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【本編完結済】前世を思い出したら恋心が冷めたのに、初恋相手が執着してくる 〜そして、本当の恋を知る〜  作者: ゆにみ
最終章

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40/50

39、それぞれの道

 エリアスの告白が終わると、氷の城を満たす冷たい静寂が、ひときわ深く二人を包んだ。


 レティシアは瞳を閉じて、その言葉を胸の奥に刻み込むようにゆっくりと呼吸を整えた。


 心が痛んだ。けれど同時に、ようやく触れることのできた彼の本音に、安堵にも似た想いが芽生えていた。



 「……今まで、本当に……辛かったのね」



 その声は、氷の城の壁を優しく溶かすように、穏やかで柔らかかった。


 レティシアはエリアスの頬に手を伸ばし、そっと触れる。



 「ごめんなさい……あなたがそんな思いを一人で抱え続けていたなんて……。

 ……でも、話してくれてありがとう。ようやくあなたの心に触れられた気がするわ」




 エリアスは目を伏せ、震える唇で微かに言葉を呟いた。




 「……君が……私はレティシアだと、言い切ったあの時のこと……今でも……心に残ってる」


 そして、かすかに笑みを浮かべる。



 「あの時の俺は、アリアが……君が……離れるんじゃないかって、怖くて……焦っていたんだ。だから……強引な真似をしてしまった。今は……反省している。君を困らせることをしてしまったって、わかってる」



 レティシアはそっと頷く。

「ええ……確かにエリアス様、あなたは許されないことをしたわ。……でも……許すわ。あなたの想いを知った今、責める気にならないもの」


 「……ありがとう、レティシア……」


 エリアスの声は弱く、けれど確かな温かさを帯びていた。


 一瞬、二人の間に静けさが降りる。


 けれど、レティシアは目を伏せ、そっと言葉を重ねる。

 

 「でも……もう、私たちは別の道を歩くしかないのだと思う」



 エリアスはゆっくり顔を上げ、苦しそうに笑う。


 「……わかってる。君が誰かに選ばれるのを……見守れるほど、俺は強くない......、でも……君が前を向いて生きていくのなら……それでいい」


 かすれた声は、震えながらも真っ直ぐだった。



 レティシアは小さく頷き、そっと言葉を置く。

「私は……あなたのすべてを、受け止めることはできないかもしれない。……でも、過去のあなたも、今のあなたも……ありがとう。大切な人だったわ」



 氷の城に響いた二人の声は、静かな余韻を残しながら、まるで遠い夢のように溶けていった。

 レティシアは、エリアスの瞳を見つめたまま、ゆっくりと小さく息を吸い込む。

 胸の奥をぎゅっと締めつける痛みと同時に、それでもやわらかな温かさが広がっていくのを感じていた。



「……でも、あなたのことを……忘れることはないわ」


 小さな声で紡がれたその言葉は、氷の冷たさをも優しく溶かすように響いた。



 「たとえ道は別でも……私の心のどこかには、きっと、ずっとあなたがいる。……それだけは、信じてほしいの」


 エリアスの瞳が微かに揺れた。けれどその瞳には、もう悲しみだけではなく、穏やかな光が宿っていた。


 「……ありがとう。君にそう言ってもらえただけで……救われるよ」


 レティシアは、彼のその微笑みをそっと心に刻む。



 きっと、もう同じ未来を歩むことはないのだろう。

 今世では、きっとそれぞれの道を歩んでいく。


 けれど、前世で夫婦だった二人が、今は別の道を選ぶとしても——

 カイルとの日々も、ここまでたどり着いた想いも、決して無駄にはならないと信じていた。


 

 アリアではなく、レティシアとして隣に立ちたいと心から願う人は、彼ではない。

 でも、彼が私の中で大切な人だったことは変わらない。

 


 氷の城の窓の向こうに、淡い月光が降り注いでいた。


 その光に照らされながら、レティシアはそっと微笑みを返し、心の中でそっと祈る。


 「……どうか、あなたも、あなたの道を見つけて。あなたが幸せでありますように……」



明日完結まで一気に投稿します!

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