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言葉が通じない暴君皇帝の運命の番として召喚されました〜炎を鎮めたら冷徹な彼が甘々になりました〜  作者: 水凪しおん


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第9話「炎の中へ」

 本宮の中心部へと続く巨大な門は、高熱によって飴のように溶け落ちていた。

 原型を留めていない門を越えて大広間へと足を踏み入れると、そこはもはや宮廷の一部ではなく、荒れ狂う火口の底そのものだった。

 大理石の床は熱で赤熱し、歩くたびに足の裏から肉を焼くような痛みが全身を貫く。

 豪華を極めたシャンデリアは天井から落下して粉々に砕け、その破片すらも高熱で液状化して床を這い回っている。

 広間の中央には、目を開けていられないほどの強烈な光と熱を放つ、巨大な魔力の渦が荒れ狂っていた。

 空気を引き裂くような耳障りな轟音が空間を満たし、近づく者の存在を一切許さない絶対的な拒絶の領域を形成している。

 その渦の中心に、一つの人影が膝をついているのが見える。

 皇帝レオニダスだ。

 しかし、その姿はもはや人間の枠を超越しようとしていた。

 彼の背中からは、魔力が実体化したような真紅の炎が巨大な翼の形を成して噴き出している。

 顔を覆う両手は、鋭い爪を持つ猛禽類のような形状に変異し、皮膚の表面には赤黒く輝く竜の鱗がびっしりと浮かび上がっている。

 彼が苦悶の声を上げるたびに、口の端から高温の火の粉が漏れ出し、周囲の空気をさらに焦がす。

 竜の闘争本能が、彼の人としての理性を完全に飲み込もうと、最後の抵抗を削り取っているのだ。

 近づけば確実に命を落とすという本能の警告を無視し、荒れ狂う魔力の渦へと足を踏み入れる。

 突風が刃のように衣服を切り裂き、露出した肌に無数の細かな傷を刻み込む。

 痛みに顔を歪めながらも、両手で顔を覆い、前へ前へと体重をかけて進む。

 強烈な圧力の壁に弾き返されそうになるが、歯を食いしばり、足の裏から血を流しながらも石の床を踏みしめる。

 気配に気づいたのか、レオニダスがゆっくりと顔を上げる。

 その瞳は完全に人間のものではなく、縦に細く裂けた瞳孔だけが冷酷な捕食者の光を放っている。

 彼と視線が交差した瞬間、背筋に冷たい刃を突き立てられたような圧倒的な死の恐怖が全身を駆け巡った。

 レオニダスは喉の奥から低い威嚇の音を漏らし、鋭い爪の生えた右手を高く振り上げる。

 その爪が振り下ろされれば、自分の体など容易く両断されてしまうだろう。


 『逃げない』


 振り上げられた死の宣告を見つめながら、心の中で強く宣言する。

 逃げるためにここに来たのではない。

 彼を深い絶望と孤独から引きずり出すために、この炎の中へ飛び込んだのだ。

 彼に向かって、無防備に両腕を大きく広げる。

 殺意に満ちていたレオニダスの黄金色の瞳が、一瞬だけ驚愕に大きく見開かれた。

 振り下ろされようとしていた右手が空中で止まり、彼の全身が小刻みに震え始める。

 竜の本能と、人としての理性が、彼の中で激しく衝突しているのがわかる。

 そのわずかな隙を突き、残されたすべての力を振り絞って距離を詰める。

 熱を放つ竜の鱗に覆われた彼の胸に、正面から強く抱きつく。

 焼けた鉄板に身を投げ出したような激烈な痛みが、全身の神経を真っ白に焼き尽くそうとする。

 悲鳴を上げそうになるのを奥歯を噛み砕くほどの力で堪え、腕に力を込めて彼を逃がさないように抱きしめた。

 自分の内側の最も深い場所から、冷たく澄んだ魔力の波長を全力で引き出し、彼の荒れ狂う体の中へと流し込んでいく。


 『大丈夫、私がここにいる』


 声にはならない叫びを、波長に乗せて彼の魂の奥底へと叩き込む。

 相反する二つの力が激しくぶつかり合い、大広間全体を揺るがすような巨大な閃光が弾ける。

 閃光の中で、彼を抱きしめる腕の感覚だけが世界のすべてになる。

 激しい抵抗を示していた彼の体が、ゆっくりと力を失っていくのを感じた。

 皮膚を焼いていた竜の鱗が、波長に溶かされるようにして人間の滑らかな肌へと戻っていく。

 背中から噴き出していた炎の翼が霧散し、狂暴だった魔力の渦が嘘のように静まり返る。

 大広間を満たしていた轟音が消え去り、静寂が痛いほどに耳を打つ。

 レオニダスは完全に人間の姿を取り戻し、その場に崩れ落ちそうになる。

 彼の重い体を必死に支えながら、ゆっくりと床に膝をついた。

 レオニダスは荒い息を吐きながら、信じられないものを見るような顔でこちらの顔を見つめている。

 その黄金色の瞳からは捕食者の光は完全に消え失せ、代わりに深い安堵と、言葉にならない無数の感情が溢れ出していた。

 彼が震える手を伸ばし、こちらの火傷を負った頬にそっと触れる。

 その手はひどく冷たく、しかし確かに人間の体温を持っていた。

 彼の指先から伝わる微かな震えが、二人の間に存在していたすべての壁を取り払ってくれたような気がした。

 限界を迎えた自分の体から力が抜け、彼の広い胸の中に意識を手放すようにして倒れ込む。

 最後に耳に届いたのは、自分を強く抱きしめる彼の腕の力強さと、深い安堵の入り混じったかすかな声だけだった。

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