愛の形?
夕暮れの光がグラウンドの芝を淡く照らし始めたころ、スカーレット・フレアの試合前パフォーマンスが始まった。
美咲は深呼吸し、音楽に合わせてステップを踏む。
オープン戦の時はただ無我夢中で踊るだけだったが、今日は違った。観客席のざわめきや視線を感じながら、自然と笑顔が出る。踊ることの楽しさと、誰かに見てもらえる嬉しさが同時に胸に広がっていった。
舞い終えたとき、拍手と歓声が重なり、風が頬を撫でた。美咲は小さく息を吐き、達成感の中に身をゆだねた。
控室へ戻る通路で、紅子がすでにテンション高めに口を開いた。
「いや~、夏実はこの1か月でほんま上手なったな!」
「オープン戦のときなんか、全然振り付け覚えてへんくて、『よくこんなんでぶっつけ本番で出てきたな』って思うたもん」
夏実は全く悪びれず、へらりと笑って返す。
「あたし、完璧に振り付けを覚えて踊れるとは言ったけど、それは『美咲が』って話で、自分が踊れるとは一言も言ってないもん」
「典型的屁理屈!」
紅子のツッコミに、控室は笑いに包まれた。
紅子はすぐに腰に手を当てて言い直す。
「ま、ええわ! 今日はホーム開幕戦! 新生スカーレット・フレアの初お披露目も終わったし、あとはチームが勝つだけや!」
「おーっ!」
全員で拳を上げ、士気は最高潮。
……しかし、その数十分後。
「なんやねん、これ……」
紅子の呟きが、控室の空気を凍らせた。
まだ1回の表だというのに、すでにノーアウト満塁のピンチ。ピッチャーの顔は真っ青、内野手たちはマウンドでプチ会議中。
画面越しでも、嫌な予感しかしない。
「うわー、開幕戦でこれかぁ。気合い入れて応援してるのに、やる気なくすわ~」
夏実がソファに沈み込む。
「な? 小学生のときにうちが味わった絶望、今わかったやろ?」
紅子が苦笑しながら言った瞬間――カキーン、と乾いた音。
三塁線を破る打球。走者一掃。スコアはあっさり0対3。
観客席の一部がざわつき、やがて……グラウンドに飛んだ。
――メガホン。
――ペットボトル。
――そして怒号。
「うわっ、マナー悪っ!」
夏実が思わず声を上げる。
紅子は呆れたように腕を組み、ぼそっと言った。
「昔はどこのファンも荒くて民度も低かったけど、今どきこんな昭和スタイルの抗議してんの、レッドブルズくらいやで」
美咲は小さく笑って、モニターを見つめた。
――なるほど、伝統芸能ってやつか。
チームが弱いのも、ファンが荒いのも、もはや文化の一部。
「勝てないけど情熱だけはある」って、聞こえはいいけど、たぶんそれ、ただの学習不足だ。
誰かが「根性見せろー!」と叫ぶ声が遠くから響く。
美咲は肩をすくめ、手に持ったタオルをぎゅっと握った。
……まぁ、いろんな形の“愛”があるってことにしておこう。




