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【本編完結済】前世を思い出したら恋心が冷めたのに、初恋相手が執着してくる 〜そして、本当の恋を知る〜  作者: ゆにみ
最終章

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39/50

38、失われた想い

 城を包む氷の冷たさが、どこか遠い世界のように感じられた。

 それは、二人がようやく向き合い、過去を語る時が訪れたからなのかもしれない。


 静寂の中、私は真剣な眼差しでエリアスを見つめる。

 彼の言葉を一言も逃さないように、胸の奥に覚悟を宿していた。


 やがて、エリアスは口を開く。

 その声には、これまでと違う、どこか懐かしい響きがあった。


 「()()……大好きな君を最後まで支えようと必死だった。……最期の時が近いことも理解していたつもりだった。だけど……君を看取った後……あまりのショックに、魔力が暴走してしまったんだ」



 その言葉が胸に刺さり、私の呼吸が一瞬止まる。

 震える手で胸を押さえながら、カイルの面影とエリアスの言葉が頭の中で絡み合って、混乱と痛みが押し寄せてきた。


 (......そんなことが、あったなんて)


 まるで、心の奥底が震えながら崩れていく音が聞こえるようだった。

 エリアスは、ゆっくりと言葉を紡いでいく。



 「僕は……闇の魔法師で……精神魔法を扱えたから……多分、精神的なショックが引き金になったんだと思う。それは他の人にまで影響を及ぼすほどで……自分自身でも制御できなくて……焦っていた」


 思わず絶句した。

 その時の彼の様子を想像するだけで、胸が苦しくなる。

 苦しげに目を閉じるエリアスを見て、思わず手を伸ばしかけるが、胸の前で止まる。


 「そんな時、あの魔導書が僕の目の前に現れた」


 エリアスは一瞬、言葉を飲み込むように沈黙した。

 瞳の奥で、何かを必死に堪えているのが見えた。


 「僕は……君への想いを、そのまま魔導書に閉じ込めるしかなかったんだ。……けれどそれと引き換えに……僕は、君を想う気持ちそのものを……失ってしまった。残ったのは、空っぽな自分だけだった」


 「......カイル.........」


 彼の言葉が、胸の奥で鈍く響く。

 “空っぽ”──その孤独の深さに、言葉を失う。


 脳裏に、彼を置いていってしまった過去が思い起こされる。

 彼がどれほどの代償を払って、あの日を乗り越えようとしていたのか。

 その想いの重さに、胸が締めつけられ、涙がこぼれそうになる。


 けれど、ただ静かに、彼の瞳を見返す。

 そこには痛みと共に、まだ希望の灯が揺らめいているのを感じたから。

 彼の失ったものの大きさを受け止めながら、そっと彼の痛みを抱きしめたいと思ったのだ。



 「それからの僕は……ただの抜け殻だった。君の記憶は確かにあったのに……君を愛していたはずなのに……その想いが思い出せなくなって……ただ……生きているだけだった」


 エリアスの声が震え、こぼれる涙は止まらなかった。

 その涙のひとつひとつが、彼の苦しみと孤独を物語っているようだった。


 「だから……レティシア……アリアのことを思い出した瞬間から、もう……抑えきれなくなったんだ。本当に……ごめん。結局、僕はアリアの死を……君の死を……受け入れられていなかっただけなんだと思う」


 深く頭を垂れるその姿に、言葉が詰まる。

 けれど、彼の罪悪感の深さを前に、私はただ黙ってそっとその手を握った。

 その手の震えが痛いほどに伝わってくる。


 「本当にごめん……君には……迷惑をかけた……」


 その静かな言葉に、レティシアの胸の奥に温かな感情がゆっくりと広がっていった。


 確かに彼は、私を閉じ込め、許されないことをした。

 けれど、その行動の裏に隠された感情を知ってしまった私は、もう彼を責める気にはならなかった。

 それ以上に、彼にそうさせてしまった申し訳なさが込み上げてくる。


 でも今はただ、彼の抱える苦しさを分かち合いたいと思った。

 

 レティシアは、そっと息を吐き、決意する。


 次に彼にかける言葉は、もう決まっていた。


 

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