ヒーローとライバルキャラの恋愛を全力で後押ししたいと思います!
ヒーローとライバルキャラの恋愛を全力で後押ししたいと思います!
ヒロインはヒーローと恋愛しません
陽炎がみえるほど蒸し暑い日。いつものように歩道を歩いていると、急に体から力が抜けた。景色が変わる。
ああ、昨日寝てなかったせいかな……。
倒れていく瞬間、どこか冷静に考えていた。それが、私の最期の記憶。
そして、私は転生した。善行なんてほぼした覚えも無いけれど、そこは私の大好きだった漫画の世界で、しかも、なんとヒロインに生まれ変わっていた。
そんな私はそれなりにスペックが高く、自分で言うのもなんだけど、原作ヒロインそっくりの可愛い容姿もしていると思う。
ただ、ね。
一番大事なのって性格じゃない?
いやー、この漫画のヒロインの性格がね、天真爛漫、鈍感というやつでですね。
もうそれ思い出した時点でヒーローとの恋愛諦めるよね。うん。
ほら、天真爛漫っていくら努力しても身につかないじゃん。鈍感とかも、もって生まれた一種の才能じゃん。私前世の記憶もあるから天真爛漫とかもう……ね。社会に出て数年過ごせばなくなるよねーみたいな。
漫画のストーリーはシンプルに言えば、玉の輿物語だ。
そりゃ、狙いたかったよ? 玉の輿とか憧れるよ? ついでにいえばこの漫画大好きだったから台詞とかだいたい覚えてるよ?
でも、それは漫画が終わるまで。その後の人生でどんな台詞をいえばいいのかなんて知らない。天真爛漫さからかけ離れている私なんて速攻捨てられるのがオチ。
もしかしたら、ヒーローが愛情深くてそんな私も受け入れてくれるかもしれない。でもその賭は危険すぎる。私はそんなハイリスクな賭には乗らない。
だから。
全力でライバルキャラとヒーローの恋愛を後押ししたいと思います!
いや、だって、この二人どう考えても両片思いなんだもん。ライバルキャラさんが鈍感なせいですれ違ってるけどね!
「お前って、なんか不思議だよな」
ええ、分かります。「不思議と、愛おしい」的な意味ですよねっ! なのに、
「何ですのそれ、馬鹿にしてらっしゃる?」
……お分かりいただけただろうか? このライバルキャラさんの鈍感さ。
あんたがヒロインだとこの私が太鼓判を押すレベルだ。
彼女、どうやら私と同じ転生者らしい。漫画の記憶はないみたいだけど。同じ転生者なのにこの鈍感さ。やっぱりもって生まれたものだよ。よくよく思い返せば、私は前世の幼稚園の時から泣けばある程度は許してもらえることを知っていた強かな女だった。
こんな女が察しの良いヒーローと恋愛できるわけない。っていうか別にヒーロー狙ってないし。
むしろヒーローとライバルキャラのすれ違い会話に萌える!
ここは私のよく知る漫画の世界だ。けれど、ここは現実。もしかしたら、この二人が両思いなのに気がつかずすれ違ってしまうかもしれない。そんなの、悲しい。
だから、サポートするのだ。私の萌え……こほん。あの二人の為に!
※
「というわけで、典型お嬢様系キャラを取られているこの場合、頭の良さを生かして才女キャラで邪魔するか、容姿をいかしてぶりっこキャラで邪魔するかどっちがいいと思う?」
「……応援じゃなくて邪魔なのかよ」
しらっとした目を向ける幼なじみに拳を握って断言する。
「あえて言おう! そうだ、と」
だって恋のお邪魔は盛り上げるために必要でしょう! っていうか、あの二人は焦らせないといけないと思うの!
「……うわー」
どん引きする幼なじみの彼は当て馬キャラだった。でも、恋愛フラグの心配はいらない。だって、こいつがヒロインを好きになったエピソードが、いじめられているこいつを助けたーってやつだもん。率先していじめてましたが何か?
「……まぁ、どっちでもいいけどさ。あいつらが引っ付いたらの事忘れんなよ」
「これでも借りは返す主義だから安心して!」
計画に巻き込むに当たって、ヤツが出した条件は「無事にカップル成立したら一つだけ言うことをきく」である。こんなんで協力してくれるのだからやはりお人好しの当て馬、こほん、幼なじみだ。彼の事だからどうせ、そんな無理のあるお願いはしないだろうし。
※
その後、幼なじみの提案により、私は才女キャラで通すことにした。そして、生徒会にはいった。
メンバーは会長にヒーロー、副会長に私と幼なじみ、書記がライバルキャラさん、庶務、会計は二年の学年一位、二位の方だ。
ここでちょっとでも二人の接触を多くするため、お茶入れの役を決めるクジに細工をさせていただいた。それによりライバルキャラさんがお茶入れになった。ちなみに、ライバルキャラさんは鈍感さだけではなくヒロイン特性、ドジも持ち合わせている。
なので、
「きゃあっ」
このようにお茶入れ最中に躓くということもよくある。
ライバルキャラさんの声が響くと同時に素早く振り返り、こぼれるお茶の軌道を予測、持っていたタオルを投げ書類を庇う。
……よし、セーフ。
「あ、ありがとうっ」
私はメガネをくいっと持ち上げて、才女らしく言い放つ。
「今回は書類が無事ですから構いませんけど。以後気をつけて下さい」
「ご、ごめんなさい。すぐ片づけますわ」
そういって、割れたカップを拾おうとするライバルキャラさんの手をつかむ男らしい手。
「怪我するだろ。俺がやる」
言わずもがな、ヒーローである。
ヒューヒュー! と叫びたいのをこらえてつかつかとヒーローに近寄り再びメガネをくいっと持ち上げる。
「会長、素手でさわらないで下さい」
いや、カッコ良く決めた所本当にすみません。細かい破片が飛んでるかもしれないからさ。
私はハンカチで破片を拾い、新聞紙においていく。
「あの、会長のコップ割ってしまって……」
「お前に怪我がないからいいよ」
後ろで萌え会話をありがとう!
にまにまをこらえながら、集めた破片を新聞紙でくるむ。
そこへ、幼なじみが仕事を終えて返ってきた。扉を開けた瞬間、状況を理解した幼なじみが、未だ会長に手を取られているライバルキャラさんのもとへ―――行かずに、掃除機を取りに行った。
……幼なじみよ。その気遣いは有り難いんだけどね? ここはライバルキャラさんの所へ行ってほしかったかな!
「ちょっと! 落ち込むライバルキャラさんにいい台詞をいってひとつ、ヒーローを焦らせてやってよ」
ライバルキャラさん達に聞こえないように小声で囁くと、もはや私の前ではデフォルトになっている呆れ顔で「今はこっちが大切だろ」と言ってきた。そうなんだけどさぁ!
はぁ。今のところ幼なじみはあまり当て馬として役にたってない気がする。当て馬だったから、当て馬にぴったりだと思ったんだけどなぁ。
無言で破片を吸い取る幼なじみに近寄ってまたささやく。
「まったく。会長を止める際にさりげなく肩に触れて親しげにした私の当て馬っぷりを少しは見習え」
ふん。不機嫌そうな顔をしても当て馬としては私が優秀なのは事実だ。
幼なじみは急に私の手を取った。
「……何?」
「ん。怪我はしてないな」
……うん。ありがとう。それをライバルキャラさんに是非してほしかった。
私たちが密談をしている内にライバルキャラさんが、大きな破片を包んだ新聞紙を持って行こうとして、新聞紙から飛び出ていた破片で指を切った。
「……いっ」
「馬鹿! 怪我するって言っただろ」
会長が、ライバルキャラさんの手を掴み、細かい破片がついていないか確認する。そして、手を引っ張ったまま水道場へ行き、洗ってやった。
いいね、王道だね。と内心にまにまする。しかし、私は才女キャラ。そんなものはおくびにも出さず、くいっとメガネをあげる。あ、お気に入りのポーズです。
ライバルキャラさん用に持ち歩いている絆創膏を差し出した。
「はい、使って。消毒液もついてますから」
「あ、ありがとうっ」
「破片は俺が運んどく」
「助かる」
……うん。なんか邪魔っていうかどちらかというと私たち二人ともライバルキャラさんのドジのフォローばかりしてる気がする。
※
紆余曲折を経て卒業間近、二人はやっと思いを通わせた。本当は一年でくっつかせる予定だったんだけど、この私が居ながら卒業間近までかかってしまった。不覚……!
しかも、私が起こす予定だった嫌がらせのイベント。一足遅く、ヒーローのファンよって行われてしまった。
偶然それを見かけて取り乱し、廊下をダッシュして会長を現場に突き飛ばしたのは私にとって忘れたい過去だ。せっかく作り上げてきた才女キャラが見事にはがれ落ちてしまった。
私の前には今、ライバルキャラさん、いやもうヒロインと言って良いだろう彼女と、ヒーローの会長がいる。
「私たち、付き合うことになったんですの。今までありがとう。二人のおかげですわ」
これは、私たちのくっつけよう作戦がバレたということではなくよく相談に乗っていたからだろう。
「何もしてません」
「何もしてねぇよ」
幼なじみとほぼ同じタイミングで答えると、くすっと笑われた。
「ふふっ、私達も副会長さん達みたいな関係を目指して、頑張ります」
ん?
彼女はにっこりと幸せそうな笑みで爆弾発言をくれる。
「副会長さん達みたいな、信頼しあった恋人同士っていいですわよね」
「…………」
ええっと?
……いやー、流石ヒロインよりヒロイン特性を持つ彼女。まったくズレた勘違い、
「ああ、理想の恋人だよな」
……うん?
「えっ、会長まで? 私たち付き合ってませんよ」
「は? 嘘だろ?」
驚きの目を向けると驚きの目で返された。会計と庶務にもだ。
「違うの?」
「てっきり付き合っているのかと」
まじか……。
知らなかった事実。どうやら私たちは付き合っていると思われていたらしい。
……どおりで、私たちが近寄ってもあまり焦らなかったわけだ。わー、ショックー。そういえば告白もされなかったし。勘違いされていたからか。
その後、二、三、会話を交わし、二人は用事があるらしく微笑んで去っていった。寄り添う二人は幸せそうで、こちらの頬も自然と緩む。三年間長かったけど、これで、めでたし。めでたしだ。
「では、無事二人が付き合ったことを祝して、ついでに卒業も祝して、かんぱーい」
「卒業がメインだろ」
相変わらずあきれ顔がデフォの幼なじみと祝杯をあげる。こんな時くらい笑えばいいのにー。
「で、俺のお願いだけど」
「……あ、うん」
そういえばそんな約束もしてたわ。完全に忘れてた。
「何でも言ってよ」
「ふーん? なんでも?」
「バーンと言っちゃって!」
元気よく返事をする。どうせ、大したお願いじゃないだろうから、答えは「おっけー」一択だ。
「じゃ、俺と結婚して下さい」
ほらね。簡単なこ―――……と、じゃない!
「はぁぁぁ!?」
室内に、私の叫び声が響く。
「………え。ちょっと待って。は? 結婚? なんで?」
「好きだから」
……知らなかった事実その二。
どうやら幼なじみは私の事が好きだったらしい。
「何でもきくんだよな?」
いや、あの。こんな所でデフォの呆れ顔崩さなくていいんだよ?
□その後の会話■□
「いやいやいや、ちょっと待ってよ? え。い、いつから?」
「さぁ、気がついたらって感じ」
「や、でもさ、私幼稚園の時あんたのこといじめてたよね? なのになんで?」
「そんな記憶ないけど」
「隅っこで本読んでたあんた捕まえて、引きずり回してたじゃん」
「あー、あれか。あれは俺仲間外れにされてたからおまえが誘い出してくれて寧ろ嬉しかったんだけど」
「……まじか」
知らなかった事実その三。
どうやら私はきちんとヒロインの役割を果たしていたらしい。
■□■□
蛇足
才女キャラを決めるにあたっての会話。
「ぶりっこキャラって、あいつとの接触多いの?」
「そりゃ、ぶりっこだからね。べたべた引っ付くよ」
「じゃ、才女キャラに一票。ファンからの妬みも少ないだろうし」
「なるほどねー、確かに妬まれたくはないわぁ。よし決定」
■□■□
繋ぎが悪くていろいろとごちゃごちゃしていてすみません!
お読み下さりありがとうございました!