第二話 その後の物語 ~side クイド~
お待たせ致しました。
ーーあの日、俺達は。
天へと昇る、ヒカリと蒼を見た。
ーーside クイド
「ーーふむ。そなたらのような優秀な人材を、冒険者ごときにしておくのはもったいない。騎士団に入らぬか。」
「恐れ入りますが、私共は冒険者の方が性に合っていますので。」
「ほぅ。ならば仕方ない。…下がれ。」
「かしこまりました。」
「なぁ。」
「ん?」
カイルの不思議そうな声に、弓の手入れの手を止めた。
「あれで良かったのか?」
ーーアリアちゃんの『お願い』だろ。
両手剣の手入れをしながらのカイルの言葉は、隣で槍の手入れをしている、ヴェンの声によって途切れた。
「…構わない。それに…俺達は、冒険者「ごとき」だ。」
珍しく、ニヤリとした顔で告げられたヴェンの言葉に、俺達は破顔した。
「ヴェンの言う通りだ。何も「この国」に、こだわる必要はない。」
嬢ちゃんの『お願い』。
それは、嬢ちゃんから渡された本を、国王に届けることだった。
『この本には、「時」や、他の一族のことが書かれています。』
『で、それを俺達がお偉いさんに渡せば良いのか?』
『はい。……きっと、今の世界には、忘れ去られてしまっているでしょうから。』
『…お嬢、この文字は…?見たことのない文字だ…。』
『この文字は、一族達の独自の文字ですから。読める人は、もう…。』
『じゃあ、どうすれば…。』
『ふふっ、大丈夫ですよ。ちゃんと、訳してある本もありますから。
なんなら、そちらを渡してくださっても構いませんよ?』
『『…………。』』
『それに…。この文字で書かれた本は特別なんです。』
『…特別?』
『はい。本自体に意志が存在しているので。』
『『………は?』』
『『命』の 一族が、文字そのものに対して力を使いましたから。』
『………。ははは……。一族って、そんなことまでできるんだな……。』
『…大丈夫か、クイド。』
『……ああ、ヴェンか。…多分な。』
「ーーさて、そろそろ時間だ。準備はできたか?」
「…ああ。」
「準備?なんのことだ?」
カイルの言った一言に、宿の部屋の空気が凍った。
「………こんの、バカイル!今日は、依頼だと、昨日、あれほど…!」
怒鳴った俺に、ヴェンは妙に疲れたように声を掛けた。
「…無駄だ、クイド。そもそも、こいつが聞いていると思うか?」
その言葉を聞いて、ヴェンも苦労してるな…と同情した俺は、悪くないはずだ。
ーーそれはきっと、
いつまでも続く、彼らの日常。
ガラガラガラ……
踏み均された街道を、依頼者達の所有する馬車が、音を立てて走る。
今回の依頼は、商隊の護衛依頼。
護衛依頼は、本来は「守護者」の仕事だが、移動に丁度良かったので、俺達は商隊の護衛依頼を受けていた。
ガラガラガラ……
「……なぁ。」
「ん?…どうした、カイル。」
「結局、どうするんだ?この本。」
「あぁ。
ーーもう、2年になるのか。」
あれから、既に2年の時が経っていた。
相変わらず俺達は、嬢ちゃんに渡された、意志を持つ本を持ったまま、冒険者を続けている。
「…俺達が持っておけばいい。」
「ヴェン…?」
相変わらず無表情のままだったが、珍しく強く話すヴェンに、困惑の声が漏れた。
「…お嬢に渡された、本は全て渡し終えた。」
「「……。」」
「…なら、俺達が一冊位持っていても良いだろう?」
ヴェンの言うように、俺達は2年の間に、嬢ちゃんに渡された分の本を、各国の国王に渡し終えた。
残ったのは、意志を持つ本、一冊だけだ。
「……。そう、だな。結局、この本を渡してもいいと思える国王は居なかったからな。」
「俺達が、この本を渡してもいいと思える奴に出逢えたら、その時に渡せばいいしな!
まぁ、そう簡単に渡す気はないけどな!」
「ははっ。当たり前だろ?嬢ちゃんの『お願い』だ。生半可な奴に渡してたまるかっての。」
「…同意する。」
ヴェンの言葉を聞きながら、この本を誰かに渡すのは、相当先の話になりそうだと、ひっそりと苦笑した。
「あ!そうだ、『帰らずの森』の新しい名前、考えたぞ!」
「へぇ、言ってみろよ。」
「おう!
ーー『時守の森』って言うんだ!」
ーーそして、
物語は終わりを迎える。
ありがとうございました。
次回からはクード爺さん達の視点に戻ります。
「時鐘のアリア」番外編、11月下旬辺りから更新しようと思っています。
只今、読者の皆様の「こんな話読みたい!」という要望を募集中です。
誤字脱字等はコメントなどで報せていただけると幸いです。
それ以外での感想や批評も受け付けていますので、遠慮なくコメントしてください。
~次回予告~
「……セルディオ殿。」
「ありがたく、頂戴致します。『時森』殿。」
長々と失礼しました!
蒼咲猫