目を閉じれば触れてくる
最近、気づいたことがある。
リオン様は――どうやら、私が“うたた寝している姿”を気に入っているらしい。
この日も、王宮の一角。
午後の妃教育を終えたあと、少しだけ息抜きに立ち寄ったサロンでのこと。
昼下がり、庭に面したサロンの窓際。
差し込む陽の光が心地よくて、ぼんやりと紅茶を飲んでいたはずなのに、いつの間にか眠ってしまう。そんな日が増えた。
……そして、目が覚めると、決まってリオン様がいる。
まるで、最初からそこにいたかのように。
ソファの傍らで、私を覗き込むように腰を下ろし――そして、そっと唇を落としている。
最初は、おでこ。
次はまぶた。
それから、頬。
そして……唇の端。
キス、キス、キス――
まるで花びらみたいに、軽く、優しく。
けれど確かに私の心をくすぐる、目覚ましのキスたち。
「……もぅ、また……寝てただけなのに……」
頬を染めて言えば、リオン様は決まって、少し悪戯っぽく笑うのだ。
「寝顔が可愛いのが悪い」
そんな理不尽な言い訳、どこで覚えてきたの……。
でも、怒れない。
だって、その声が、表情が、指先が――
ひどく、優しいから。
「寝てる間にそんなにキスされてたなんて、ずるいです」
「じゃあ、起きてたらいいの?」
「……それは」
言いかけて、私は顔を伏せる。
胸の奥が、じんわり熱くなっていくのがわかる。
(……ずるい、本当に、ずるい……)
(でも、起きてると恥ずかしくて……)
(……なのに、そんなこと言われたら――)
そのうち、寝込みを襲われるんじゃないかしら。
そう思った瞬間、胸が跳ねた。
もし本当に、唇だけじゃ済まなかったら……?
もっと深く、もっと強く、求められてしまったら――
(……嫌じゃない)
私は、たぶん拒めない。
それどころか、きっと、受け入れてしまうと思う。
むしろ、そうなってほしいと……ほんの少し、期待している自分がいる。
――ああ、もう……!
なんで、こんなに甘いの。
どうして、こんなに心をかき乱すの。
眠って、目を覚まして。
夢か現か分からない中で、重なるキスに溺れて。
優しさに包まれて、心の奥までほどけてしまう。
「……リオン様」
「ん?」
「……私、今度は……寝たふり、してみようかしら」
そんなことを言ってみたら、リオン様は少しだけ驚いたように目を見開いて――そして、静かに笑った。
「それじゃあ、遠慮なく」
その言葉に、胸が跳ねる。
リオン様は、指先でそっと私の頬をなぞり――小さく囁いた。
「……次は、もっと、ゆっくり……ね?」
その声が、熱を帯びて胸の奥に落ちてくる。
指先の温度も、囁く声も、すべてが甘くて、くすぐったくて――息が詰まりそうになる。
きっと、わたしは“寝たふり”なんて、もう二度とできない。
だって、こんなふうに優しく触れられて、求められて――
拒めるわけ、ないじゃない。
それでも胸は、くすぐったいほどの幸福で、静かに満ちていく。
これは、目が回るほど甘くて――
恋という夢の続きを、ゆっくりと見ているような時間。
うたた寝の夢の続きを、どうか、あなたと――
ずっと、見ていたい。現実の中で。
彼女は、前世の因縁にもきちんと向き合って、自分の足で帰ってきた。
重すぎる過去を背負ってなお、迷わず“今”を選んだ彼女を――
リオンは、ただ静かに受け止めてくれて。
……そして今では、うたた寝すら愛おしくて仕方ないらしく、
キスで起こすことに全神経注いでる(!?)
「大好きだよ」って言われた瞬間、全身で幸せを噛みしめる男――
リオン、最高では??
読んでいただき、ありがとうございました♪
またお会いしましょう!




