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ヴァージルはケリーと一緒に彼の「秘密基地」という場所まで歩いた。雨が降る中、ケリーはヴァージルが濡れて故障しないようにと一本の傘に二人で入り、ほとんど自分の肩を濡らしていた。ヴァージルは傘を少し高めに持ち、なるべく二人とも濡れないようにした。自分がいた世界でも、ケリーはロボットに憧れを持ちロボットに優しかった。ほとんどのロボットが感情を持ち合わせていないとわかっていても、ケリーはロボットに対して友好的に接していた。それは、こちらの世界でも同じのようだ。

 ケリーの秘密基地は、街から少しは離れた場所にある玩具工場の廃墟だった。錆びついた部品がそこかしこに散らばり、玩具らしきものは錆びて辛うじて形をとどめているような状態だった。

 工場の奥に行くと、商品を保管しておく広い倉庫のような場所に入った。倉庫は棚や使わないスペースにガラクタを寄せてボロボロの椅子やテーブルを置いた場所に、そのロボットはいた。

 青白い人工皮膚に、水色のシャツと黒いズボン、顔は二十代後半の男性をイメージされているようだった。よく見ると、彼の手は人工皮膚が付いておらず手の形をした金属部品が剥き出しになっていた。その指先は金属の中でも硬いもので、猫の爪のように鋭かった。おそらく、戦闘に特化されたロボットなのだろう。

 ケリーはそのロボットに話しかけた。


「クラーク」


 新聞を読んでいたロボットは新聞を下げてケリーを見た。アメリカ人のような澄んだ青い瞳をしている。自分よりも若い音声が聞こえてきた。


「嗚呼、ミスター・ケリー。そちらのロボットは?」


「高性能ロボットのヴァージルだよ。また仲間を見つけてきたんだ」


「PG18457。通称クラークです。貴方は?」


「VH003578のヴァージル。PGという事は・・・戦闘特化ロボット?」


「はい。だから手がこんな形なんです。高性能ロボットとは少し違いますね」


 クラークは手を軽くヒラヒラと振って見せると、ヴァージルと握手をした。すると、周りで物音が聞こえだした。四、五体程の人間のようなロボットが物陰から顔を出した。家庭雑用性ロボット、戦闘用ロボット、色々だ。

 白く無機質な機械の顔を持つ女性がケリーに話しかけた。姿形からして医療性ロボットだろう。


「高性能ロボット・・・攻防から雑用まで適応しているロボット・・・」


 ヴァージルは自分がいた世界で見たロボット達だとすぐ認識した。彼らは人間の手助け、防衛をする為に造られたロボットであり、誰かの為に存在するロボットだった。

 クラークが質問した。


「ここに来てどれくらいですか?」


「十五日ぐらいです。貴方達は?」


「私は、昨日でちょうど一ヶ月です」


 ロボット達はこの世界に着た時間の差は様々だった。けれど、誰もがいつも通りの日常を送っている途中でこの世界に来てしまったようだ。ヴァージルのように休眠から目覚めたらこの世界だったという者もいれば、作業をしている途中でこの世界に来てしまったという者もいる。中にはこの世界に来た時に雨に当り、故障したロボットもいた。



 ケリーはヴァージルが立っている場所からさらに奥へ歩き、壊れかけた棚の裏を覗き込んだ。穴の空いた棚の向こう側から、金属部品でできた体がちらりと見えた。


「ランドル、新しいロボットが見つかったんだ。君と同じ高性能ロボットだよ」


 ランドルと呼ばれたそのロボットは、棚の穴から人工的な目玉を覗かせた。灰色の目と合う。その目は、どこか警戒心を滲ませていた。そして、小声でケリーに話しかけた。


「あの姿からして、ギブソンのロボットだ・・・ほとんど新品の・・・」


「そうだね。きっと君とも仲良くなれるよ」


 ロボットに友情などあるものか。誰かが、そう言ったのが聞こえた。




 しばらくすると、ケリーはランドルをそっとしておこうとヴァージル達の所に戻ってきた。他のロボット達は工場内の別の場所へ行ってしまった。

 ヴァージルはケリーに尋ねた。


「仲間はこれで全員ですか?」


「そうだね。今のところは。でも、いなくなった人もいるよ・・・」


「なぜ?」


「・・・ヨトゥンが連れ去ったって、ランドルが言ってたけど」


 クラークと、近くにいた防衛性ロボットのジャックの視線がケリーに集中した。ランドルの視線も感じる。


「ヨトゥン?」


「知らないのか」


 ジャックはクラークの隣に座ってから口を開いた。ヴァージルは首を横に振る。

 ヨトゥンという単語では、北欧神話に出てくる霧の巨人の名前しか知らない。なんの事か理解できなかった。

 ジャックは雨のせいで故障した、動かない右腕を触りながら話した。


「俺が目にした、巨大な謎の生命体の事をそう呼んでいる。雨と霧が発生して、体が重くなって、気づいたら此処にいた・・・体が重くなった時に生命反応に気づいて、敵かと思って武器を構えて振り返った時に、視覚センサーが捉えた姿はなかった。だが、僅かな空気の歪みと強い生命反応を認識できた。俺のような戦闘に特化したロボットは雨に弱いから、雨で頭がおかしくなったのかと思った。だが、間違いではなかったんだ・・・」


 クラークが言った。


「私も、同じようなものを。研究室で新しい武器のテスト中に、体が重くなって、強い生命反応を感じたんです。反応が出ている方を見てみると、実験用の水槽が揺れていて空気の歪みが見えたんです。この世のものだと、予測ができませんでした。私達ロボットが予測不可能なレベルの存在なんて、人間どころか生命体かどうか曖昧でしょう」


「本当は、此処には八人のロボットがいたんだけど・・・行方不明になったんだ」


 ケリーは近くにあった休憩室のような場所からコーヒーを持ってきた。ロボットだから飲む事も必要ないのだが、彼はほとんど無意識でやっていた。


「ロボットにもわからないなら、僕にはもっとわかんないんだ」


 ケリーは困ったような顔をした。


「俺達を異世界へ連れ出したくせに、また襲うなんて目的がわからない。しかも順番も何も関係なく、ヨトゥンは俺達を一人ずつ狙っている」


「消えるとは・・・殺されるとは別ですか?」


 ジャックもクラークも口を閉じた。ケリーは一瞬、身を固くしたのが見えた。

 クラークが言った。


「わかりません。我々の知識では、まだ何も言えません」


 重苦しい空気が漂い、それに居心地の悪さを感じたケリーは話題を変えた。二つの世界を見たロボット達に質問をたくさん投げかけてきた。自然がない世界に存在するロボット達の話をケリーは好奇心旺盛な目を輝かせていた。彼は確か二十歳を迎える青年になる頃だ。それなのに、ロボットに対して子供のような憧れを持っている。彼は交通事故で精神に異常をきたしたと聞いていたが、あまり悪い影響はないように見える。ただ精神が少し幼くなったぐらいで、知能などは衰えていないようだ。

 ヴァージルはケリーや他のロボット達と真夜中まで話をした。ジャックやクラークも表情をほぼ変えていなかったが、話の声色は変わっているのがわかった。人の感情に寄り添うように設計されたロボット達は、あまりにも人間に似ている気がした。


 この出会いは、誰かに設計されたプログラムなのか?

 だとしたら、感謝したい。自分だけじゃないと、確信できた。 

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