番外編「陽だまりのまどろみ」
初夏の暖かな陽光が、離宮の中庭に降り注いでいる。
空は淡い水色に澄み渡り、薄い雲が風に流されてゆっくりと形を変えていく。
吹き抜ける風は若葉の青々とした匂いを運び、日向で温められた土の香りと混ざり合って鼻腔をくすぐる。
中庭の中央に設えられた木製のベンチに腰を下ろし、膝の上に広がる柔らかな重みを感じている。
レオニダスが、こちらの太ももに頭を乗せて静かな寝息を立てているのだ。
彼は重苦しい黒の軍服ではなく、風通しの良い白い綿のシャツと緩やかな作務衣のような衣服を身につけている。
シャツの第一ボタンは外されており、日焼けした健康的な肌と、呼吸に合わせて微かに上下する鎖骨のラインが見える。
彼の漆黒の髪は陽の光を受けて微かに青みを帯びた光沢を放ち、芝生を撫でる風に吹かれてサラサラと揺れている。
政務の合間を縫って、彼はこうして離宮を訪れ、子供のように無防備な姿で休息を取るようになっている。
かつて、彼から放たれていた肌を焦がすような熱気も、空気を歪ませるほどの殺気も、今の彼からは微塵も感じられない。
ただ、穏やかで規則的な体温が、衣服越しにじんわりと伝わってくるだけだ。
指先を伸ばし、彼の額にかかった前髪を優しく梳き上げる。
髪の毛は思いのほか柔らかく、指の間を滑り抜けていく感触が心地よい。
肌に直接触れると、彼の体温が指の腹を通して静かに流れ込んでくる。
そのわずかな刺激に反応して、レオニダスが寝入りばなの猫のように喉の奥で微かな音を鳴らし、こちらの腹部に顔をすり寄せてきた。
彼の高い鼻梁が布地を擦る感触と、吐き出される温かい息が腹部を撫でる感覚に、思わず口元がほころぶ。
皇帝としての威厳をかなぐり捨て、ただの伴侶としての甘えを隠そうとしない彼の姿は、宮廷の者たちには決して見せることのない秘密の顔だ。
彼がこれほどまでに深い眠りにつけるようになったのは、自分の持つ波長が彼の内側にある竜の血を完全に鎮め、調和させているからだ。
自分の存在が彼にとっての安らぎとなっているという事実が、心の奥底に静かな充足感を与えてくれる。
遠くの木立から、名も知らぬ小鳥のさえずりが微かに聞こえてくる。
ベンチの足元では、小さな白い花が風に揺れて、光の粒を散らしているように見えた。
時間がゆっくりと、蜜のように甘く引き延ばされていく。
レオニダスがゆっくりとまぶたを持ち上げ、黄金色の瞳が微睡みの中からこちらを見上げる。
「起こしてしまいましたか」
静かに問いかけると、彼は短く首を横に振り、こちらの指先を自分の大きな手で包み込む。
「いや」
かすれた低い声が、心地よい震動となって膝から伝わってくる。
「お前の波長が心地よくて、つい深く沈み込んでいた」
彼はそう言いながら、包み込んだ指先に自身の唇をそっと押し当てる。
柔らかな唇の感触と、微かな湿り気が指の皮膚をなぞる。
「もう少し、このままでいさせてくれ」
甘えるようなその言葉に、静かに頷きを返す。
彼の瞳が再びゆっくりと閉じられ、深い呼吸のリズムが戻ってくる。
陽の光が二人の影を芝生の上に濃く描き出し、風が木々の葉を揺らして心地よい音を奏でた。
彼との間に流れるこの静寂で満たされた時間が、いつまでも続くことを願いながら、彼の柔らかな髪を撫で続けた。




