第11話「雪解けの朝」
窓ガラス越しに見える冬の空は、厚い雲が晴れ渡り、突き抜けるような青さを取り戻している。
城の敷地内に降り積もった真っ白な雪が、朝の光を反射して眩しいほどに輝いていた。
あれから数日の間、皇帝の私室の奥に設けられたこの寝室は、外界の喧騒から完全に切り離された穏やかな空気に包まれている。
暖炉には常に香りの良い薪がくべられ、部屋の隅々まで心地よい温もりが満ちていた。
体を起こそうと寝返りを打つと、腰に回された強い腕の力によって、再び柔らかな毛布の中へと引き戻される。
背中には、レオニダスの広くて温かい胸板がぴったりと密着している。
彼は背後からこちらを抱き込むようにして眠っており、その規則的な寝息がうなじを優しくくすぐる。
魔力の暴走による熱気が消え去った彼の体温は、冷え性の自分の体を温めるのにちょうど良い、心地よい温度を保っていた。
少しでも彼から離れようとすると、眠りの中でも本能的に察知するのか、腕の力がさらに強まり、逃がさないとばかりに抱きしめられる。
その過保護すぎる扱いに、困惑しつつも胸の奥が甘くくすぐられるような感覚を覚える。
炎の中で魂の波長が完全に重なり合って以来、レオニダスの態度は以前の冷徹さが嘘であったかのように豹変した。
彼は政務の時間を最小限に削り、一日の大半をこの寝室で共に過ごすようになっている。
火傷の治療も、食事の世話も、使用人に任せることなくすべて彼自身が行おうとするのだ。
かすかに身じろぎをしただけで、背後の彼がゆっくりと目を覚ます気配がする。
黄金色の瞳がまぶたの裏から現れ、まだ微睡みを帯びた柔らかな視線がこちらへ向けられた。
彼は何も言わず、ただ愛おしいものに触れるように、こちらの髪に自分の顔をすり寄せてくる。
その仕草は、獰猛な竜というよりも、甘え方を覚えた大型の獣のようだ。
「おはよう」
少しだけ首を巡らせて声をかけると、彼は満足そうに目を細め、こちらの頬にそっと口づけを落とす。
「おはよう、私の番」
彼が低く甘い声でそう囁くたびに、耳の奥が熱くなり、心臓の鼓動がわずかに跳ねる。
言葉の壁がなくなったことで、彼がどれほど自分を溺愛しているかが、言葉と行動の両方から波のように押し寄せてくるのだ。
レオニダスがゆっくりと体を起こし、ベッドの脇に置かれた銀の盆から水差しを取る。
杯に満たされた新鮮な水を、彼自身の手でこちらの口元へと運んでくる。
自分で飲めると言っても、彼は静かに首を横に振り、決して杯を渡そうとはしない。
諦めて彼の手に支えられながら水を飲むと、彼はその様子をどこか誇らしげな、熱を帯びた瞳で見つめ続ける。
喉を潤し終えると、彼は杯を置き、今度は火傷の痕が残る両腕の包帯を丁寧に解き始める。
彼の大きな手が、傷口に触れないように細心の注意を払いながら軟膏を塗り直していく。
かつて周囲の空気を歪ませ、触れるものすべてを壊しそうだった彼の強大な力が、今はただ一つの小さな命を守り、慈しむためだけに使われている。
その事実が、何よりも確かな証として胸を締め付ける。
不意に、部屋の分厚い扉から、控えめなノックの音が響いた。
レオニダスが短く許可を出すと、扉が静かに開き、銀髪の青年シオンが書類の束を抱えて姿を現した。
シオンは部屋の中の温かく甘い空気に一瞬だけ目を丸くするが、すぐに口元を柔らかくほころばせる。
彼が部屋の中央まで歩み寄り、深く頭を下げる。
シオンの青い瞳には、以前のような切羽詰まった恐怖や焦燥感は全くない。
主君が長年の苦痛から解放され、心から安らげる居場所を見つけたことへの、深い喜びと安堵がその表情にはっきりと表れている。
「陛下、本日の政務の報告書をお持ちいたしました」
シオンの言葉も、波長を通じてその意味が自然と理解できる。
レオニダスは包帯を巻き終えると、名残惜しそうにこちらの手を撫でてから立ち上がり、シオンの方へと歩み寄る。
書類を受け取る彼の背筋は真っ直ぐに伸び、皇帝としての威厳と、揺るぎない力強さに満ちていた。
しかし、その横顔にはかつての氷のような冷たさはなく、内側から満ち足りた者の持つ余裕と穏やかさが漂っている。
シオンは報告を終えると、こちらに向かって深く、敬意に満ちた一礼をする。
それは、ただの薬としてではなく、皇帝の真の伴侶に対する明確な礼儀の作法だった。
彼が部屋を退出した後、レオニダスは再びベッドの傍らへ戻り、柔らかなシーツの上に腰を下ろす。
彼は書類を机に置き、再びこちらの手を両手で包み込む。
「外の雪が溶けたら、庭園を歩こう」
彼は窓の外の眩しい景色を見つめながら、穏やかな声でそう提案する。
「お前が初めてこの世界に降り立ったあの庭園に、今度は私が案内する」
その言葉には、過去の悲しい記憶を、新しい幸せな記憶で塗り替えようとする彼の不器用な優しさが込められている。
彼の手を握り返し、静かに頷きを返す。
長い冬の終わりを告げるような、温かく静かな時間が、二人の間を穏やかに流れていった。




