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最強帰宅部のまったり異世界旅

作者: たんぺっぺん

「やっべ、また朝帰りしちゃったな。ま、いっか」


佐倉悠真は、自室のベッドに倒れ込むようにして、もはや日常となった異世界からの帰還を果たした。十七歳。高校二年生。そして、生粋の帰宅部。それが、この世界の彼である。


悠真が異世界に転移したのは、一年前の、ごく普通の夏休みの日だった。近所のコンビニにアイスを買いに行った帰り道、気がつけば見慣れない森の真ん中に立っていた。特に召喚されたわけでもなく、神様が出てきたわけでもない。ただ、気がついたらいた、というだけ。


そして、その瞬間に彼は「最強」になっていた。


スキルは無限。魔法は詠唱不要。短剣術は神業レベル。何がどうなってそうなったのかは不明だが、とにかくチート中のチートだ。最初は戸惑ったものの、持ち前ののんびりとした性格で、あっという間に異世界での生活に順応した。


元の世界では、特段やりたいこともなく、放課後はまっすぐ家に帰り、ゲームをしたり、漫画を読んだりする毎日。そんな彼にとって、広大な異世界は、まさに格好の「暇つぶし」の場となった。


「今日はどこに行こうかな」


悠真は地図を広げる。この地図も、転移した時に持っていたスマホに、なぜか異世界の詳細な情報が詰め込まれていたものだ。便利すぎて感動した。


行き先は、先日立ち寄った街の酒場で耳にした「エルフの森」に決めた。なんでも、とても美しく、神秘的な場所らしい。


エルフの森は、噂に違わぬ場所だった。高く伸びた巨木が空を覆い、木漏れ日が幻想的な光の筋を作る。空気は澄み、鳥のさえずりが心地よく響く。


「いやー、来てよかったわー。マイナスイオンってやつ?」


悠真は短剣を腰に下げたまま、のんびりと森の中を歩く。彼が持つ短剣は、この世界で手に入れた何の変哲もないものだが、彼が握れば神の短剣と化す。だから、どんな武器でも、彼にとっては最強の武器だった。


森の奥へ進むと、遠くから争うような声が聞こえてきた。悠真は、騒ぎを好まない性分だが、困っている人がいるなら助けてやるのも悪くない、と思った。


茂みを掻き分けると、そこには数人のゴブリンが、一体の若い獣人を囲んでいた。獣人は、狐の耳と尻尾を持つ少女で、ゴブリンの棍棒に怯え、地面に蹲っている。


「おいおい、こんなとこで弱いものいじめかよ」


悠真が声をかけると、ゴブリンたちは一斉に彼の方を向いた。


「なんだ、お前は!邪魔するな!」


ゴブリンの一匹が、棍棒を振り上げて襲いかかってきた。悠真は軽く身をかわし、手にした短剣を一度だけ振るう。閃光のような速さで、ゴブリンの棍棒が真っ二つにされ、その衝撃でゴブリンは後方に吹き飛んだ。


「ひぃっ!?」


残りのゴブリンたちは、その光景を見て顔色を変えた。彼らは悠真の強さが異常なものであることを察し、一目散に森の奥へと逃げ去っていく。


「やれやれ、これだから力加減って難しいんだよな」


悠真は肩を竦め、蹲る獣人の少女に歩み寄った。


「大丈夫?怪我はないか?」


少女は顔を上げ、大きな瞳で悠真を見つめた。警戒と、少しの驚きがその中に見て取れる。


「あ、ありがとうございます…助けてくださって…」


尻尾を震わせながら、か細い声で礼を言った。


「気にするな。こんな森の奥で何してるんだ?」


「わたし…村から薬草を摘みに来たんです。そしたら…」


少女は「ミャオ」と名乗った。彼女の村は、この森のさらに奥にあるらしい。悠真は、道案内も兼ねて、ミャオを村まで送っていくことにした。


獣人の村は、森の中に隠れるようにひっそりと佇んでいた。村人たちは皆、ミャオと同じように狐の耳や尻尾を持つ、温厚そうな人々だった。悠真は、村長に丁重に礼を言われ、村に一泊することになった。


夕食は、村でとれた新鮮な山の幸を使った料理だった。どれも素朴だが、温かみのある味だ。


「悠真様は、一体どのようなお方なのですか?」


村長が、食後に尋ねてきた。


「んー、ただの旅人っすよ。世界を見て回ってるだけです」


悠真は適当に答えた。自分の能力について詳しく話しても、混乱させるだけだろうと思ったのだ。


「しかし、あのゴブリンを一瞬で…あなた様は、並の人間ではございませんね」


村長は聡い人だった。悠真は苦笑いを浮かべるしかない。


翌朝、悠真は獣人の村を後にし、再びエルフの森の探索に戻った。ミャオが、村の近くにあるという、エルフがよく訪れる泉の場所を教えてくれたのだ。


泉は、エメラルドグリーンの水を湛え、周囲には光り輝く花々が咲き乱れていた。神秘的な雰囲気に、悠真は思わず息を呑む。


その泉のほとりで、悠真は一人のエルフに出会った。透き通るような肌、流れるような銀色の髪、そして、長い尖った耳。彼女は、泉の水を汲んでいた。


「こんにちは」


悠真が声をかけると、エルフの少女は振り返った。警戒する様子もなく、ただ静かに悠真を見つめる。


「旅人の方ですか?」


その声は、森の木漏れ日のように優しかった。彼女は「シルフィ」と名乗った。


シルフィは、この森の守人だという。悠真は、シルフィに連れられ、エルフの集落を訪れた。エルフたちは皆、自然と調和して暮らしており、悠真は彼らの文化に触れることができた。


数日間、エルフの集落に滞在した悠真は、彼らの教える魔法に興味を持った。悠真の魔法は詠唱不要だが、エルフたちの魔法は、自然の力を借りる、もっと精神的なものだった。悠真は、彼らの教えを吸収し、自分の魔法に深みを加えていった。


「悠真様は、私たちの魔法を、瞬く間に理解されましたね。一体、どのような修練を積んでこられたのですか?」


エルフの長老が、驚いたように尋ねた。


「んー、特に何も?強いて言えば、ゲームで魔法使いのキャラばかり使ってた、とか?」


長老は、訳が分からないといった顔で首を傾げたが、悠真は気にも留めなかった。


エルフの森での滞在は、悠真にとって、とても充実した時間だった。彼は、ここでもう少しゆっくりしてもいいと思ったが、好奇心が彼の背中を押した。もっと広い世界を見てみたい。


エルフの森を後にした悠真は、地図を頼りに、次の目的地を目指した。それは、噂に聞く「魔族の領地」だった。危険だと言われている場所だが、悠真には関係ない。むしろ、面白そうだとすら思っていた。


魔族の領地は、エルフの森とは対照的に、荒涼とした大地が広がっていた。空は常に暗く、不気味な建物が点在している。


「うわー、なんか禍々しい雰囲気だなー。でも、こういうのも悪くない」


悠真は、とある魔族の集落に足を踏み入れた。すると、すぐに数体の魔族が彼を取り囲んだ。彼らは、鋭い爪と牙を持ち、威圧的な雰囲気を放っている。


「人間め、何しに来た!ここは貴様らが来る場所ではない!」


魔族の一体が、唸るような声で威嚇してきた。


「ん?別に。ちょっと遊びに来ただけだけど?」


悠真がそう言うと、魔族たちは呆れたような顔をした。彼らは、人間が恐れて近づかないこの場所で、悠真のような人間に出会うのは初めてだったのだ。


「遊びだと?貴様、死にたいのか!?」


「いや、死ぬ気はないよ。もしよかったら、この辺の美味しい店とか、教えてくれないかな?」


悠真の問いに、魔族たちは顔を見合わせた。そして、その中の一体が、低い声で笑い出した。


「面白い人間だ。いいだろう、案内してやる。ただし、我々に迷惑をかけたら容赦しないぞ」


悠真は、その魔族についていくことにした。彼の名は「グリム」。腕に自信のある魔族の戦士だった。


グリムは、悠真を魔族の集落の酒場に連れて行った。そこには、様々な魔族がたむろしており、人間である悠真の登場に、一瞬酒場が静まり返った。しかし、グリムが悠真の強さを簡潔に説明すると、魔族たちは一転、興味津々で彼を取り囲んだ。


「お前、本当に俺たちとやり合えるのか?」


「試しに一発、食らってみろ!」


魔族たちは、次々と悠真に挑みかかってきた。悠真は、彼らの攻撃を軽くあしらい、時には魔法で、時には短剣術で、圧倒的な実力を見せつけた。しかし、彼は決して相手を傷つけず、あくまで「じゃれあい」の範疇に留めた。


「くっそ!本当に強いな、お前!」


「おい、もう一杯付き合えよ!」


魔族たちは、悠真の強さに感嘆し、やがて彼を仲間のように受け入れた。酒場では、夜通し酒が酌み交わされ、悠真は魔族たちの豪快な文化を満喫した。


魔族の領地での数日間は、悠真にとって新鮮な体験だった。彼らは見た目は恐ろしいが、一度心を許せば、義理堅く、熱い魂を持っていた。


「また来いよ、人間!」


グリムが、別れ際にそう言った。


「おう、またな。今度は土産話を持ってくるわ」


悠真は手を振り、魔族の領地を後にした。


悠真の異世界での旅は、まだ始まったばかりだ。彼は、これからも世界のあちこちを旅し、様々な種族と出会い、彼らとの交流を深めていくだろう。


「次は、どこに行こうかな。砂漠の街とか、空に浮かぶ島とか、面白そうだよな」


悠真は、青い空を見上げながら、次の目的地に思いを馳せた。彼のまったりとした最強の旅は、これからも続いていく。


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