第四話 『彼の国の姿を』
お待たせ致しました!
ーー『お客さん』。
彼女の言った、その意味は。
ーーside アリア
「「「………。」」」
私の過去を語り終えても、彼らは一言も話さなかった。
塔の上に、沈黙がおりる。
しばらく、黙り込んだ彼らを眺めていたが、ふと我に返る。
「時間…。」
小さく呟いた私は、時鐘に手を添えて『時鐘』を使った。
「『時鐘』よ…。
『彼の国の姿を』。」
ーー瞬間。
ゴーン ゴーン ゴーン ゴーン ゴーン
低く鳴った時鐘の音は、いつの間にか霧の晴れた森の上を駆け抜ける。
「「「……っ!?」」」
と。
時鐘の音に顔をあげた三人が、森に目を向けて、息を呑んだ。
いつの間にか、森の上に、うっすらと 透けた街が現れていた。
その街では、同じように透けている人々が、まるで生きているかのように動いていた。
「…これは、まさか…!」
「『時の一族の国』、か!?」
大きな声をあげた二人ーーヴェンさんとクイドさんは、その街が何なのかに気付いたようだった。
ただ一人。
「おぉ…!すっげぇ……!!」
カイルさんを除いて。
「『時鐘』のチカラ、ですよ。」
あのあと。
ヴェンさん、クイドさんの二人(と、目を輝かせた一人)に詰め寄られ、眼下に現れた街のことを聞かれた。
それに対する私の返事が、上の言葉だ。
「いえ…。正確に言えば、時鐘に込められた一族の 『時』の力、といったところでしょうか。」
あの時、『時の一族の国』のみんなが、その存在をヒカリに変えながらも注いだ『時』の力。
その力が、あの透けた街ーー過去の『時の一族の国』を、映し出しているのだ。
けれど。
「あれ…?」
「消えた…。」
「……。」
『時鐘』を使って、およそ二十分ほどたった頃。
さらに薄く透けた『時の一族の国』はついに、薄れて見えなくなった。
「……二十三分。」
「「?」」
唐突に言葉を発した私に、ヴェンさんを除く二人は首をかしげていた。
「…『時の一族の国』が消えるまでの時間、か。」
ただ一人解ってしまったらしい、ヴェンさんのその言葉は、疑問ではなかった。
「そう。」
短く肯定した私に、クイドさんが先を促す。
「…『時鐘』にはもう、あまりチカラが残っていないの。」
「どういうことなんだ?」
「…『時鐘』に注がれた力は、『時』の 一族、3284人分。」
3284人。
それは、『時の一族の国』のーーあの日、笑顔でヒカリになって溶けていった人の数。
あの日の光景は、きっとこれからも忘れることはないだろう。
「『時鐘』は、その『時』の力を使って、この『時の一族の国』を映し出しているの。」
それ以外にも『時鐘』のチカラは使われている。
今はチカラ不足でしていないが、塔の老朽化を防ぐために、塔の時間を止めたりもしていた。
私が永い時を生き続けているのも、『時鐘』で「私」の時間を止めているからだ。
そのため私は、時間を止めた副作用として、左目が蒼色に変わってしまっている。
そして…。
私が一人になることを案じた『時の一族の国』のみんなが造り出した「シスター」も、『時鐘』のチカラによって存在していた。
…彼女は、『時鐘』のチカラが不足したため、その存在を保てなくなって、消えてしまったが。
「…何故。」
「あの戦争で散っていった、沢山の命の鎮魂と、慰霊。そして、森に対する償い。」
「償い…?」
「……『時の一族の国』の周りの森は、度重なる戦闘によって、枯れた森になってしまったの。」
異変が起こり始めたのは、戦争が始まって一年と少したった頃だった。
始めは、些細な変化。
森に住む、鳥達の数が減ったのだ。
けれど、当時帝国の相手で忙しかった『時の一族の国』の人々は、気のせいだと、事態をあまり重く受け止めていなかった。
しかし、その直ぐ後。
その考えを改める出来事が起こった。
森の木々の様子がおかしくなったのだ。
枯れ木が増え、若木の数が減り、生い茂る筈の植物の姿は見えなくなった。
流石におかしいと思った『時の一族の国』の人々が森を詳しく調べる間には、森から生き物の気配が減っていた。
結果として、豊かな森は、枯れた森へと変わってしまった。
同時にそれは、森から食料の大半を獲ていた『時の一族の国』の運命を、決定的なものにした。
「だから、『時の一族の国』の人々は、その役割を、『時鐘』と 『時守』に託したの。」
「そんな…。」
話を聞いていた彼らは絶句していて。
…クイドさんの漏らした、小さいはずの声が、静かな塔の上に大きく聞こえた。
「…何故、お嬢が『時守』に。」
「…私はその時の『時の一族の国』の人々の中で、一番幼かったから。
それに……『時鐘』を一番巧く使えたのが、私だったから。」
『時鐘』を巧く使えるということは、残された『時』の力を最大限に扱うことができるということなのだ。
だから『時の一族の国』の人々は、自らがヒカリになって溶けたあとも、その力を使って森に償い続けることのできる私を、『奇跡』と呼んだのだ。
「……『お客さん』が来るまで、私達に終わりは来ない。」
「「?」」
「…。」
突然、話を変えた私に、困惑の表情のクイドさんとカイルさん。
相変わらずヴェンさんだけが、無表情だった。
「この塔は、『時鐘』を使う副作用として、時空から切り離されてきたの。」
この森と塔は、繋がっているように見えて、実際には繋がっていない。
そして、塔の中に居る私は、この塔の外に出ることはできない。
だから私は、眼下に見える森に行くことはできないのだと告げると、三人の顔(と雰囲気)に、疑問が浮かんだ。
「あれ?俺達、この塔の中に普通に入れたぞ?」
「お嬢ちゃんの話が本当なら、俺達はこの塔に入れないということになるぞ…?」
「…見付けることすら、できるかどうか怪しいな…。」
彼らの言うことは正しい。
ヴェンさんの言うように、「普通なら」この塔を見付けることは不可能なのだ。
…けれど。
「……『時鐘』のチカラが、弱くなってしまったから…。」
「副作用が弱くなって、繋がった?」
クイドさんの言葉に、肯定を返す。
「そう。
だから、『お客さん』が来れば、『時守』の役目は、終わりが近いということ。」
時鐘がチカラを使い果たした時。
それは、『時守』の役目の終わりを意味している。
『時守』の役目の終わり。
…その意味を、彼らは悟ってしまったようで。
「「「ッ!」」」
息を呑んだ彼らは、信じられないとでも言うかのように、私のことを凝視した。
「ふふっ。」
彼らが会ったばかりの私を案じてくれているのを感じて、『お客さん』が彼らで良かったと、心底思った。
彼らの気持ちが嬉しくて、思わず笑ってしまった私に、益々視線が強くなる。
「…クイドさん、カイルさん、ヴェンさん。
あなた方に、頼みたいことがあるのです。」
そう言った私に、彼らはーー
ーー彼らと出逢えたことに、幸せを感じたーー
ーー『お客さん』。
それは………
この永い時の、終わりの訪れ。
500PV、230ユニーク突破!
ありがとうございました!
これからも「時鐘のアリア」をよろしくお願いします。
~次回予告~
「嬢ちゃん…。」
「いいの。」
ーーこれは、あの時から決まっていたことだから……。
「『時鐘』よ…!」