第五話 『森の外の景色を』
お待たせ致しました。
ーー淡く、蒼い燐光が、時鐘から溢れ出す。
一度零れ始めた蒼い燐光は、勢いを増してーー周囲を優しく覆った。
ーーside アリア
「嬢ちゃん…。」
「…良いのか?」
「アリアちゃん、君は……っ。」
彼らの、それぞれの反応に苦笑を返して。
それでも、笑って頷いた。
「良いんです。それに、これはーー」
ーー「あの時」から、決まっていたことですから。
その先は、言わなくても伝わったようで。
「っ…。ーーそう、か。」
「はい。」
一瞬だけ、哀しい顔をしたカイルさんはそれでも、私を引き留めたりはしなくて。
その心遣いに、僅かにくすぐったい気持ちになった私は。
もう、大丈夫だと。
…そう、思った。
「クイド様、ヴェン様、カイル様。
……よろしく、『お願い』しますね。」
この、『お願い』の為に、事情を知ってもらわなければならなかった彼らに、ほんの僅かに感じた申し訳ない気持ち。
けれどそれでも、止める訳にはいけなかったし、止める気もなかった。
だから。
「!あ、ああ。」
「…了解、した。」
「っ!…わかった。」
私の言葉に息を呑んだ後の、彼らの了承の言葉に。
「頼みます…。」
ただ、それだけを口にした。
「私は、『時守』だから。」
ーーそう言って、誇らしげに笑った、彼女は。
「………。『時鐘』よ…!
彼らに、『森の外の景色を』。」
時鐘から溢れ出した蒼い燐光は。
僅かに微笑んで告げられた『時守』の言葉に従って。
彼らを、包み込んだ。
そして。
「ありがとう、ございました。
……あなた方に、『時』の加護がありますように。」
私は、心を込めて、『時』の 一族に伝わる礼をした。
ーー瞬間。
リィンリィン
小さな鈴の音と共に、彼らの姿は掻き消えた。
残された、私は。
体をヒカリに変えながらも、僅かに蒼い燐光の残るその場所をしばらく眺めて。
「 。」
声に出すこともなく、言葉を紡いだ。
ーーそれはきっと。
再会の約束。
あの時、笑顔でいた『時の一族の国』のみんなの気持ちが、解った気がした。
ーーside クイド
俺達を優しく包み込んだ、蒼い燐光。
その、あまりの眩しさに、目を瞑った。
ふわり、と。
体が浮く感覚がする。
決して不快ではないその感覚に、身を委ねて。
「 。」
蒼いヒカリの中で、彼女の声を、聞いた気がした。
ふと、空気が変わったのを感じた。
「…此処は、」
「どうなってるんだ…。」
「『帰らずの森』の前!?」
目を開けると、そこは既にあの塔の上ではなかった。
振り返ると、六日間を過ごした、深い森。
あまりの現実味のない出来事の連続に、一瞬白昼夢を疑った。
けれど。
森に入った時にはなかった、右手にある確かな重みが。
それに抗議するかのように、淡く輝いた。
そして。
「なぁ、なんか『帰らずの森』ってしっくりこない」
ふと、カイルの言ったその言葉に同意した俺達は。
しばらくの間、森の呼び方について、頭を悩ませることになる。
ーーあの時、確かに聴こえた声は。
今なお俺達の脳裏に、鮮やかに残っている。
『何時か、時の流れの先で。』
そう言って、時鐘と共にヒカリになって溶けていったのだろう彼女の、満足気な笑顔と共に。
ありがとうございました。
この話(第五話)で、第二章の内容は終わりです。
この後に登場人物紹介を挟みます。