理由
レッドブルズの劣勢は相変わらずで、スカーレット・フレアの控室には微妙な沈黙が漂っていた。
〝この試合、本当にホーム開幕戦なんだよね……?〟
そんなことを思いながら、美咲は話題を変えることにした。暗い空気をなんとかしたい。
向かいのソファには、スカーレット・フレアのメンバーで双子の姉妹――川端愛依と舞依が並んで座っている。
20歳で、紅子や鏡花の後輩にあたるが、美咲や夏実よりは1年早く入団した先輩だ。
どちらもショートパンツのユニフォーム姿がよく似合うスレンダー体型で、ステージ上では息の合ったシンクロダンスが持ち味。
ぱっと見は見分けがつかないが、落ち着いた印象の姉・愛依と、明るくて少し軽めの口調の妹・舞依で、よく聞けば声のトーンが微妙に違う。
美咲の中では、「仲良し美人姉妹コンビ」というイメージだった。
「愛依さんと舞依さんは、どうしてスカーレット・フレアに入ったんですか?」
美咲がそう尋ねると、ふたりは顔を見合わせ、同時ににこりと笑った。
「わたしたちも紅子さんほどじゃないけど、野球が好きだし」
先に口を開いたのは姉の愛依。
「あと、ダンスとか歌も好きでね。ショービジネスの世界にも興味あったから、それでチアっていいなって思って」
舞依が軽い調子で補う。
――うん、真っ当。すごく真っ当。
美咲はホッとしながら相槌を打った。
「でも、関西には『阪陣ライガース』とか『関急』ブレイヴスとか、有名チームが他にもありますよね?
それでもレッドブルズを選んだのは、どうしてなんですか?」
すると、姉妹はぴたりと動きを止めた。
笑顔が一瞬で引きつり、視線を落とす。まるで「地雷を踏まれた」ような沈黙。
「そりゃあ……」
愛依がぽつりとつぶやく。
「わたしたちも、チアをやるなら人気チームのほうがいいに決まってるから、ライガースとかブレイヴスのオーディション受けたんだよ」
「でも、ふたりとも落ちちゃってさ」
舞依が苦笑しながら肩をすくめる。
「で、最後の最後に“もうここしかないか”って感じでレッドブルズ受けたら……受かっちゃったんだよね」
――あっ、思ったより生々しい。
美咲は曖昧な笑みを浮かべた。
「あっ、そうなんですね。す、すいません……」
気まずさのあまり、なぜか自分が謝ってしまう。ちなみに、阪陣ライガースとは、兵庫県西宮市に本拠地に置く、セ・リーグに所属する超人気球団。関急ブレイヴスはレッドブルズと同じパ・リーグのチームで、人気こそはライガースに劣るものの、かつては日本シリーズを3連覇したこともあるという歴史と実績を兼ね揃えた老舗球団だ。この3球団は、同じ関西圏に本拠地を持ち、さらに親会社が私鉄という共通点も多い事から比較の対象になることが多い。
紅子が「えっ、自分らそうやったんか?」と目を丸くしている。どうやら初耳だったらしい。
姉妹は同時に「ま、縁ってやつですよ」と苦笑した。
「結果的には、ここに入れてよかったですけどね」
「ほんとほんと。意外と楽しいし」
フォローしてるのかどうか微妙なテンション。
〝『意外と楽しい』って言い方、慰めにしてはトゲがあるなぁ……〟
美咲は心の中でそっとツッコミを入れつつ、笑顔を維持した。
紅子は腕を組んでうんうんと頷く。
「まあ、人生そんなもんや。落ちた先に咲く花もあるっちゅうこっちゃ」
本人は名言のつもりで言ってるのだろうが、内容は雑だ。
そんな微妙な空気の中。
「鏡花さんはどうしてレッドブルズのチアに入ったんですか?」
美咲が質問を向けると、鏡花はゆるやかに小首を傾げ、ふっと微笑む。
その仕草ひとつで、空気がまるで香り立つように変わる。
「それはね――秘密❤」
その唇の動きが、まるでバラの花びらが開くようだった。
美咲はその尋常ではない色気と可愛らしさを兼ね揃えた表情に、思わず息をのむ。
何も言葉を返せない。返したら、この幻想が壊れてしまいそうだった。
――この人、なんなんだろう。本当に、ただのチアリーダー?
鏡花に対する疑問と興味が、またひとつ深まっていくのを、美咲は自覚していた。




