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始まる前の物語

作者: 藤縞律歌



 目を開けた瞬間、彼女の目の前で容姿端麗な青年が土下座していた。そしてその背中を同じくらい容姿端麗な美女が踏みつけていた。


「すいません、SMプレイはどっかよそでやっていただけませんか」


『あらやだ。目が覚めたのね。具合はどう?』


「すこぶる健康です。ただ、どうして私はここにいるのでしょう?」


『それはね、この馬鹿が貴方と貴方の隣にいた人を間違って召喚したからよ』


「……異世界トリップは女子高生の専売特許だと思うので勘弁してください」


『そうね。貴方の隣にいた女子高生が召喚対象だったわ』


 沈黙が下りる。


 彼女の目線は美女から土下座している青年へと移る。青年は彼女の視線を受けて体を震わせ、一度は上げていた頭を下げた。


「間違いなら返してください」


『無理』


「何故」


『だって貴方の魂と肉体ごと召喚しちゃったから、元の世界に貴方の存在はないんだもの。つまり、今の貴方は死んだ状態と同じ』


「死んだ覚えはありません」


『死なせた覚えもアタシはないんだけど、この馬鹿がねぇ……あーあ、どうしてこんな奴と夫婦神なのかしら』


 肩を竦める美女に青年は再度体を震わせた。


『ほら、この子にちゃんと説明して地面にめり込むほど頭下げて謝罪しなさいよ』


 美女にせっつかれ、青年は涙目で顔をあげて彼女に説明する。


 元々は彼女の隣に座っていた女子高生が召喚対象だった。しかしいざ召喚という時にタイミングがずれてしまい、元々の対象ではなく隣にいた彼女に召喚の矢が刺さってしまったのだという。


 一度召喚してしまうと再び元の世界に帰還することは出来ない。だからこそ、そういう面に置いて不具合のない者を選ぶのが鉄則。彼女の隣にいた女子高生はその条件をクリアしており、性格面に置いても召喚するのに相応しかった。


『ちゃんと慎重を期して召喚してって言ったのに、この馬鹿ときたら失敗するわけがないとか言って手ぇ抜いたのよ。信じられない。このことはお母様にきちんと報告したからね』


『う゛っ……』


「とりあえず、そっちの人が悪いってことはわかりました。で、その人がどうなろうと別にどうでもいいんですけど」


『ひどいっ!』


「私からしてみれば貴方の方がひどいです」


 そう言えば青年はしょんぼりと肩を落とす。


「私、これからどうなるんですか?」


『そうね。一番うまくまとまるのは、貴方がアタシ達の世界に来て世界を救ってくれることだけど』


「お断りします」


『でしょうね。そういうタイプじゃなさそうだもの』


「当然です。自分たちでどうにかできないからって、異世界の人間に押しつけるなんてどうにかしてます。ばかばかしい。自分たちの世界の事なんですから、自分たちでどうにかしてください」


『そう言わずに頼むよぉ~』


「嫌です。ほら、さっさと輪廻の輪にでも乗せてください」


『そういかないの、ごめんなさい。輪廻の輪に乗せるにしろ何にしろ、一度アタシ達の世界に来てもらわないと』


「あはははは、2011年にちなんで2011回ほど消滅してください」


『神様にそこまで言う娘初めてだよ、僕……お母様そっくり』


『別にそこで何かしてってわけじゃないわ。こっちに来て好きなように生きてくれればいいのよ。そして死んだらちゃんと輪廻の輪に乗る、いいえこの馬鹿が元の世界の輪廻の輪にきちんと乗せるから。それこそ消滅してでも』


『ええっ!?』


『当たり前でしょう。貴方のせいなんだから』


 ふむ、と彼女は少し考えこむ。元の世界に戻れない以上、目の前の夫婦神がいる世界に行くしかない。


 美女こと女神のいい分では普通に生活すればいいだけの事。それは今までと変わらない。


 彼女にしてみれば、異世界召喚でありがちの勇者だの救世主だの、そんなことはどうでもいいし、まずやりたくない。


「仕方、ありませんね。わかりました、そちらの世界に行きます」


『ありがとうっ!』


「ただし、生活していく上での最低限の知識はください。読み書きはもちろん会話もです。あとは世界の情勢ですね」


『勿論よ』


「よろしくお願いします」


『それはそうと、ここに何枚かの紙があります』


 ずらり、と女神との間に数枚の紙が浮かぶ。此方側からは何が書いてあるのかは見えない。


『ここから三枚引いてくれない? っていうか、引きなさい。引いたら見ないで渡してちょうだい』


 有無を言わせぬその迫力にたじろぎながら、言われたとおりに三枚引いて女神に渡す。女神はそれらを見てにんまりと笑みながら、彼女にある方向を指さした。


『あっちに歩いて行けば着くわ。それじゃ新生活がんばって!』


『フォローはきちんとしますから!』


「当然です」


 切り捨てるかのような彼女の口調に、男神はさめざめと泣きだして、妻である女神にうっとおしげな視線で見られている。しかし彼女はすでに二人を放って歩きだしていた。






 歩きだした後ろ姿を見ていた女神は、彼女が引いた三枚の紙を見て再びにんまりと笑う。


『あの子、何を引いたの……?』


『おもしろいくらいに強運よ、あの子』


 女神は夫の男神に紙を見せる。


 そこには“使い魔”“衣食住完備”の書かれており、最後の一枚を見て男神は顔を引き攣らせた。


 最後の一枚にはこう書かれていた。


 “言霊(無制限副作用なし)”


『なんでこんなの入れたのさっ!?』


『おもしろそうだし、絶対引かないと思ったのよ』


『あの子が星の滅亡とか願ったらどうするんだよ……』


『それはないわね。というより、あの子に普通の生活とか言ったけど、あの子が引いたのって明らかに普通の生活を引くためのカードじゃないわぁ』


 うふふふ、と笑う女神。


『さあて、このことをお母様とお父様にご報告に行かなくちゃ。ほら、行くわよ』


『ああ……! 怒られる……!!』


『自分が悪いんじゃない。手ぇ抜いて間違えるから』


『あああああ……!!』


 首根っこを引きずり、女神は自分たちを生みだした父母の元へと向かっていくのだった。








 とある国のとある山の麓。


 魔物の森と言われる森が周囲を囲み、高度三千メートルを超える山を背景にしたその屋敷は天然の要塞だった。


 その屋敷で召喚された彼女は、平凡を望んだはずなのに非凡な能力を与えられ女神と男神に心の底から罵倒をそれぞれの像に向かって浴びせるのだった。





名前が一切出てこないのは仕様です。


この主人公はチートもらっても絶対平凡の生活のためにしか使わない。

なので物語は続かない。続かせてくれない。

それがこの主人公です。

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