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【本編完結済】前世を思い出したら恋心が冷めたのに、初恋相手が執着してくる 〜そして、本当の恋を知る〜  作者: ゆにみ
第3章

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28、近づく距離

 パーティーの華やかな喧騒からそっと抜け出し、リオンとレティシアは夜の庭園へと足を踏み入れた。



 夜風はほんのりと甘い花の香りを運び、遠くに流れる音楽がかすかに聞こえてくる。

 祝宴の熱気とは別世界のように静かなその場所には、月明かりが柔らかく降り注ぎ、咲き誇る花々がほの白く揺れていた。



 リオンはレティシアの手を優しく引き寄せるようにして歩を進める。緊張とときめきが胸を満たすその瞬間、心臓の音が夜の静寂に溶け込むように響く。小さな灯りに照らされた二人の影が、まるで寄り添うように重なっている。



 その一瞬一瞬が、これまでよりずっと近づいた距離を感じさせ、二人だけの秘密の時間を告げていた。



 庭園の奥へと進むと、星空が広がる開けた場所が現れた。

 夜空は深い藍色に染まり、無数の星々が瞬いている。レティシアはその美しさに思わず息をのんだ。




 「……とても綺麗」


 小さく零れた言葉に、リオンは優しく微笑む。


 「そうだね、でも……」




 ふいに、その視線が夜空からレティシアに向けられる。


 月明かりに照らされたリオンの横顔は、穏やかでいて、どこか切なさを孕んでいた。



 「こうして君と一緒に見ていると――」


 ひと呼吸おいて、リオンは静かに言葉を継ぐ。



 「どんな景色も、特別に思えるんだ」


 

 その低く優しい声が、夜の空気を震わせるように、真っ直ぐにレティシアの胸に届いた。



 「……っ」



 息をのんだレティシアは、恥ずかしさに頬を染めながら、思わず視線を逸らす。


 けれど、リオンはそっと彼女の手を取り直した。



 「大丈夫。恥ずかしがらなくていいよ」



 その手の温もりが、優しく包み込む。



 「君の隣にいられるだけで――もう、十分だから」


 

 その真摯な言葉に、胸がきゅっと締めつけられる。


 ほんのりと甘い夜風が、静かに吹き抜けていく。

 まるで二人の距離を、そっと後押しするかのように。



 しばらくの沈黙の後、レティシアはそっとリオンを見つめ返す。

 その瞳の奥に、自分だけを映す光を見つけて、思わず笑みをこぼす。



 「……ありがとうございます、リオン様」



 震える声でそう告げると、リオンもまた少し照れたように目を細め、優しい笑みを浮かべた。

 その瞳に、レティシアは自分だけを映しているような深い輝きを感じて、胸が熱くなる。


 

 ふいに、彼の手がそっと彼女の肩に触れた。

 まるでためらうように滑る指先が、静かに彼女の輪郭をなぞる。

 レティシアは驚きに小さく息を呑むが、その優しい仕草に、心がくすぐられるように震えた。



 「……レティシア」



 低く囁くその声には、確かな覚悟と、どこか切なさが滲んでいた。

 彼の瞳が彼女を真っ直ぐに見つめ、その視線は離れることなく、絡み合う。

 月明かりに照らされた二人の視線は、まるで言葉以上に深い想いを交わすように静かに揺れていた。



 リオンはそっと彼女を引き寄せるように、片腕で包み込む。

 

 夜風に混じる花の香りと、彼のぬくもりを含んだ匂いが、ふわりとレティシアを包んだ。


 思わず瞼を伏せかけたとき――


 リオンが、そっと彼女の頬に触れた。

 そのまま、優しく覗き込むように目を合わせる。




 「……君の隣にいると、胸の奥が、こんなにも熱くなるんだ」


 彼の声は、深く落ち着いていて、それでいてどこか震えていた。


 「どうしようもなく……君が、愛しいと思う」




 頬に触れるリオンの吐息が、くすぐったくて切ない。

 視線を絡めたままのふたりは、まるで時間が止まったように、そのひとときを分かち合っていた。



 レティシアは、胸の奥が甘く痺れるような感覚に包まれた。

 彼の鼓動が近くにあって、自分の心臓が、それに重なるように高鳴っていく。



 「リオン様……」



 かすれるように名前を呼んだ声が、夜風に溶けて消える。


 恥ずかしさに頬が熱を帯びるのを感じながらも、視線を逸らせない。


 けれどリオンは、そんな彼女の想いをすべて受け止めるように微笑んで、

 そっともう片方の手を伸ばし、レティシアの髪を優しく撫でた。



 「……君のその顔を見るだけで、全部報われる。

 どんな言葉より、君の笑顔が僕の支えなんだ」



 その言葉に、胸がいっぱいになって言葉が出てこない。

 夜空の星々が二人を祝福するように瞬く中、リオンの腕に抱かれたレティシアは、ただその温もりと視線に、すべてを委ねていた。

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