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今日は休みの日だったので繁華街をぶらついていた。いつもだったら家でのんびりくつろいでいるのに今日はそんなことをする気は起きなかった。だからといって街へでた所で僕には特に何もすることはなかった。それに僕はこういう騒がしい空間は苦手だ。なのにも関わらずこんな所に来た自分が不思議で堪らないのだが、まあたまには気分を変えてってやつだと思う。やっぱり何もすることはないのだけれども。
だからだろうか、自然と僕の足は人通りの少ない場所へと向かっていた。どこもかしこも子供たちのはしゃぎ声が響き渡っている。太陽の光を浴びて風情に浸っているとギターの音がふと聞こえた。見てみるとやはりというべきかそこには路上ライブ、いやパフォーマーがいた。日陰にいけばいいのにわざわざ日向で一人弾き語りをするなんて元気なことだ。なんて思っていたのだが彼の歌声を聞いているとその場所にいる理由が分かった。自分の心の熱さと太陽の熱さをどちらが上かを競っているのだ。観客、いや見物客などいないように、その時その時に心に浮かんだわ曲を歌って叫んでいる。そんな彼を見ていると昔を思い出した。
ある夏の日のことだ。今の彼のように馬鹿なことを、いやもしかしたらもっとバカなことをしていた友人と過ごした青春時代を思い出していた。
当時から僕は目立たない人間だった。友達はいるし教師ともそれなりに仲は良かった。だけれども彼らにとっては僕はいてもいなくても同じような存在だったのだ。要するに優先度が低かったのだ。そのことに気付きつつも僕もそこまで深い関係なろうとはしていなかったので、ある程度それを受け入れていた時だ。僕の価値観が変えられた。
梅雨が明けたら夏が来て、そうすると夕立が降る。結局は毎日傘を持ってくことになり、そのことが面倒だった。いつからか夕立も少なくなり今日こそはと思い傘を家に置いた途端に降ってきた。それも帰り道、友達と別れた後にだ。傘を持っていたら送って貰えたのにと考えていた。出来るだけ濡れないように上に遮蔽物がある道の端を歩いていた。道の端にはまだ粗大ゴミが回収されていなくて、そのエリアにアコースティックギターが捨てられていた。ケースもなにもない。裸の状態だ。粗大ゴミの中では綺麗な方で、僕は雨除けになるんじゃないかとなにを思ったか気がついたら拾っていた。実際に上にかざして試して見たのだかそれをしている自分を想像していまいすぐにやめた。だからといってすぐに捨ててしまうのもあれだ。僕は弾き方も分からないのにギターを構えていた。そして弦を引いた。勿論、それは音階のどれともいえない、ただの音だった。だけど僕はそれでも満足していた。平たくいうとギターを引いている自分に酔っていた。
「なにやってんの?」
その声を聞いて僕は自分の世界から戻ってきた。
「拾ったからなんか弾きたくなったんだ」
クラスメイトに向かって僕は答える。名前は覚えていなかった。
「なかなかロックじゃん。俺にも貸してくれよ」
頷き彼にギターを渡した。
「めちゃくちゃズレてるじゃねーかよ。良くあんな音に出来たな」
「やっぱりズレてたんだ。おかしい気はしてたよ」
彼は少し声を荒げて調律を始めた。
「うっし、出来た」
そういい彼はギターの音を奏でた。
聞いたことが無いメロディーだった。全く音楽の知識がないから解説のしようもないのだがいい曲だった。
かっこよかった。彼もまた自分の世界に入っていたのだが雰囲気が違った。彼自身だけではなく僕も彼の世界に酔っていた。ゴミが舞台装置に、雨が音響の役割を、周り民家の明かりが照明の担当をしていた。この世界は今、まさしく彼のものだった。
演奏が終わると僕は拍手していた。彼照れていたのかソッポを向きやめろよと手を上下に降り拍手を制止させようとしていた。無視した。
「別にこれくらいすぐ出来るって。慣れれば本当早いから」
「いやそんなレベルじゃあなかったよ」
「音が汚かっただろ? まだまだだって。ほらこれ、返すわ」
「ああ、ありがとう。まあこれ捨てられてたやつなんだけどさ」
「そういえばそうだったな」
雨が上がった。しばらくすると虹が見えた。僕は彼としばらく喋っていた。いつしか日が暮れて、僕たちは解散した。
「じゃあまたな」
「うん、また学校で」
帰り道は星が瞬いているせいか、いつもとは違う様に感じた。世界に色がついたのだ。
僕は上を向いて天の川に祈った。別に七夕という訳でもないから誓ったということにしておこう。
この手に持っているギターを練習しようと。そしていつの日か、僕もこの世界を自分の世界で包むようになろうと。
流れ星が流れてるような、そんな気がした。
おしゃれな短編が書きたかったんや……
でも途中で分けた方が書く時に楽じゃねって思ったらもう分割するしかないよね
今月中に書き終わればいいなーこの作品




