それで、ここにいるのね。お人好しね」

「悪かったな」


 本当に恥ずかしいな。


「でも、あなたらしいわ」


 彼女はぼくの隣に座る。座ると同時に彼女はぼくの肩に頭を載せる。ふんわりと彼女から漂う女性の香りがした。

シャンプーかな。

ふと、彼女のシャワー姿を想像する。

 いかん、いかん。変な想像するな、ぼく。それでも想像してしまう、顔がニヤける、彼女は軽蔑の目線を向けて来た、見ぬ抜かれてる?

 ぼくは行きかう人達に目線を向ける。

彼らは兵士だ、これから戦場に行く人達がいる。

それを待つ人がいる。

その人達の帰りを待つ人たちがいる。

 ぼくはどっちかな。

戦いに出ても戦果を挙げることができない。

作戦を待っていてもつまらないことを考える、ぼくに待つ人はいない、彼女も戦場に行く。  あいつはぼく達が戦場に行っていることをしらない。あいつは、ぼく達の帰りも待ちながら小説を書いている。

 ぼくは曖昧だな。そう思った。


「ねえ、覚えてる?」


 唐突に彼女が話しかける。


「なにが」

「ほら、地域のフリーマーケットでわたし達もいらなくなった物を集めて売ったじゃない。サクヤは自分が作ったコップで」

「ああ、確かあのとき客がサクヤのコップを笑ったんだよな、今思い出したけどムカ付くよ。人が一生懸命に作った物を」

「その時さ、あなたはその客を殴ったのよ」

「そうだっけ?」

「うん『サクヤが作った物を笑うな!』って言ってさ。その客にボコボコにされたのにも関わらずにずっと言い続けてた」


 そう言われて思い出した、確かに笑った客相手に殴り掛ったのだ、でも、大人相手に子供が敵うはずがなく、返り討ちにあった。


「今思い出すとカッコ悪いよな」

「そうでもないよ。わたしはカッコ良かったよ」

「サクヤはぼくのことバカにしていたじゃないか」

「そうね、でもね。あなたが家に帰った後にね、サクヤは言っていたの、『ありがとう』って」

「面と向かってうえよな、そう言うことは」そう言いつつぼくは少しうれしかった。『ありがとう』その言葉はどんな言葉より嬉しい物だ、日本語のいい言葉。

「ねえ、この戦争が終わったらどうする」


 考えもしなかったことを言われ少し戸惑う。


「そうだな、もう一度大学に行こうかな」

「それもいいかもね。あの教授あなたの論文気に入っていたし」

「お前は?」

「わたし? そうね。どうしようかしら」

「軍に残るのか?」

「連隊長や他のみんなはそうしてほしいって言っていたけど……」

「で、出来ることなら……」

「ん?」

「もう一度一緒に――」


 その先を言おうとしたが彼女に腰に付けている招集コールが鳴る。


 彼女はそれを見て「行かなくっちゃ」と言う。

ぼくも行くと言おうとしたが、あなたはいいと言われる。


「どうしてだよ。招集だろう」

「個人の呼び出し、艦長のお使い忘れてた」

「お使い?」

「闇郵便が出るからこれを投函してきてくれって。家族宛てらしいわ」


 革命軍内で行われている郵便事業だ。商人や露天屋に金を渡して手紙を届けてもらう。

電子メールなど検閲対象になっているため、送られて相手に危害が及び可能性がある。それを避けるために使われる手法だ。

 今でも革命軍参加している兵士の中には敵地に家族を残して来た物が居る、隊長もその一人の様だ。

 どんな時代でも手紙は無くならないと思う。

何せ電子媒体と違い改ざんのしようがないから。


「じゃあ。また船で」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。ならこれも頼む。サクヤに送る奴だ」

「了解」


 彼女は手紙を受け取ると専門業者がいるであろう方向に向かって歩き始めた。

 ぼくはその後あの商人が帰ってくるまでそこで座っていた。ぼくが不機嫌そうな顔をしていたせいか客は来なかった。

正直客が来なかったことは良かった。この様な接客業は苦手だ。

 商人が帰って来たのは、彼女に手紙を渡してから三時間が過ぎたころだ。第一声が「何してっだ」だった、忘れているのかよこの人は。


「あなたが留守番を頼んだじゃないですか」

「そうだったか? まあいいや」


 いいのかよ。


「それより売上はどうだ?」

「ぼくは商売人ではないので売れません」

「ゼロか。まいっか」


 いいかい。


「では、ぼくはこれで――」

「おおう、そうだ。これやるよ 駄賃ってほどじゃないが」


 渡されたのは指輪だった。赤い輝きの宝石。たぶんルビーだ。

 地球人には高価な石らしい。


「こんなの貰う訳には……」

「なに、値打ちのねえもんだ。何せ偽物だからな。言わなきゃわからないからな女にでも渡すときは苦労したとか言えば株が上がるぞ」

「それ、詐欺です」とぼくはジト目で言う。

「わしは元詐欺師だよ」


 そう言って商人は、もとい元詐欺師は商品をまとめ店じまいする。


「そうだ、兄ちゃん。兄ちゃんの悩み事は隣にいた女かい」

「見てたんですか」


 ならもっと早く帰ってきたはずだ。このおっさんそれを見て楽しんでいたな。


「まな。兄ちゃん。伝えたい気持ちがあるなら早めに言っておいた方がいいぞ」

「言われなくても」

「ならいいがな、意外と近くにいる人間が突然遠い世界の人間になっちゃう時があるから。じゃあ」


 なんだよ、カッコイイセリフ残して。と言いつつぼくは考えてしまった。近い存在が以外と遠い。そうかもしれない。ぼくと彼女の関係は。



 艦に戻ると艦内が騒がしかった。


「おい、何が有ったんだ」と近くの兵士に訊く。

「ああ、なんだ聞いてないのか」

「だから訊いている」

「先ほど神城将軍から『殲一号作戦』が発動されたんだよ。全革命宇宙軍の艦隊は現任務を放棄し、ポイントS-01に集合だって。この艦も明日には出港だってさ」

「全軍を招集するのか?」

「ああ、もしかしたら帝都。衛星ルドリアへ総攻撃をかけるかもな」

「そんな……」


 ぼくは呆然とする。

 始まるのかも知れない。いや、始まる。最後の戦いが。


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