ゴールデンウィーク
開幕から1か月ほどが過ぎ、世間はすっかりゴールデンウィーク。
テレビでは行楽地の混雑情報が流れ、SNSでは楽しそうな写真が次々と流れてくる。
そんな“浮かれた季節”の真っただ中――たち美咲たちスカーレット・フレアは、いつも通り赤井寺球場の控室に詰めていた。
今日の対戦相手は、昨年の日本一チームで現在もペナントレースで首位をひた走る『ダイユウ・ファルコンズ』。
いわば王者。
そしてこちらは、堂々の最下位・レッドブルズ。
……うん、文字にすると、なかなかに残酷な対比だ。
しかもこのカード、すでに2連敗中。
控室のモニターに映るスコアや選手の表情を見ているだけで、胃の奥がじわじわ重くなってくる。
6人並んでモニターを見つめる美咲たちは、もはやチアというより、試験の合否発表を待つ受験生の集団みたいだった。
「たのむでホンマ……」
沈黙を破ったのは紅子だった。
「この試合も落としたら同じ相手に3連敗や。5位との差も、ますます開いてまうで」
その声には、冗談めかした響きがありながらも、ちゃんと切実さが滲んでいる。
さすが、生粋の赤井寺市民であり、レッドブルズ歴も長いリーダーだ。
画面に映るスコアは、9回オモテ終了時点で2対1。現在9回ウラでレッドブルズの攻撃。
わずか1点差とはいえ、負けていることに変わりはない。
さすがにファンも選手も3連敗は避けたいと思っているのだろう。球場全体に漂う「嫌な緊張感」が、モニター越しでも伝わってくる。
……正直、心臓に悪い。
でも、その瞬間だった。
このイニングの先頭打者である5番バッターが、きれいなヒットを放つ。
白球が外野へ転がった瞬間、控室の空気が一気に跳ね上がった。
「よっしゃ!」
紅子が、思わずガッツポーズ。
美咲も、思わず拳を握ってしまう。
ノーアウト・1塁。
まだ、希望はちゃんと生きている。
隣で夏実が、モニターに食い入るように見つめながら尋ねる。
「紅子さん、ここはベンチ、どんな指示を出すと思う?」
この場面、選択肢は多くある。手堅く送りバントをするのか。小細工せずに強打一択か。それとも意表をついてヒットエンドランか。
「うちはなぁ……」
紅子さんは腕を組み、うーんと唸る。
「下手な小細工せんと、シンプルに打っていったらええと思うんやけどなぁ……」
堅実な性格である美咲は送りバントをするのかな? と思っていたが紅子の意見は違うらしい。
「うん。あたしもそのほうがいいと思う」
そして、紅子と同じくイケイケな性格の夏実は強打に同意するのであった。
ところが。
スカーレット・フレアの面々が固唾を飲んで見守るなか。次の6番打者は、まさかのバント。
コツン、と弱々しく転がった打球は、キャッチャーの前へ。
そして、あれよあれよという間に――ダブルプレー。
「……あ」
控室に、目に見えない“冷気”が流れ込んだ。
「最悪……」
夏実が、ぽつりと呟く。
その声は、まるで心の底から絞り出したため息みたいだった。
さっきまでの盛り上がりが、嘘のようにしぼむ。
まるで、膨らませた風船を自分で針で割ったみたいな気分だ。
それでも、7番打者が意地の二塁打を放つ。
一瞬だけ、また希望が顔を出す。
「これ、送りバントじゃなかったら、今の二塁打で同点になってたんじゃ……」
小さく呟く美咲。
すると、紅子は「言うな。言うな。結果論や」と嘆きの言葉を口にするのだった。
そして、1度でも切れてしまった流れは決して元に戻らず、8番打者はあっさり三振。
スリーアウト。ゲームセット。
「あーあ、負けた。負けた。もうどうしようもないわ。このチーム」
紅子は捨て鉢気味にそう吐き捨てるのであった。




