二話:転化訓練
これがぼく達の再会の証だよ
この三枚のカードがわたし達の友情の証
次会う時は、わたし達の夢を――
フロンティア帝国連邦領フロンティア星系シルバン要塞 9月29日
結局修理は要塞攻略戦が終わった後だった。
ぼく達は攻略して間もない要塞に入港した。入港後、ガタ(人型機動兵器)への転化訓練を受けさせられた。先の攻略戦で多数のガタ乗りを失ってしまったらしい。
ぼくは四苦八苦していた。何せ今まで乗っていた航宙機とは違い複雑な操縦系で覚えることが山の様に有るのだ。HMD (ヘッドマウンドディスプレイ) にも未だになれない。
――はあ、シャラと話していないな。
彼女はぼくとは違い天才だ。あの複雑な操縦系をすぐさま把握して機体を手足の様に扱っている。
――これが才能の違いか。
訓練が終わりぼくは母艦に戻った。母艦着艦も航宙機とは違い慎重にやらなくてはならない。下手するとデッキを踏み抜く恐れがあるからだ。
――そのまま……
ぼくはうまく着艦させることができた。でも、ブリーフィングで担当教官に叱られた。罵倒を浴びせられ不貞腐れながらもぼくは上官の話を聞いた。
一時間余り罵倒を浴びせられた挙げ句に今回の訓練レポート提出を言い渡される。
――クソっ! ぼくはあいつのストレス発散道具じゃないんだぞ!
と言いたがったがその言葉を飲み込み、了解です。とぼくは答えるしかなかった。解放され、自分のベッドに戻ろうと歩み始めると通路によりかかる心配そうな顔をした彼女が居た。
「どうしたんだ、こんな所で、メシ。食いに行かないのかよ」
「一緒に食べようと思ってさ……」
「ふーーん。そうか。行こうぜ」
「うん」
ぼくを待っていたことが正直うれしかった。
艦内食堂は混んでいた。本来なら彼女は士官食堂なのだがこの船にはそのような物はない、いつものを頼む。
ぼくは大きめな合成ひき肉を使ったハンバーガーセット。彼女はオムライスセットだ。
ぼくは空っぽの胃に流し込むべくハンバーガーかぶり付く。肉汁が口の中に溢れ出す。美味い。
「どうしたんだ? 食わないのか」
「うん、食べるよ…… ねえ、聞いていい?」
彼女が改まる。なんだろうか。
「シルバンが落ちたってことは、今度はどこを攻めるのかな」
「さあ、上の考えなってわかるかよ」
「神城将軍はどう思ってるのかな。自分の生まれ故郷を攻めているのって……」
我々反乱軍の首領である、神城将軍はフロンティア帝国の王族だ、つまり自分の国を攻めている事になる、どのように考え、どのように思って行動しているのかと言うのは下っ端であるぼく達にはわかるわけがない。
「そう考えていたら戦えないぜ。将軍には将軍の考えが有って今回の革命を起こしたんだよ。ぼく達だって戦いに身を投じるのは殺された両親のためだろう」
ぼく達の両親は殺された。帝国軍に。反戦思想主義者と言う言われもない理由で。その日ぼく達は大学のサークルで家にいなかったお陰で難を逃れた。
でも、今でも覚えている。両親の死に顔を。父は皮を剥がれ、母は裸にされ逆さまに釣り上げられて射殺された。人のすることではない。ぼくはそう思った。彼女の両親に至っては生きたままガソリンを掛けられて火を付けられた。その死体は丸焦げでどれがおじさんかおばさんかわからなかったほどだ。
ぼく達はその後指名手配され情報警察から逃れるために革命軍に参加したのだ。
「もし……もし、今度の作戦目標がルドリアだったら――」
「考えるな!」ぼくは怒鳴った。周りが鎮まる。
周りは何が起きたのだろうかという視線が突きささる。視線が痛い。
「ごめん……なさい」彼女は泣きそうな顔で言う。
「謝るのはこっちだよ。怒鳴って…… でも、考えたくないんだ。でないと。怖くて戦場に行けないよ」
もし、戦場に出て、かつての友と再開したら、しかも戦場で、考えたくないことだ。
「わたしも……」
おそらく彼女同じなのだろう。彼女の俯いた顔がそう言っている。
「覚えているかコレ」
ぼくは首にかけていたバーカロイド2998を見せる。
人格合成用音声ツールであるバーカロイドは好きなように人格を合成できる。ぼく達が小さい頃これで良く遊んだ。もともと三角形の形をしていたカードでこれを三つに分けることが出来る。
これを合わせると合成した人格を映像化することが出来る。
「覚えているわよ、子供頃にわたしとあなたとサクヤで作った人格ツールよ。サクヤが引っ越しするときに、分けた――」と言いながら自分の首にかけているバーカルを見せる。
「そうだよ、再開したときに合わせて三人の夢を聞こうって…… ぼくはね。それが出来るまでは死ぬつもりはない。あいつがいるルドリアに攻めることになってもぼくは戦うさ、そして、見つけるあいつを」
ぼく達が生まれた星に引っ越をすることになり、必ず再会をすることを約束した、その時に作った物を見ようと約束したのだ。
「ぼくは絶対に逢う。三人で。一緒に見るんだよ。ぼく達があのときなにを作ったかを」
「わたしも会いたい。会ってもう一度三人で遊びたい」
「もうそんな年じゃないけどな」
「心は乙女のまま」
「よく言うよ」
彼女は何かがフっ切れたかのようにオムライスを食べ始めた。
その彼女を見ながら僕は思う。もし、ルドリアに攻めることになったらあいつはちゃんと逃げ出すだろう。何せ売れない小説家は暇だから。もしかしたらルドリアを離れているかもしれない。希望的な観測だがそう願いたい。
ぼくは彼女に自信ありげなことを言ったが、本当は怖かった。あいつのいるところを攻めるのがではない、ぼく達の関係が壊れてしまうのが、そして、彼女との関係がばれてしまうことが。