第五話 出逢い
お待たせ致しました。
ーー彼女は、その生き様で
俺達を、圧倒した。
ーーside クイド
ギィィィィーー
この塔の中で、今まで開けてきたどの扉よりも、軋んだ音を立てて開いた目の前の扉。
光が差し込んで来る中、俺達は、僅かに残った暗闇に身を潜めた。
そして、差し込む光に影がよぎった、その瞬間。
『…っ!』
『ふっ!』
『どりゃあ!』
「!?」
声を出さずに振るった各々の獲物は。
「なっ!?」
ギィン ガキン キン
若い人特有の少し高い、けれども酷く驚いた声と共に。各々の攻撃が弾かれて防がれた音が響いた。
「えぇっと…。あぁ、『お客さん』でしたか。」
人の声に呆然とした俺達は、その声の主を見て。
「「………。はぁぁ!?」」
「ウソだろ、女の子!?」
絶叫、した。
扉が開いた先に居たのは、十五歳程の、一人の少女だった。その事自体は特筆することでもない、ありふれた事だ。
だが。
此処は「帰らずの森」。何度も言うが、『非生存域』の中でも、危険度の高い場所の筈。
どう考えても、この少女が生き延びられるとは思えない。
しかし実際には、この少女は生きて、俺達の前に居る。
何故。どうして。どうやって。
疑問がぐるぐると頭の中を廻る俺達に、少女は言葉を続ける。
「あれ…?あなた方は、『お客さん』じゃないんですか?」
でも、今日は…。小さく呟かれた少女の言葉に、ヴェンが疑問を返す。
「…『お客さん』、とは?」
「え?……。ああ!そっか…。忘れてたわ。」
「…?」
そう、だった。と、また小さく呟いた少女は、酷く哀しげで。
迂闊に触れてしまえば、消えてしまいそうな。どこか儚い危うさを纏っていた。
「君は、一体…。」
思わず口から零れた言葉は、自分でも分かる程。
…少し、震えていた。
一体、どうしてこんな場所にいるのか。
一体、どうやってこんな所で生きていられたのか。
一体、少女の言う『お客さん』とは何なのか。
一体、この塔は何なのか。
……一体、何故そんなにも哀しげで、儚げなのか。
そして…一体、何故この塔に、一人で住んでいるのか。
そんな思いが、複雑に絡み合ったが故の、言葉だった。
ーーsideアリア
「君は、一体…。」
シスターの声よりも低い、男の人の声。その声は、少し震えていた。
けれど。弓を持つ、その男性の問いに。
私は、視界が揺れるのを感じた。
「私、は…。」
ーー『アリア、頼んだよ。』
ーー『よろしくね、アリア。』
ーー『大丈夫よ。アリアには『 』がついているもの。』
ーー『私、頑張って、『 』になるから!』
それは、幼い頃の、大切なーー。
「…。私は、『アリア』。」
きっと、『お客さん』の求めている答えではないけれど。
それでも私は、そのことに気付かないフリをして、問い掛けた。
「えっと…。皆さんのお名前は?」
「…では、あなたがカイルさん?」
「おう。」
一人目は、カイル、という名の男性。
鮮やかな赤い髪に、炎を固めたような、緋い眼を持っている。
今、その綺麗な眼は、キラキラと好奇心で輝いている。
背中に背負うのは、幅広の両手剣。
「で、貴方がヴェンさん。」
「…あぁ。」
二人目は、ヴェン、という名の男性。
腰辺りまで伸びている深い藍色の髪に、紫水晶のような眼。
どこか神秘的な感じのするヴェンさんは、カイルさんとは逆に、無表情で口数が少ない。
そして、一拍遅れるという、独特のタイミングで返事が返ってくる。
手に持っているのは、ヴェンさんの身長より僅かに長い槍。
「えっと、貴方がリーダーの、クイドさん。」
「そうだ。」
三人目は、クイド、という名の男性。
金髪にもみえる茶色の髪に、藍色の眼。
特徴的なのは、クイドさんの眼が、藍色ながらも紺色が薄く混じっていることだろうか。
その手に持つのは、短弓。
「カイルさん、ヴェンさん、クイドさん、で良いですか?」
「ああ、構わない。君は…。嬢ちゃんでいいか。」
「へ?」
自己紹介が一段落した後。
クイドさんの言った言葉に、変な声を上げて固まる。
だが、彼らは固まった私のことはお構い無しに、会話を続ける。
「…お嬢、で。」
「え?」
「むぅ。じゃあオレは、アリアちゃんで。」
「えぇっ」
続いたヴェンさん、カイルさんの言葉に、一々反応する私が面白いのか、小さく噴き出す彼ら。
よほどツボに入ったのか、笑い声はどんどん大きくなる。ヴェンさんですら、小さく笑っている。
そんな彼らの様子に頬を膨らませていると、そんな私に気付いたヴェンさんが笑いを収める。
「…悪いな。」
「別に。気にしなくていいですよ。ヴェンさん。」
「ははっ!アリアちゃんが拗ねたぞ、クイド!」
「おっと、拗ねちゃったか。悪ぃな、嬢ちゃん。」
笑いながら言うクイドさん。
…謝る気が皆無な気がするのだが。
…結局、彼らの笑いが収まるのは、それから数分後のことだった。
ーーside クイド
「…。私は、『アリア』。」
そう言ったのは、ヴェンの髪よりもさらに長い、腰より下に伸びた、綺麗な蒼い髪をもった、十五歳程の少女。
彼女は、右目が翠の混じった金の眼、左目は髪と同じ蒼い眼の、珍しいオッドアイを持っていた。
アリアと言った時の彼女の顔は、誇らしげではあったが、何故か、強い哀しみが覗いていた。
そして、それに気付いたのは、俺だけではなかったようで。
『…クイド。』
『ああ、解ってる。』
声には出さず、口の動きだけで会話する俺達に、少女は気付かない。
『お!じゃあ、』
『『お前は黙ってろ。』』
カイルが何かを言う隙も与えず、ヴェンと共に一刀両断する。
『…二人ともヒデェ。』
いじけているカイルには悪いが、カイルの出す提案は、大抵ろくなことにならない。
それは、既に体験済みだ。
「君は…。嬢ちゃんでいいか。」
そう言ったのも、ヴェンとのやり取りで決めたことだった。
「へ?」
ただ、俺達の言葉に過剰に反応する「嬢ちゃん」を見ていると、予想外に面白くて。
三人揃って噴き出してしまった。
結果、「嬢ちゃん」は拗ねてしまったが、あのときの哀しみは既に見えなくなっていた。
笑いを収めてから、しばらく。
嬢ちゃんの機嫌が元に戻ったのを確認してから、気になっていたことを尋ねた。
「なぁ、嬢ちゃんはーー」
『 』内は口パクです。読唇術だと思ってください。
次回は登場人物紹介になります。
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