第1話・異世界で男になって婚約者を奪った女に復讐してやる
とある異世界惑星【エンヴィー】の大陸半島にある【私立ジュラシー学園】の学園都市──そこの、とある闇医者の診療所のベットの上で、彼女は目覚めた。
彼女──ジュラシー学園の姫生徒会長、バッキャロ家の令嬢【バッキャロ・ウ・ルチエ】
ロウソクの明かりが揺らぐ寝室で、木の節目が浮かぶ天井を。
麻酔から覚めたばかりの目で、ぼんやりと眺めていたルチエ嬢は上体を起こす。
体に掛けられていた白いシーツがズレて、シーツの下から裸体が現れる。
まだ、意識がはっきりとしていなかったルチエは不思議な感覚を覚える。
「あっ、あたくしの体ですわね?」
平らな胸、体脂肪が少ない、たくましいアスリート体型の男体。
女性の時とは、まだ違和感を覚える自分の体を確認するように撫で回す。
丸みを帯びた女性の体型とは違う、逆三角形のゴツゴツ感がある筋肉質の上半身。
腹筋が少し隆起した腹部。
肩からの腕も今のルチエ嬢は男の腕だった。
そして、めくった下半身のシーツ下から現れた、女性の体の時には無かった男性のシンボル。
「これが、殿方についている……」
女性のシンボルは外科的な処術で、外部も内部も消滅していて。
今は男性のシンボルのみとなっていた。
意識をシンボルに集中させると、応えるように男のシンボルは上下に反応してくれた。
ルチエは術式前に、闇医者から言われていた言葉と、闇医者が自分の股間を指差して言ったセリフを思い出す。
(本当に動きましたわ……「コイツは動くぞ」)
ルチエが、股間から生えて天井を示す、たくましく血流で硬直した男のシンボルに恐る恐る手を伸ばして確認しようとして。
ためらって手を引っ込めた瞬間、ドアの方から闇医者の男性声が聞こえてきた。
「好きに触ってもいいんですよ、これから付き合っていく自分の体なんですから」
動揺するルチエ。
「い、いつから見ていたのですか!」
「ルチエさまがTS処術をされた、ご自分の股間をじっくりと眺めていた時からですか」
赤面するルチエが自分の体を女から男に作り変えた、闇医者に質問する。
「そう言えば、あなたは別の異世界から。この世界にやって来たと言っていましたね」
「覚えていてくれましたか、わたしが居たのは〝コチの世界〟と自分たちが呼んでいる世界です。その世界の北の地域でわたしの兄は王家に仕える専属医をしています……弟のわたしは、進んだ医学を学ぶためにこの世界に……最初にこの世界を訪れた時は驚きました」
「聞かせていただきたいですわ、何に驚いたのか?」
「『蒸気機関文明世界』『恐竜文明世界』『魔法文明世界』の異なる三つの世界が融合している、奇妙な世界に驚きました」
「わたくしが生まれた時から、この世界でしたから違和感は感じませんでしたわ」
「どうして、こんな奇妙なアチの世界が誕生したのか、コチの世界に里帰りした時に兄に訊ねてみましたら……別の宇宙にいる、どこかのバカが次元空間爆弾とか言う物騒なモノを爆発させた影響で、同じ質量の三つの惑星が融合してしまったのが、この異世界惑星【エンヴィー】です」
ルチエが闇医者に言った。
「わたしも、あなたのコチの世界に行ってみたいですわね」
「やめた方がいいですよ、アチの世界の住人がコチの世界へ行っても、帰ってくることはできません」
「どうしてですか?」
「アチの世界の人間が、コチの世界から、戻ろうとすると体がウ●コになってしまうんです……もしかしたら、このアチの世界でも法則が生きているのかも知れませんね」
「なんて恐ろしい法則」
気を取り直して、闇医者が言った。
「ルチエさまが、ご自分の体を男に変えた目的は、婚約者を奪われた令嬢に復讐をするためでしたね……それで、男になってこの先はどうするんですか?」
「わたくしは婚約者を泥棒ネコに奪われたショックから失踪したコトにしますわ、代わりに生き別れだった双子の弟として、学園に転入して男子寮に住んで、泥棒ネコの『ハラグロ・カレン』に接近して復讐しますわ」
ハラグロ家の可憐な令嬢『ハラグロ・カレン』は、外面は物静かで清純な令嬢を装っているが、その本性は……他人の恋人や婚約者を奪い取る、とんでもない女だった。
「ハラグロ家は、何度も泥棒ネコ女の所業を包み隠してきましたが、それも終わりですわ……あの女の悪行を暴いて、この学園に居られないようにしてやりますわ……ざまぁですわ」
作者が描く、独自の異世界観『コチの世界』の法則
コチの世界【異世界】の住人は、アチの世界【現世界】への往来は可能(ただし、最初に行ったアチの世界のみへの往復しかできず、別のアチの世界へ行くことはできない)
アチの世界の住人はオチの世界に行くコトはできるが、もどって来るコトはできない〔特殊な場合を除いて〕(アチの人間がもどろうとすると、ウ●コになってしまう)
*コチの世界=【異界大陸国レザリムス】