25、奪われた愛と影
婚約の報せを目にしたあの日から、胸の内はひどく掻き乱されていた。
リオン殿下とレティシアが婚約……
何故だ? 何故だ……何故だ何故だ何故だ?
何故………!!!!
あの男に、俺の愛しい人を奪われるなんて……。
そんなはずはない。彼女はアリアだ。間違いない。
俺の前世の妻であり、俺が命を懸けて愛した唯一の人だ。
俺の心は彼女のものだし、彼女もまたそうであるはずだ。
あんなに愛し合っていた。……そうだろう?
あれほど深く結びついていたのに。
なのに……これは裏切りなのか? 彼女はもう、俺を選ばないというのか?
……いや、違う。
一緒に魔導書に巻き込まれ、王宮の地下空間へ落ちた時___
俺がアリアの名を口にした瞬間、確かに彼女は反応していた。
全部を思い出していなくても、俺がカイルだと……きっと薄々気づいているはずだ。
それなのに、あの男と婚約を結ぶだなんて……許せるはずがない。
そんな思いがぐちゃぐちゃに絡み合い、エリアスは訳もなく街を歩いていた。
見知らぬ人々の声が飛び交う雑踏に身を置けば、胸の中のざわめきが少しだけ和らぐ気がした。
意識すらしないまま、ただ足を前に運んでいた。
だが、ふと目の前に____あの紫の髪をした女性の姿が見えた。
(……レティシア……!!)
血の気が引いて、次の瞬間には全身が熱を帯びる。
あの男の許嫁になどさせない。誰がなんと言おうと……彼女は俺のものだ。
思考よりも早く、足が勝手に彼女へと向かっていた。
この手で確かめたい。この目で彼女を見て、声を聞きたい______。
エリアスは、一歩一歩、彼女の背へと近づいていくのだった。
***
リオン様との婚約を決めてから、レティシアは王宮に挨拶へ赴いていた。
心の奥底では、エリアス様との前世に繋がるような奇妙な絆を感じている。けれどそれ以上に、あの日リオン様が見せた真摯な想いが胸を打ったのも事実だった。
彼は告白の後、私に言ってくれた。「僕が王子だからって気にしなくていい。嫌なら断ってほしい。君の気持ちを大切にしたいんだ」と____。
その言葉に、どれほど救われたか。リオン様なら、私のすべてを、前世も含めて丸ごと受け止めてくれる気がした。だからこそ、婚約を受け入れた。
そして、リオン様に惹かれ始めている自分がいることも、確かな気持ちだった。
挨拶を終えて王宮を出ると、なぜかすぐに屋敷へ戻る気にはなれなかった。
なんとなく気分を落ち着けたくて、城下の街をひとり歩いてみることにした。
喧騒に紛れながら、あれこれ考え込む。リオン様との婚約、エリアス様との過去、そして私の心の行方__。
そんな思索の最中、不意に腕を掴まれた。
「……っ!?」
振り返る間もなく引き寄せられ、顔を上げると氷のような瞳が真っ直ぐに見下ろしていた。
「……エリアス……様……?」
護衛が気づく間もないほど素早く、エリアス様が私を攫うように腕を掴んでいた。
その瞳に浮かぶ、激情と哀しみの色。
思わず息を呑む。言葉が出ないまま、ただその視線に釘付けになるしかなかった。
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