34、魔導書が示す先
馬車でレティシアが襲われ、連れ去られた――その知らせを受け取ったとき、頭の中が真っ白になった。
騎士が息を切らせて報告を続ける。
「……襲撃のあと、調べましたが、クラウゼ公爵家の従者たちが“何者かが連れ去った”と証言しております。しかし、連れ去られた痕跡が一切ないのです」
まるで、その場から跡形もなく消えたかのように。
「おそらく、瞬間移動の魔法を使える魔法師の仕業かと……」
魔法師――今、この国では数少ない存在だ。
だからこそ、誰の仕業かも限られるはずだが、証拠がなくてはどうにもならない。
僕は黙り込み、しばし考え込んだ。
___魔法を扱える者は限られている。誰がこんなことを……。
ひとまず、目の前のことからだ。
「調査を続けてくれ」
そして声を低くして続ける。
「それから、この件は絶対に口外するな。襲われた噂が広まれば、レティシアの名誉に関わる。罰則も辞さないことを、関係者には必ず伝えておけ」
言い終わると同時に、祈るように心の中で呟いた。
___どうか……無事でいてくれ。レティシア。
それから三日が過ぎた。
音沙汰は一切ない。
……正直、エリアス大公が怪しいと踏んでいる。
こっそりとノルベルト大公家に探りを入れさせたが、レティシアは見つからなかった。
大公を呼び出し、何か知っているか尋ねても――あの男は知らないとだけ答えた。
けれど……僕の勘が告げている。エリアス大公が、何か隠しているはずだと。
でも証拠はない。レティシアも見つからない。
焦りだけが、胸を焼いていく。
そんな時だった。
___闇の魔導書の核源が反応していることに気づいた。
慌てて魔導書保管庫へ赴き、魔導書を手に取る。
ふわりと浮かび上がり、ゆらゆらと淡い光を放つ。まるで、自分の意思を持つかのように__。
「……もしかして、レティシアの居場所を知っているのか?」
呟いた瞬間、魔導書は強く光を放ち、動き出した。
慌てて移動魔法を使い、魔導書を追う。
そして___たどり着いた場所は、何もない草原だった。
「……ここは?」
何もない。ただの草原が、風に揺れているだけだ。
それなのに、魔導書は光を帯びながらふわふわと漂い、まるで道を示すかのように進んでいく。
僕は迷わず後を追った。
そして、ある地点に差しかかったとき、魔導書はピタリと止まった。
ここ……なのか?
訝しみながらも、ためらわずに手を伸ばす。
すると、指先にひやりとした冷たさが触れた。
その瞬間――魔導書が眩いほどに強く光を放ち、目の前に現れたのは……氷の城。
こんな場所に、一体なぜ……?
けれど確かに、ここに……レティシアがいる気がする。
迷わず、城の中へと足を踏み入れた。
(待ってて、レティシア……!)
必ず君を迎えにいく。
次回はレティシア視点に戻ります。




