散歩
「おし、悠太アイスクリーム食べに行こう。奢ってあげるよ。」
唐突に食べたくなったが、彼氏もいないし、呼び出せる友達もいない。
「なんで僕なの?ゆみ姉友達ゼロ?」
「うるさい。子供は黙って喜びなさいよ。可愛くないわ。」
最近の小学生はこんな感じなのだろうか。全くもってうちの弟は大人びていて甘やかし甲斐がない。
「行かないっていっても、無理やり連れてくから。準備して。」
悠太は洗濯物をたたむ手を止めて、ドタドタと階段を駆け上がった。
「うんとおしゃれな服にしなさいよ。」
今日は暑い。遊びに行く気力を容赦なく奪ってくる。午前中はぐったりしていたが、負けた気がして急に外に出ようと思い立ったのだ。
家には私と悠太しかいないので、蝉の声がよく聞こえる。
母と父は2年前に交通事故で他界した。突然の出来事に葬式の最中に、親戚に愛想を振り撒く余裕のあるほど、何もわかっていなかった。寂しさと責任感に気付いたのは、数日後に生活音が減ったと気付いた時だった。
近くに親戚も住んでおらず、私が高校三年生だというのもあり、金銭的なサポート以外は二人で支え合って生活することになった。
「なかなかイカした服のセンスね。悪くないわ。」
「僕はお小遣い持って行かなくていいんだよね、奢ってくれるんだよね。」
「安心しなさい。食い逃げなんてさせないわ。家族を犯罪者にする予定はないからね。」
涼しい格好だが、外に出た瞬間に汗が吹き出してくる。駅前のアイスクリームの屋台を目指して歩き出した。
「悠太。夏休みの宿題終わったの?」
「バカにしないでよ。もう8月の下旬でしょ。僕、8月の上旬に終わらせたよ。そういうゆみ姉は宿題終わったの?」
「高校には宿題は存在しないのよ。」
ジットとした目で私の顔を見て深いため息をついた。小さい声で「まったく」と呟いていたが私は聞かなかったことにした。
私と違って悠太は計画的でしっかりした子に育った。学校でもその大人っぽさに魅せられる子は多いらしい。毎年バレンタインに大量のチョコレートを貰ってくる。
でも、こんな風に育ったのはきっと頼れる人がいなかったからだ。私が悠太にしてあげることはあるだろうか。ちょっと自信がない。
「ごめんね。」
「何が?」
「いろいろと、よ。」
悠太は白い歯を見せつけながら、ニカっと笑った。
「今日、大雨かもね。」
「やっぱり、あんた可愛くないわよ。」